エンタメ

神尾楓珠が「今もっとも将来を嘱望される俳優」と言われる所以 新作映画で見せた絶妙な「表情のさじ加減」

『恋は光』場面写真
「今最も将来を嘱望される俳優」神尾楓珠 (C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

神尾楓珠さん(23歳)が主演を務めた映画『恋は光』が、6月17日より公開中です。共演に西野七瀬さん、平祐奈さん、馬場ふみかさんを迎えた本作が描くのは、同じ大学に通う若者たちの奇妙な四角関係。一見、ティーン層向けの恋愛映画かと思ってしまいますが、実際は恋愛を哲学的に考察するユニークな作品となっています。本作の見どころや神尾さんの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

* * *

次代を担う若手俳優とともに描く共感を集める群像劇

本作は、漫画家・秋★枝さんによる同名コミック(集英社ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ刊)を、『逆光の頃』(2017年)や『殺さない彼と死なない彼女』(2019年)の小林啓一監督が実写映画化したもの。“恋をしている女性が光を放ってキラキラして視える”という特異な体質を持つ主人公を中心に、恋愛感情に振り回されながらも、「恋って何だろう?」と“恋の定義”を若者たちが考察していくさまが描かれています。

『恋は光』ポスタービジュアル
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

奇妙な四角関係に

“恋する女性が光って視える”という特異な体質を持つ西条(神尾)は、感情よりも理屈を重視する若者で、恋愛などとは無縁の大学生活を送っています。そんなある日、彼は「“恋”というものを知りたい」と口にする文学少女の東雲(平)と出会い、まさかの一目惚れ。“恋の定義”を語り合う交換日記を始めることに。

この2人の様子を前に、西条にずっと片想いをしている幼馴染みの北代(西野)の心はざわつきます。さらに、他人の恋人を略奪してばかりの宿木(馬場)が、西条のことを北代の彼氏だと勘違いしたことで奇妙な四角関係に発展。さて、彼らは恋の定義を導き出せるのでしょうか――。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

本作を手がけた小林監督といえば、前作『殺さない彼と死なない彼女』でも間宮祥太朗さんや桜井日奈子さんら次代を担う若手俳優とともに、多くの観客の共感を集める群像劇を生み出していました。その手腕は今作でも健在。それぞれタイプの異なる若者たちの姿に、いまの自分を重ねたり、かつての自分を見出したりするかたが多いのではないかと思います。

神尾楓珠の名演が多彩なヒロイン陣の存在をも際立たせる

平さん演じる文学少女の東雲は主人公の西条に似た理屈を重視し、“恋”を論理的かつ客観的に考えようという人物。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

馬場さん演じる宿木は東雲とは真逆のタイプですが、“恋”というものの本質を理解できていません(そんなもの100人いたら100通りあるわけですが)。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

西野さんが扮する北代は想い人である西条の一番近くにありながらも自分の気持ちにフタをし、変わり者の彼の良き友人であることに努めている。一口に恋愛関係と言っても、とても事情は込み入っているのです。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

自分のスタイルを崩さない姿勢を巧みに表現

そんな恋愛物語を展開するカルテットの中心に立つのが、神尾さん演じる西条なのです。

この西条という青年は非常に頭でっかちで、知識は豊富なものの人生経験はとても浅い。それは彼のバックグラウンドが関係してのことでもあるのですが、とにもかくにも彼は感情の動きというものが理解できず、あらゆる事象を理屈で説明できないと気が済みません。

演じる神尾さんは終始鉄仮面で口調はまるで武士のよう。そのマイペースぶりがインパクト大で、正直なところ“神尾楓珠=西条”に慣れるまで少し時間がかかりました。けれどもこの自身のスタイルを崩そうとしないマイペースぶりがあるからこそ、多彩なヒロイン陣の存在が際立っているとも思います。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

そして、いくら度を超えてマイペースな西条とはいえ、彼の内面に起きた変化は、冷たい表情や硬い口調といった外面にも影響を及ぼします。この変化の塩梅を間違えると西条像は崩れてしまいかねませんが、神尾さんの表現のさじ加減は絶妙です。

神尾楓珠の柔軟性の高さと作品ごとに見せる表情の変わりよう

そんな神尾さんというと、いまもっとも将来を嘱望される若手俳優の一人でしょう。同クールに3作品ものテレビドラマに出演し、そのうちの一つ『17才の帝国』(NHK総合)では日本が誇る若手からベテランまでの俳優陣を主演として率いてみせました。

同作でヒロインを演じた山田杏奈さんとの共演作『彼女が好きなものは』(2021年)で映画初主演を務め、年の離れた男女の奇妙な関係を描いたアート系スリラー映画『親密な他人』、実在した若者の生涯を体現した青春映画『20歳のソウル』、そして今作と、この2022年は主演作の公開が相次いでいます。

さらに秋季には劇団☆新感線の『薔薇とサムライ2 海賊女王の帰還』にも出演するようで、エンタメ超大作から良質な小品にまで溶け込むことができるその柔軟性の高さと、作品ごとに見せる表情の変わりようが彼の魅力です。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

俳優として新たな扉を開いた

神尾さんは、今作『恋は光』でも俳優としてまた新たな扉を開いたように思います。西条は感情の起伏の浅い人物ですが、これをただ淡々と演じるだけでは観客は恐らく飽きる。

平板に思える感情の波にもやはり起伏が必要です。このさじ加減の上手さについては先述した通りで、神尾さんの表現は極めて繊細でありながら的確。3人のヒロインと織り成すカルテットあってのことでもありますが、観客の興味・関心を惹き続けるという、主役に必要な技術を持った俳優なのだと再認識させられました。

『恋は光』場面写真
(C)秋★枝/集英社・2022 映画「恋は光」製作委員会
写真10枚

この物語はやがて西条にとっての「恋って何だろう?」という問いの答えへと向かいます。彼にとって“知識”ではなく“経験”が増えるということで、これは人生における大きな変化。当然、神尾さんの演技そのものにも大きな変化が生まれる。

この変化は単なる恋愛感情への気づきだけでなく、“人を想うことの尊さ”を力強くもそっと訴えかけてきます。最初はとっつきにくい“神尾楓珠=西条”。そんな“彼”が遠回りをしつつも最終的には、私たちにとって当たり前過ぎて忘れてしまいがちな大切なことに気づかせてくれるのです。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
写真10枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

●広瀬すず&松坂桃李らの好演が光る愛の物語『流浪の月』が現代社会に訴えるものとは?

●伊藤健太郎が「誰しも持つ未熟さ」を表現 復帰作『冬薔薇』で見せた演技者としてのセンス

関連キーワード