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《大塚寧々×ヤマザキマリ対談》「読めば読むほど磁石のように吸い寄せられ…」「子供の頃、浮いていませんでしたか?」「もちろん(笑い)」(前編)

ヤマザキマリさんと大塚寧々さんの対談が実現
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期待の冬ドラマ1位にも選ばれている『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)での好演が話題の大塚寧々さん。撮影で多忙な毎日を送るなかでも「いまいちばん会いたい人!」と熱望していたのがこの人、『テルマエ・ロマエ』などの作品で知られる漫画家・文筆家のヤマザキマリさん。「8760 by postseven」での寧々さんの人気連載「ネネノクラシ」のスペシャル企画として、ふたりの対談が実現しました!

大塚:今日はお時間を作ってくださりありがとうございます! 『テルマエ・ロマエ』はもちろん読んでいたんですけど、『ヴィオラ母さん』が本当に好きで…読めば読むほど、ひゅーっと磁石に吸い寄せられるような感覚があって、お会いしたい!とわがままを言いました(笑い)。

おこがましいんですけど、ヤマザキさんの考え方とか大切になさっていることが、普段私が感じていることと勝手に近いような気がして嬉しくなってしまったんです。いつも物事を俯瞰で見ていらっしゃるじゃないですか。

ヤマザキ:ありがとうございます(笑い)。そうですね、自分や自分の周りだけではなく、人間の社会も常に俯瞰で、観察眼を持って物事は見なければダメだと思っているし、自分も“その中の一部”として距離を離さないと本質が見えてこないと思ってますね。

大塚:私もそうしないとまずいぞという“危機感”を子供の頃から強く感じていて。

ヤマザキ:ってことは大塚さん、子供の頃、浮いてませんでしたか? まわりと馴染めていたタイプですか?

大塚:もちろん馴染めてないです(笑い)! 人混みもすごく苦手で、普通の人がイメージするそれより“もうちょっと”苦手(笑い)。

「自分でも人間社会でやりくりできているのが奇跡」と語るヤマザキさん
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ヤマザキ わかります、わかります(笑い)。私も渋谷とか新宿とか人混みは息を止めて歩いてます(苦笑)。なかなか信じてもらえないですけど、私も結構な人見知りで、自分でも人間社会でやりくりできているのが奇跡だと思いますもん。

大塚:人間社会に疲れちゃうんですよね。逆に自然は大好きなんですけど。

ヤマザキ:私も自然と生き物、とくに昆虫が大好きなんですけど、とくにミツバチなんかは素晴らしい社会を築き上げていて、周囲と支え合い、群をしっかり統括して生きている生き物なんですよ。翻って人間は集団に対する拒絶感もあれば、個人主義に対する拒絶感もある。昆虫や野生動物シンパの視点で見ると人間というのは本当に難しい、面倒な生き物だと思うんです。

大塚:そうですね。人間だけがすごいって思ってしまうのは何か違うような気がします。

ヤマザキ:私もそう思います。人間を至上の生物だと思い込んでしまうのは、単に知恵の発達した精神域の生き物だからなんでしょうけど、だからといってなぜ人間が地球上で最も尊ばれるべきだという考えが生まれるのかよくわかりません。

たとえば地球には「クマムシ」という、50マイクロメートルほどの微小生物が生息していますが、彼らは120〜150℃という高温状態から絶対零度の-273℃という状態でも生きられるんです。それどころか人間の致死量の1000倍の放射線に晒されても、空気のない宇宙で7万5000気圧を受けても耐え抜ける、信じられない生体メカニズムを持っている。生命力という意味では真空状態でも生き延びるクマムシの方が圧倒的に優れているでしょう。比べても仕方がないことですけど、ただ、こういう話をすると途端にみんな「へえ、すごいね。ところでさ」というように話題を断ち切られてしまう(笑い)。

大塚:あはははは!

「老い」に抗うのではなく「成熟」した大人になりたい

ヤマザキ:子供の頃ならまだしも、女性でこの年齢になってもそんなことを考え続けているっていうのが不思議なことと捉えられてしまう。日本では何歳になったらこういう人付き合いをして、こういう服装をして、こういう本を読むものだ、80歳の女性はティーンの読むような雑誌は読まない、みたいな年齢による行動規制が社会の中に敷かれている。私が半分暮らしているイタリアでは、私が読み終わった雑誌を98歳のお婆さんが夢中で読んでいましたし、私の服を見て「それ素敵ね、どこの?」なんて聞かれることはしょっちゅうでした。年齢とシンクロしない普遍の感性というのは誰にでもあると思うんですよ。

それが日本では年齢という意識に拘束されてしまう。50代というのはこういうもの、という定型を裏切らない生き方をすることが、社会調和を保つ秘訣になっているのかもしれませんが、そのくせみんな年を取ることに対して「どうやったら老いに抗えるか、どうやったら100歳超えできるか」という模索に奔走している。それも全て「人とはこういうもの」というフォーミュラを押し付けてくる社会への反動なんだと思います。年齢などにとらわれず、自然の法則に従いつつ、堂々と年を取っていきたいですね。

大塚:私は自分の寿命が尽きたときが終わるときだと思うんです。

「思考が成熟していくことが大人になること」と語る寧々さん
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ヤマザキ:命というのは何歳まで生きたから偉い!というもんじゃないですからね。個人差は大きいです。私が飼育していたカブトムシなんかも皆同時に生まれても、寿命はそれぞれです。犬でも猫でも「自分は長生きしたい!」などと思ってなんていないでしょう。授かった命を寿命の限り生きていこうとしているだけで。

