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ドムドムを復活させた“元専業主婦”の社長・藤崎忍さん、「社長、1つも売れません!」を歓迎するワケ

藤崎忍
ドムドムを復活させた“元専業主婦”の社長・藤崎忍さん
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店舗数が激減したことから一時は「絶滅危惧種」とまで言われた「ドムドムハンバーガー」を“再生”しているのは、“元専業主婦”の社長として注目を集める藤崎忍さん(55歳)。同社は2021年、コロナ禍でも前年を上回る売り上げを達成し、今勢いを増しています。その立役者である藤崎さんにインタビュー。専業主婦から109のショップ店員、居酒屋オーナーと異色の経歴を持つ藤崎さんが、ドムドムに関わるようになったきっかけ、そして、腐心したイノベーションを生み出す土壌作りとは? その話には企業に限らず、家庭やコミュニティなどを居心地のいいものにするヒントが詰まっています。【全3回の第2回】

→藤崎忍さんインタビュー第1回はコチラ

私を誘う会社なんて面白いに決まってる

藤崎さんは専業主婦だった39歳のときに、知人に誘われ『SHIBUYA109』にあるアパレルショップ店員に。その後、居酒屋アルバイトを経て、自ら居酒屋をオープンさせた。

「ドムドムハンバーガー」(以下・ドムドム)との出会いは、そんな居酒屋経営が軌道に乗って順調に進んでいる頃だった。2017年5月、ドムドム運営企業の親会社の重役が藤崎さんが切り盛りする居酒屋に通っていた縁で、メニュー開発を手伝ってほしいと声がかかったのだ。

藤崎さんがこれに応え、外部顧問として新しいバーガーやポテトやケチャップを提案すると、熱心な仕事ぶりが認められて今度は社員に誘われる。居酒屋2店舗を経営するオーナーから一社員に。珍しい転身だが、藤崎さんは2017年11月、この提案に乗って入社を決めた。

その2年前、脳梗塞などを患い長期療養中だった夫が亡くなり、一人息子は大学を卒業。家計を第一に考えずに選択できるタイミングだった。

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声をかけてくれたことがうれしかったという
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「当時50歳。一般企業に就職した経験はありません。それなのに誘ってもらえて本当にうれしかったんです。それに、普通の居酒屋の女将さんだった私を正社員に迎えようだなんて、絶対面白い会社に決まっています(笑い)。ユニークだし、勇気がある。そんな会社で働いてみたいと思いました」(藤崎さん・以下同)

入社すると藤崎さんは新店舗の店長、そして東日本の16店舗を統括するスーパーバイザーを歴任。さらに、赤字の経営体質を改革するアイディアを何度も会社側に提出し、なんと入社9か月で代表取締役社長に上りつめた。

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「丸ごと!!カニバーガー」などユニークな商品がズラリ
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藤崎社長の下、ドムドムはイベントへの積極的な参加、『丸ごと!!カニバーガー』に代表されるユニークな商品の投入、アパレルブランド『BEAMS』などとコラボしたグッズ開発など、常識を超えた施策でアピールし、コアなファンを獲得していった。現在、ドムドムを運営するドムドムフードサービスの収益は黒字に転じている。

“余分な言葉”を加えることを常に意識する

「社長になって会社の何を変えましたか?」――そう聞くと、「社内の風通しをよくすることは、強く意識してきました」という答えが返ってきた。

「私も社員も、やりたいことをやれる、少なくとも『やってみたい』と言い出せる会社にしたいと思って、発言しやすい空気づくりに努めました。制度などに落とし込むのはこれからですが、会議体での発言スタイルは明確に変えましたね。資料や数字の読み上げはやめて、意見を交換する場にしています。

あとは本当に心がけのレベルですが、自分からどんどん“余分な言葉”を加えるようにしています。朝、出社して誰かと会ったら『おはよう、そのマスクかわいいね』とか。一人ひとりをちゃんと見ないと言えないようなことを言います。誰に言うでもなく習慣で『おはよう』と口にするんじゃなくて。世の中がどんどん合理的になっているからこそ、余分な言葉を付け足してみる。

そうするために人を見る。人を見るから何が出来て何が不得手か、スタッフのことも分かって仕事も円滑に進むと思うんですよ」

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“余分な言葉”を加えることを常に意識し、風通しのよい会社に
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風通しのよさを物語るこんなエピソードも。ドムドムではECサイトを通じたオリジナルグッズの販売に力を入れていて、新商品の発売日ともなると商品開発担当者は戦々恐々。あるとき、発売時刻を過ぎても注文が入ったことを知らせるメールが一向に届かず、藤崎社長も入っているLINEグループに「どうしましょう」と担当者から投稿があった。

「8時に発売して8分経って担当者から『1つも売れません……』と涙目のメッセージが届きました(笑い)。私が『でもTwitterで買ったってツイートしている人がいるから、メールが来ていないだけかもよ。確認してみたら』と返したら『そうします。確認してから家を出るので少し遅れます』『了解です』『私のところにはメール来ましたよ』なんて本人も他の人もどんどん意見や情報を書き込む。

