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俳優・香取慎吾が見せた「新たな顔」“ダメ夫”役が憎らしくも愛らしくて妙にハマる

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
写真13枚

香取慎吾さん(45歳)が主演を務めた映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』が9月23日より公開中です。共演に岸井ゆきのさんを迎えた本作は、ひと組の“夫婦喧嘩”を描いたブラック・コメディ。主演の香取さんの新たな一面も垣間見える、笑って泣ける痛快な作品に仕上がっています。本作の見どころや香取さんをはじめとした役者陣の演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

“夫婦”の関係に材を取ったブラック・コメディ

本作は、『箱入り息子の恋』(2013年)や『台風家族』(2019年)などのオリジナル作品が好評を博してきた市井昌秀監督による最新作。“夫婦”の関係に材を取り、今回もまたオリジナル脚本で勝負しています。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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そこで描かれるのは、夫と妻の果てしないバトル。といっても、ポスタービジュアルや場面写真から分かるとおり、最初から最後まで2人のバトルはユニークなものです。市井監督の慈愛に満ちたまなざしによって生み出された夫婦の姿が魅力的な、一級のエンターテインメント作品になっているのです。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
市井監督 (C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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SNSの「旦那デスノート」をきっかけにして始まるバトル

裕次郎(香取)と日和(岸井)は、結婚4年目の夫婦。2人のほのぼのとしたやり取りを見ていると、とても良好な関係なのだと思わされます。ところがそれは“表向き”の話。日和は裕次郎の鈍感さにイライラを募らせているのです。

あるとき日和は、話題のSNSである「旦那デスノート」に出会います。そこに綴られているのは、世の夫に対する妻たちの恐ろしい本音の数々。ただの悪口で終わらない日和のユーモラスな投稿は注目を集め、人気者になっていきます。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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そしてある日、偶然にも裕次郎はこの「旦那デスノート」の存在を知ることに。投稿の数々を笑い飛ばす彼ですが、中には身に覚えのある投稿が…。しかも、投稿者の名前は日和と2人で飼っているフクロウの「チャーリー」。こうして裕次郎と日和のバトルが始まるのです。

俳優同士の掛け合いも見どころの1つ

本作は、香取さん演じる裕次郎と岸井さん演じる日和の関係が軸にあるものですが、それを支え、さらに盛り上げる人々が登場。演じる俳優同士の掛け合いも見どころの1つになっています。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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ホームセンターの店員である裕次郎の後輩役には、朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)での好演も話題となった井之脇海さん。結婚式を間近に控え、マリッジブルー状態に陥っている男性を演じています。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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さらに裕次郎の同僚役として余貴美子さんも登場。彼女が演じるのは裕次郎とも日和とも親しい間柄にある人物であり、この物語のカギを握っています。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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コールセンターで働く日和の上司役として登場するのは、眞島秀和さん。自信たっぷりのハラスメント男を大胆に演じています。そして、裕次郎の母親役には浅田美代子さん。姑の立場から悪気なく日和を追い詰めていく演技が実にリアルです。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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この座組の中心に立つのが、香取さんと岸井さんのコンビ。香取さんはこれが3年ぶりの映画主演であり、堂々と作品を背負ってみせています。その相手役を務める岸井さんといえば、引く手数多の若き名優として認知されている方が多いのではないでしょうか。夏に公開された『神は見返りを求める』でのYouTuber役の強烈さも記憶に新しいところですが、今年はさらに、主演としてボクサー役に挑んだ『ケイコ 目を澄ませて』の公開が控えています。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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俳優・香取慎吾が体現する“ヌケ感”が柔らかさを与える

香取さんといえば、2019年に公開された『凪待ち』で粗暴な男を演じ、多くの人々に驚きを与えました。スクリーンに映し出される彼の表情はつねに暗く、発する声色にも恐怖を感じたものです。香取さんが演じたのは言動の一つひとつがろくでもない、かなりのダメ男でした。さまざまなメディアで香取さん本人が見せる快活な姿とは似ても似つかず、そのイメージを一新したといえるものだったのではないでしょうか。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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今回の『犬も食わねどチャーリーは笑う』で香取さんが演じる裕次郎も、タイプは違えど明らかな“ダメ男”。基本的にいつもニコニコしていますが、あまりにも鈍感で、悪気なく妻の日和をイラ立たせ、そしてときに傷つけます。つまり、わりとどこにでもいる平凡なダメ男なのです。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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この裕次郎を誰がどう演じるのかで本作の手触りは変わってくると思いますが、香取さんの立ち上げる“夫像”は憎らしさだけでなく愛らしさをも感じさせるもの。ユニークな脚本や相手役の岸井さんあってこそのものではありますが、彼が体現する“ヌケ感”が作品全体に柔らかさを与えています。

例えば、『西遊記』(2007年)や『ギャラクシー街道』(2015年)などで数多く演じてきたコミカルなキャラクターたちや、『凪待ち』のときともまた違う、俳優・香取慎吾の新たな顔がここにはあるのです。

ブラック・コメディであり、大人のラブストーリー

本作が描く夫婦喧嘩は深刻さとはほど遠いもので、たしかにブラック・コメディだといえます。であるのと同時に、“大人のラブストーリー”ともいえるものです。

『犬も食わねどチャーリーは笑う』場面写真
(C)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
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大切な人といるのが当たり前になり、ありがたみが薄れ、やがて相手の変化に気づくことができなくなっていくというのは、夫婦関係にかぎらずよくあること。重要なのは相手の変化に気づいた際、その事実にどう向き合うべきなのかということではないでしょうか。

裕次郎は、日和との闘い方を変えます。それは夫婦喧嘩を続けるためのものではなく、ただ一緒にいるだけで幸せだった、いつかの2人に戻るためのもの。そして、これからもそんな時間を重ねていくためのもの。これが、本作が大人のラブストーリーだともいえるゆえんです。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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