年を重ねると、体のあちこちにガタがくる。なかでももっとも老化を感じ、日常生活に支障をきたすのは視力の衰えや目の病だろう。老眼は等しく訪れ、予防法もない。白内障はいまや80代になればほぼ100%の人がかかるといわれる。「見えない」ことは仕事や家事の手も妨げ、読書や刺繍など趣味も奪い、認知症など病のリスクをもたらす。そんな恐ろしい老化現象に寄り添い、治療してくれる名医を探そう。ジャーナリストの鳥集徹氏と女性セブン取材班がレポートする。第4回では「緑内障」について紹介する。【全4回の第4回。第1回を読む】
眼圧が高くないのに発症する人が7割
緑内障は視野が狭くなり、視界にものが見えない部分(暗点)ができたり、まぶしさやかすみを感じたりするのが主な症状だ。緑内障には急性と慢性に進行するものがあり、急性の場合は急激に眼圧が上昇するため、突然、目の痛みや頭痛、吐き気が出ることがある。特に遠視の人は緑内障を発症しやすいといわれている。
気になる人は、視野の欠損があるかどうかを調べることで、緑内障をセルフチェックできるサイトもあるので、試してみるといいかもしれない。ただし、初期の緑内障は自覚症状に乏しく、自分では気づきにくいという。緑内障が専門の日本医科大学眼科学教室准教授・中元兼二医師が話す。
「視野が欠損するというと、欠けた箇所が黒く見えるイメージを抱かれます。そういうかたもいますが、実際には『補填現象』といって、見えていない箇所を脳が勝手に補整して見えているように振る舞う働きがある。また、日本人は『正常眼圧緑内障』といって、眼圧が高くないのに緑内障を発症する人がおよそ7割と多く、その場合は進行もゆっくりで、ますます気がつきにくいのです。
やはり緑内障かどうかを知るには、眼科や人間ドックなどで検査を受けるのがいちばん手っ取り早い。『眼底カメラ』を撮れば、緑内障かどうかすぐわかります。『老眼が進んだ』『目が見えにくくなった』と感じたときや、60才など区切りの年齢のときに、眼科医による検査を受けるのをおすすめします」
薬の使用は目的を明確に
緑内障の原因となる眼圧の上昇は、目の中をめぐる「房水(ぼうすい)」の流れが滞ることで起こる。したがって、房水の量をコントロールするのが、治療の目的となる。その方法は主に「薬物療法」と「外科療法」の2つだ。
緑内障の薬物療法は、房水の産生量を減らす薬と房水の流れをよくする薬の2種類を使うのが基本だ。点眼薬が主だが内服薬もある。急性の場合を除き、緑内障と診断されるとまずは薬物療法が行われるが、「その目的を理解して使うべき」と吉野眼科クリニック院長の吉野健一医師は話す。
「病状がコントロールできていないのに、漫然と薬を処方されている患者さんがいます。緑内障の薬は病状が悪化するのを防ぐ目的で使うので、熱や咳などの症状が治まればやめる風邪薬などと違って、一度始めたら長期に使い続けなくてはいけません。薬の値段も高いので、医師の説明をよく聞いて、納得のうえ治療を受けてください。治療中に治療効果や病状の説明がない場合には、セカンドオピニオンをお受けになるのもひとつの手です」
手術すべきなのはどんなケースか
薬物療法で進行を抑えられない場合には、外科治療が検討される。それには房水の出口のフィルターにあたる線維柱帯を切開する方法や、房水を排出するバイパスを作る方法、房水の排出を邪魔している癒着を剥がす方法などがある。また、小さな穴などを開けるレーザー治療や、目の中に房水を排出するチューブを留置する方法などもある。札幌かとう眼科院長の加藤祐司医師が話す。
「これらの中から、緑内障のタイプや進行度に合った方法を選ぶことになります。白内障の手術のときに緑内障の手術を同時にできることもあるので、両方の病気がある人は、同時に手術できる病院を考えてもいいかもしれません」
また、中元医師は、「高齢のかたや自分で目薬をさせない人、緑内障点眼アレルギーのかたは、最初から負担の少ないレーザー治療を受けてもいいと思います」と話す。さらに、手術の意義について、中元医師はこう話す。
「点眼治療で眼圧が低くなると手術をためらうことが多いのですが、外来で測ったときには低くても、深夜など特定の時間に高くなる人がいます。手術はそのような眼圧の変動を抑えられます。
なので、正常眼圧緑内障でも症状が悪化していく人は、どこかで踏ん切りをつけて手術をした方がいい。緑内障は治らないといわれますが、手術で眼圧をより下げることで、長期的に視野が改善するケースもあります。その場合には緑内障手術の経験が豊富な眼科医に相談することをおすすめします」
眼科を掲げるクリニックは数多くあっても、眼科医であれば誰でも白内障や緑内障の手術経験があるというわけではない。クイーンズアイクリニック院長の荒井宏幸医師が話す。
「眼科医は目のプロと思われがちですが、外科が脳神経や胸部、消化器など細かく分かれているように、眼科も得意分野は分かれています。もちろん、眼科医であれば目の病気は網羅しているので、目の調子が悪いと感じた場合にすぐ専門をチェックする必要はありませんが、白内障や緑内障と診断を受けて治療に踏み切る場合には、眼科医が何を専門にし、どれくらいの症例を扱っているかを確認しましょう」
(了。第1回から読む)
レポート/鳥集徹(ジャーナリスト)と本誌取材班
※女性セブン2024年11月7日号