大塚:命あるものは必ず老いるものですからね。

ヤマザキ:もちろんヨーロッパでも年齢に抗って懸命に若作りしている人たちはいますよ。でも人間は見た目ではない、知性と精神の成熟こそ最大の魅力と捉えている人もたくさんいます。世界のニュース番組のキャスターの年齢、物腰や服装なんて見ていると、各国の女性の在り方や意識の違いが浮き出て見えるので面白いですね。

大塚:自分も50年くらい年齢を重ねているけれど、ときどき「ちゃんと大人になれているかな」って危機感を覚えるんです。思考が成熟していくことが大人になることだと思うので、本を読むとか考え方を鍛えて、そうできればいいな、ちゃんとしたいなって思います。

「人生を使い切った」母

ヤマザキ:人間という生物として授かった機能を満遍なく使って人生を謳歌する人は基本的に毎日機嫌が良いですね。私の身近にいた人での代表的な例はうちの母(編集部注、『ヴィオラ母さん』のモデルにもなった、ヴィオラ奏者の山崎量子さん・享年89)かもしれない。

大塚:お母様、最高ですよね! 本当に素敵!

ヤマザキ:奔放な人だったんで一緒に暮らすとなると大変ですが(笑い)、母は人生を使い切った人だったと思います。就労する女性が少なかった時代に、できたばっかりのオーケストラに入りたいと親族も居ない北海道に移り住み、結婚しても夫を失い、女手ひとつで娘2人を育てている。これだけ聞くといっぱいいっぱいな人のイメージになるんですが、そうじゃなかった。「明日のコンサートは素晴らしい楽曲をやるので2人とも学校休みなさい。授業よりこっちのほうが大事」と学校を休ませてコンサートに引っ張っていったり、運転中にたぬきが横切れば車を停めて「飼いたい!」と草むらに探しに行くし、80歳を超えても夕焼けを見て「地球に生きてるって素晴らしい! 英気を養ったから明日からバリバリ働くぞ」などと盛り上がっている(笑い)。集団で群れていないと心細いとか、世間体が作る規定から逸れると不安とか、そういうのは彼女にはなかった。オーケストラという集団組織に勤めているから尚更だったのかもしれません。

大塚:大好きなエピソードです!

ヤマザキさんの母のエピソードで盛り上がった
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ヤマザキ:そんな母が2022年末に亡くなり葬儀は地元のホール借りてコンサート形式にしたんですけど、最後は母の同僚とお弟子さん90名によるオーケストラによる『威風堂々』で締め括られました。母にぴったりの音楽でした。その場にいて、なるほど、世の中にはこんなに前向きなエネルギーをもらえる弔い方があるんだ、と感心しました。母にはとにかく「命を見事に使い切りましたね、お疲れ様でした。人生を堪能できてよかったね」っていう気持ちしか出てこなかったですね。

大塚:あてはまるかわからないですけど、もちろん大変なこともあったかもしれないけれども、命を精一杯感じて、精一杯きちんと生きた、すがすがしさがありますね。

ヤマザキ:そんな母を見ていたから、私も物心がついて“自分の社会”が作られていくとき、別に集団のひとりじゃなくてもいいんだって思えたんです。たとえば中学校に通うようになって、新しく友達を作るタイミングでアイドルの誰それが好きか聞かれるっていうのがあるじゃないですか。

大塚:あ〜、あれ! 無理でしたね(苦笑)。全然共感できなかった。本当に自分が好きではないものを、でも会話ができなくなってしまうからちょっと会話に乗らないといけないかなとか考えてしまって。

ヤマザキ:そうそう。勘弁してよと思いつつ、クラスで生きていくにはそうするしかないと学ぶわけですよ。だからそんなに好きじゃないのに「じゃあこの人かなあ」と無理して言ってみたりね。でもしばらく経つと「本当に好きなの?」ってバレる(笑い)。

大塚:私もそうだった(笑い)。

ヤマザキ:とはいえ、当時は自分たちと違う人間との共生がいまよりはおおらかだった気がします。私は「ヤマザキさんちは親が音楽家で不思議な家だから」って、宇宙人扱いされてましたけど、“疎外”はなかったですね。宇宙人もいればツッパリもいたり、貧乏なうちの子もいたり、あらゆる環境で育まれた子供たちの“共生”が確立されていましたよね。

大塚:たしかに。それぞれを尊重しているというか、緩かったですよね。変わっていてもいい、子供として育つにはいい時代だったと思います。いまみたいにSNSとか裏でコソコソ疎外するとかじゃなかったから、ある意味健全だったと思います。

ヤマザキマリさんと大塚寧々さん
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◆大塚寧々
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』ほか数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道にも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。現在放送中のドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)出演中のほか、1月19日公開の映画『僕らの世界が交わるまで』の日本版ナレーション担当、CM出演、雑誌連載など多方面で活躍中。

◆ヤマザキマリ
1967年東京都出身。漫画家・随筆家。東京造形大学客員教授。1984年に渡伊、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で油絵と美術史を専攻。1997年より漫画家として活動。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『ヴィオラ母さん』(文春新書)、『パスタ嫌い』(新潮社)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。現在はイタリアと日本に拠点を置き、精力的に執筆活動等を行っている。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。

撮影/chihiro. ヘア&メイク/福沢京子(大塚さん分)、田光一恵(ヤマザキさん分) スタイリスト/安竹一未(kili office・大塚さん分) 取材・文/辻本幸路

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