目指していたのは、こういうことなんです。担当者は自らアイディアを出して商品化にこぎつけているので、間違いなく“自分ごと”だし責任感が生まれて必死になる。売れ行きが悪いと当然ショックを受けるわけですが、それを一人で抱え込んだり隠したりしないで、すぐに共有できるので、次のアクションにもつながります」

異なる意見を持つ人を否定しない心がけ

ドムドムがユニークな新商品を連発できるのも、誰もが自分の意見を言えるムードがあるからこそだといいます。

「例えば、社員の何人かと一緒に『ギフトショー』の展示を見て回ると、みんな気兼ねなく『これ面白いですよ』『どむぞうくん(ドムドムのマスコットキャラクター)の鼻からこれ出したらどうですか』などと言ってきます。私も遠慮なく『えー、鼻からは絶対やめて(笑い)』と言ってしまうんですけどね。冷ややかな却下ではなくて、対等に『それ嫌だ』って笑いながら言います。せっかくのアイディアを、言わなければよかったと後悔してほしくないので」

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自分と異なる意見の持ち主を決して否定しないのが藤崎流
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アイディア自体に異を唱えることはあっても、そのアイディアを出した人など、自分と異なる意見の持ち主を決して否定しないのが藤崎流。常に明るくほがらかな空気を作るのも藤崎流だ。

「フードだったら、食べておいしいことは絶対に外せない条件、お客さまとの約束だと思っているんですけど、それ以外の常識や定石みたいなものは気にしなくていいと思っています。グッズも、ファストフード店なのに6万円台のネックレスとか、常識ではありえないですよね」

ツリツリグッズ
さまざまなグッズを開発
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ツリツリグッズ
ネットでも購入できる
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固定観念から解き放たれて、新しく発想しよう。自分の常識を相手に押し付けずに、みんなの個性を尊重しよう。藤崎さんがそう考えるようになったのは、アパレル時代のスタッフとの出会いがきっかけだという。

「それまで、私は女性とはこうあるべき、妻はこうすべき、というような固定観念がむしろ強いほうでした。息子にも口やかましくて、(生活態度の注意などを)言い過ぎるほど言っていました。

でも、お店の若い子の話を聞いていると、みんないろんな境遇があって生活があって常識って人それぞれ違う。夕飯がスナック菓子の子もいれば、自分の健康保険証がどこにあるか知らない子もいる。

それまでの私からしたら考えられない暮らし方だけど、でもみんな素敵なところを持っていて、私はみんなをリスペクトしていました。今でも仲良しなんですよ。彼女たちのおかげで、自分の常識に照らして人を判断したり、自分の常識を相手に押し付けたりするまいと思うようになりました」

SNSでは熱いファンと細やかにコミュニケーション

ドムドムは、SNSの使い方にも特徴がある。大手飲食チェーンやコンビニチェーンでは、公式アカウントをフォローし、公式アカウントの投稿をリツイートした人の中から抽選で賞品を贈るキャンペーンなどがよく行われるが、ドムドムではそうしたキャンペーンは実施しない。

「ドムドムの公式アカウンって、他のファストフードチェーンに比べてフォロワー数は少ないんですけど、各ツイートにつく『いいね!』の数は多くて。エンゲージメント率みたいな数字にするとかなり高いんです。ドムドムを日頃から利用してくださっているかたと、日頃から応援して下さっているかただ思うので、その声はリアルなものだし、大事にしたいんですよね。だから、それが薄まるぐらいならフォロワーを無理に増やしたくはないんです」

藤崎忍
SNSも上手に活用している
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藤崎さん個人でもアカウントを運用していて、ドムドム公式アカウントに対し、時にツッコミを入れながらフォローもしている。例えば、どむぞうくんデザインのピアスをどむぞうくんのぬいぐるみに装着した写真を公式がツイートすると、藤崎さんが「着用のイメージがつきにくいかと…可愛くて面白いのは認めます」と絵文字付きで引用リツイートしたことがある。これには、藤崎さんの細やかな気配りが隠れていた。


「実はあれ、社内で既に指摘したあとにツイートもしたんです。“ちゃんと指摘してあるので、間もなくモデルさんが装着した写真もアップされますよー”と早くお客さまに伝えておきたくて。お客さまが疑問に思ったり、もやもやしたり、そういう時間を短くしたいので、ちょっと小芝居みたいなことをしてしまいました。周りからは『それさっき言ってたじゃないですか』って言われちゃいましたけど(笑い)」

◆ドムドムフードサービス代表取締役・藤崎忍さん

藤崎忍
新業態ツリーアンドツリーズの前にたたずむ藤崎さん
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ふじさき・しのぶ。1966年生まれ。2017年11月、株式会社レンブラントインベストメントに入社し、株式会社ドムドムフードサービスに出向。翌年8月にドムドムフードサービス代表取締役に就任し、これまで培ってきた関係力をフルに発揮し、業績を順調に回復させる。ドムドムは1990年代、全国400店舗まで拡大したが、2017年にレンブラントホールディングスに事業譲渡され、現在はドムドムハンバーガー27店舗、新業態ツリーアンドツリーズ1店舗。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)、『藤崎流 関係力: 成功に導く対人の心得』(repicbook)がある。@dom_fujisaki

※藤崎の崎は「たつさき」が正式表記

撮影/小山志麻 取材・文/赤坂麻実

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