山崎賢人が見せる幅広い世代へと届く演技力
山崎さんといえば、本シリーズで主演を務めるよりもずっと前からエンターテインメント界の最前線を走ってきた俳優ですが、前作『キングダム』の成功によってその地位を不動のものにしたことは疑いようがありません。ですがかつて彼は“マンガ実写化の王子”などとも呼ばれるほどマンガの実写化に挑み、そのたびに「またか」という声が上がっていたのも事実です。
しかし、マンガ実写化作品への出演を重ねることでしか得られない役へのアプローチ方法というのがあるはずですし、『羊と鋼の森』(2018年)や『劇場』(2020年)、『夏への扉 -キミのいる未来へ-』(2021年)などの文芸映画でも主演を重ねるようになったこともあり、より幅広い世代へと届く演技法を獲得しつつあるように思います。
本作の序盤に用意されている合戦シーンで、雄叫びを上げて走る彼(信=山崎賢人)の姿に胸を熱くさせられたのは筆者だけではないでしょう。重要キャラである羌瘣のエピソードが丹念に扱われることによりドラマパートでの信の印象が薄れ、“アクション俳優”の肩書きをも持つ清野さんを前にすると、山崎さんのアクションに物足りなさを感じるかたも少なからずいるのではないかと思います。
役の成長に合わせて化けていく
けれども、人間離れしつつも粗野なアクションこそ、信らしさを表現しているともいえるはず。すでにご覧になったかたはお分かりでしょうが、本シリーズは今後も続いていくプロジェクト。これはまだ恐らく(原作的にも)序盤であり、この一大プロジェクトの座長を任されているという事実が、山崎さんの現在地を物語っているといえるでしょう。
信の成長にあわせて、演じる山崎さんもさらに化けていくに違いない。若手世代を代表・牽引する俳優が時代を大きく動かす瞬間にリアルタイムで立ち会えることは、非常に幸福なことなのではないでしょうか。ぜひ劇場で立ち会っていただきたいものです。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun