
「老若男女を問わず、体が慢性的に疲れ、そして痛めている人が多くいます。その問題を解決するヒントは『古武術式の体の使い方』にあると、私は考えています」──『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)の著書で理学療法士の岡田慎一郎さんはそう言います。家事で疲れないための「古武術式」体の使い方について話を聞きました。
食器を洗うときは「股関節から曲げる」
台所での食器洗い、お風呂掃除、掃除機かけなどの日常的な家事で、体の疲れを感じる人は少なくありません。岡田さんは「家事の負担軽減のコツは『本腰をいれる』こと」と助言します。

「全身を連動させて動くには、腰のポジションをしっかりと決めて動くことが大事になります。そこで重要となるのが『股関節』。たとえば台所仕事で腰に負担がくる、すでに腰を痛めている人は少なくありません。改善するには、洗い物などをするときに腹・腰から曲げず、股関節から上体を曲げること。それだけです」(岡田さん・以下同)
片足を引く
「このとき、股関節を意識しやすくする方法のひとつが、『片足を引く』ことです。そうすることで股関節が動かしやすくなるため、正確に前傾することができ、ラクな体勢となります」
反対に、台所仕事で背中を丸めるように腹から曲げてしまうと、腰に負担が集中して痛めやすくなってしまうので注意しましょう。

片足を台に乗せる
「用意できる場合は、『片足を台に乗せ』て台所仕事を行うのもおすすめです。股関節が最初から曲がるため、前傾姿勢が自然とできるようになり、腰への負担が激減します」
疲れない掃除機のかけ方
部屋で掃除機をかけるときにも、楽な体の使い方があるといいます。

負担が少ない「握り方」
「掃除機をかけると疲れてしまうという人は、ぎゅっと力強く握って動かしているのかもしれません。
掃除機本体を持つときは、中指と薬指のつけ根部分でひっかけるように持つと、ムダな力が入らずに済みます。
掃除機の柄を握るときは、中指、薬指、小指で握り、親指と人差し指は添える程度にします。古武術的には、刀の握り方の一つでもあります」

前足と柄を同時に動かす
正確な持ち方ができたら、今度は掃除機の動かし方がポイントです。
「掃除機をかける時は、足を前後に開き、前足と柄が平行になるように動かすと、体と掃除機が一体化し、重心移動もスムーズになります」
風呂掃除は「体全体」を使う
かがんだり、しゃがんだりする動作が多い風呂掃除にも、疲れないコツがあります。

「浴槽を磨くときに外から腰を曲げて、腕だけで行うのはNGです。お風呂掃除は『体全体』を使って、手早く終わらせましょう」と岡田さんはアドバイスします。では、具体的にどのように体全体を使っていけばよいのでしょうか。
足元を「踏みしめない」
「足を踏みしめると体が固定され、腰から前傾する、腰からねじるといった部分的な動きが生じやすくなり、腰痛の原因にもなります。お風呂掃除では足元を踏みしめないことで、股関節が動きやすくなり、動きに合わせた負担のない姿勢がとれるようになります。」
足元をリラックスさせると、股関節が緩み、上半身と下半身が連動して、全体が動かしやすくなるそうです。
つま先を広げて前傾させる
「どうしても中腰になりやすい浴槽洗いなどは、両方のつま先を広げた状態で、上体を前傾させます。そうすることで股関節から前傾しやすく、腰への負担が軽減し、お風呂掃除がラクになります」
◆教えてくれたのは:理学療法士・岡田慎一郎さん

1972年茨城県生まれ。理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。JAMSNET東京理事長兼事務局長。高齢者介護施設における身体介助法を模索するなか、武術研究家の甲野善紀氏と出会い、古武術の身体運用を参考にした「古武術介護」を提唱。近年は介護、医療、リハビリ、消防救命、育児、健康増進、教育などの分野で講演、執筆するなど多岐にわたり活動中。今年9月、『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)を出版。