
17年の専業主婦生活を経てキャリアに復帰した薄井シンシアさん(64歳)。2022年秋に外資系企業へ転職し、現在も、仕事にプライベートにと走り回っています。コロナ禍をきっかけに在宅勤務が広がる中、シンシアさんが公私を分けるために心がけていることとは?「スーパー合理主義」のシンシアさんに、在宅での効率的な働き方を聞きました。
* * *
化粧をしない主婦が、急にすると下手に
今の職場はオフィス勤務が基本ですが、2021年2月まで勤めていた飲料メーカーのシニアマネジャー時代は在宅勤務でした。オフィスがよいか、在宅がよいかはライフステージで変わります。子どもがいれば、合間に家事も出来る在宅がよいに決まっています。でも、私の年齢になって同居の子どももいないと、在宅は最悪。人と関わらないから、その時点でダメになっちゃう。
外出すれば服装も気になるでしょう? ドイツ人と結婚し、ベルギーに住む友人は、夫婦とも、だいぶ前に定年退職したけれど、毎朝きちんと着替えます。旦那さんに至っては、ベルトを締めて革靴も履く。だからいまだに2人ともビシッとしている。普段は化粧をしない専業主婦が、突然、化粧をすると下手くそでしょ? そういうところに、日々の積み重ねが出ます。
仕事はダイニング、仕事以外はリビングで
在宅勤務のとき、私は公私の境目を場所で分けます。部屋を変えるのは面倒くさいので、仕事はダイニング机、仕事以外はリビングの机を使う。ダイニングの椅子は、背もたれに背筋をまっすぐに整える健康器具を置き、リビングの椅子はバランスボール。長い時間、座りっぱなしの姿勢はよくないので、いっそのこと、ひとり暮らしには不要なダイニングテーブルを処分して、スタンディングチェアにしようかなとも考えています。寝室は寝るときしか使いません。

パソコンも2つあります。仕事用はダイニング、SNSなどの投稿はリビング。携帯も、会社から貸与された仕事用と、私用の2つを使い分ける。昔から、目的によって家のスペースを使い分けています。そうすれば、仕事机に座った途端に仕事モードになるし、仕事以外で、その席に座ることはありません。
習慣って、すごく大事。集中力や効率が変わります。娘を育てる時も、勉強と食事の机を分けて、宿題をする机では私語をせず、集中する。趣味の読書やおやつはダイニング机で私とおしゃべりしながら過ごすと決めていました。
洗濯物の入れ替えは昼休みにする
在宅勤務は、仕事中に洗濯機を回すことも出来ますよね。でも、私は数分間の洗濯物の入れ替えでも、仕事の時間にはしません。あらかじめ、洗濯物の入れ替えが仕事の休憩時間や昼休みに出来るようにスケジュールを立てます。専業主婦の時から時間管理をしていたので、再就職しても環境に慣れるのが早かったのだと思います。
ベッドに入ったら体が必要な分だけ眠りたいので、目覚まし時計は使いません。入社直後の研修はすごく疲れたから、午後10時にはベッドに入りました。疲れていれば午前7時に目が覚めるし、疲れていなければ午前5時頃に目が覚めます。
在宅でもオフィス勤務でも必ず化粧と着替えをする
勤務の日は、在宅でもオフィスでも、同じ化粧をして同じ服を着ます。自分でプライベートと仕事の境界線をつけているのかもしれません。

在宅勤務で通勤分の時間が余ったときはジムや散歩。私は食事の優先順位が低いので、おいしいものを食べたいときはレストランへ行きます。凝った料理をつくるなどの家事を増やすことはしません。
在宅勤務後に気持ちを切り替えるときは、ベランダで5〜10分ほど、ぼーっとしたり、お茶やコーヒーをいれて時間を区切ります。
すべての仕事が順調に進む前提でスケジュールを立てない
週に1日、意図的に無駄にする日も設けています。多くの人はスケジュールを立てるとき、すべてが順調に進む前提で計画するでしょう? 私は、仕事というものは自分でコントロールできるものと、できないものがあると思うので、順調に進まない前提で計画します。トラブルが発生したら調整の時間が必要になるでしょう? 子どもがいる人は、なおさら、予定をパンパンに入れちゃだめだと思います。
みんな強みばかり考えて、自分のことを過大評価している。私はスーパーウーマンではないと自覚しているから、常に限界を考える。心配性というより現実的。だから計画的に、週に1日の無駄な日を設けます。もし何も予定が入らなければ、その日はテレビを見たり、気が向いたらジムに行くぐらい。時間にもタスクにも追われないプレッシャーのない日だから、好きなことしかしません。
週に1日、無駄な日を設ける理由
私は、ゆとりの無い生活が大嫌い。通勤のときも、満員電車を避けたり、知り合いに会って立ち話をしても慌てない程度の余裕をもって家を出ます。余裕がない人はトラブルが起きるとパニックになるけれど、私は、まったくなりません。
これまでの職場に優秀な人は大勢いました。私も同じように予定を入れれば、もっと仕事がこなせるかもしれない。でも、余裕を大切にしたいので、能力の80%ぐらいしか仕事を入れません。私だって予定がパンパンに入っていれば、うまくさばけませんよ。
◆薄井シンシアさん

1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
●薄井シンシアさん、時給1300円の電話受付をしていた私が“誰もやりたがらない仕事”から“ベストセラー商品”を生み出すまで
●薄井シンシアさんが語る63歳での転職面接 企業にウケた「失敗から始まる変革エピソード」
撮影/黒石あみ 構成/藤森かもめ