
古今東西、家族関係の悩みはなくならず、とりわけ嫁姑問題は時代が変わってなお永遠だ。実際の事件を紐解くと、深い憎しみが、一線を越えてしまうことも―
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「うわああん!」
埼玉県の閑静な住宅街に、突如として幼い子供の悲鳴が響いた。それは夏真っ盛りの2023年8月12日の昼下がりのことだった。
別室で寝ていた池田幸男さん(仮名・38才)はわが子の悲鳴に起こされ、泣き声がする浴室へと駆け込んだ。すると、赤く濡れた包丁を手にぼう然とたたずむ妻の涼子(仮名・31才)と、血を流して苦しむ娘の香ちゃん(仮名・2才)を発見した。
「涼子は香ちゃんの首や胸を包丁で刺し、全治2か月の心膜損傷などの傷害を負わせました。取り調べで自分が香ちゃんを刺したことを認め、夫や義母、自分の両親との関係に悩んでいたことを告白しました」(全国紙社会部記者・以下同)
これまで警察に虐待などに関する通報や相談はなかったという。どうして涼子は、かわいいわが子に刃を向けてしまったのか―
事件現場となったのは、都心から多くの鉄道路線が乗り入れ、ベッドタウンとしても知られるターミナル駅から徒歩数十分の住宅街。いまなお開発が続いている一画にあり、幸男さんが実母の幸枝さん(仮名)と家族のため、この地に2世帯住宅を土地ごと購入して移り住んできたのは事件の約2年前のことだった。
「まだ日が浅かったこともあり、周辺の住民と深いつきあいはなかったそうですが、幸男さんは地域活動には参加していました。ただ、昼間でもカーテンが閉まっていたり、自宅から女性が激しい口調で怒っている声が聞こえていたこともあり、少なからず池田家の“異変”を感じていた人はいたそうです」
同居当初は涼子と幸枝さんが香ちゃんを仲よく2人で見守る姿を住民たちは目撃していたが、内情は違った。涼子は、義母と夫からの苛烈な仕打ちに次第に追い詰められていった。
「涼子は幸枝さんから何かあれば理不尽な非難の言葉を浴び、時には茶わんを投げつけられ、土下座を強要されたこともあったそうです。そして妻を守るはずの夫からも顔面を殴られ、罵倒されていました。涼子は2人の指示に従わなければいけない状況になり、自分が無価値だと思いこみ、自殺を試みたと裁判で証言しています」
だが、自殺は失敗に終わった。逃げ場のない家の中で涼子がたどり着いた結論は「わが子を殺して刑務所に行くこと」だった。しかし、犯行の途中で娘の行く末を思い、殺めようとした手を止めたのだった。
香ちゃんの命に別状はなかったものの、殺人未遂の罪に問われた涼子。しかし、事件にいたる背景を考慮し、今年3月に開かれた判決公判では執行猶予の判決が下された。証人として出廷した実母が涼子と同居して更生を支援すると話したのも理由のひとつだ。
裁判長はこう涼子を諭した。
「もうすぐ春になる。これからのあなたの人生にも暖かい春が訪れることを祈っている」
※年齢は事件当時。
※女性セブン2025年10月16・23日号