
今年4月1日から、定年は実質的に「65才」になり、生涯現役社会がまた一歩近づいてきた。来年度からも働いて自分で稼ぐか、リタイアして退職金を受け取るか──シニアの働き方が激変する「年度」の境界を前に、いま知っておくべきこと、考えておくべきことが山ほどある。全3回の第1回では、高年齢雇用継続給付の縮小について紹介する。【全3回の第1回】
“得する定年退職”は「64才」「3月末」がおすすめ
約806万人の、いわゆる団塊の世代全員が75才以上の後期高齢者になる今年。高齢化による社会保険料負担や働き手の減少など、「2025年問題」が不安視されている。国は高齢者に対して現役の働き手として就労を促す一方、さまざまな制度改正を行っている。
代表的なのが、今年4月1日からの「高年齢者雇用安定法」の改正だ。60才以上の従業員が希望すれば、雇用者には65才までの雇用が義務化され、70才までの雇用継続は努力義務となった。もはや65才は「現役世代」なのだ。
65才を過ぎても働くことが当たり前になったことで、「高年齢雇用継続給付」は、この4月1日から縮小されることになる。「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんが言う。

「3月31日までの現行制度では、一般的には定年後の賃金が現役時代の61%超、75%未満に低下した場合、給与額に応じて定年後の賃金の最大15%が支給されています。これが4月1日の改正後は、最大支給率が10%に引き下げられるのです。
対象となる賃金低下率も、改正後は“64%超、75%未満”と、やや限定的になります」
誰もが65才まで働き続けられるようになったため、賃金の低下に対する補填を減らし、自分で稼がせようという国の本音がうかがえる。現行制度と新制度の適用対象者の区分は年齢によって分けられる。
「改正後の制度が適用されるのは、この4月1日以降に60才に達する人のみ。3月31日以前に60才に到達している人には、現行の支給率が適用されます」(北村さん)
60才到達時の賃金の75%未満なので、4月1日から給付金が引き下げられるだろうと、まだ60才になっていないのに3月31日より前に退職するのは早計かもしれない。つまり、いま60才以上で定年を延長して就労している人は、3月31日までに退職する方が、その後にもらえる給付金が増える可能性が高まるのだ。自分がいつまで働くか、再就職するのかなどは3月31日までに検討しておいた方がいいだろう。
また、65才を過ぎて退職すると“高齢者のための失業手当”に当たる「高年齢求職者給付金」を受け取ることができる。だがこれは、現役世代が受け取る「失業手当(雇用保険の基本手当)」と比べると金額が少ない。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが解説する。
「失業手当は通常90~150日間受け取れるのに対し、高年齢求職者給付金は30日(勤務期間1年未満)または50日(勤務期間1年以上)しか受け取れません。“仕事を失った後に受け取れるお金”を最大化したいなら、64才のうちに退職するのがいいでしょう」
勘違いしてはいけないのが、「65才になる前日」では遅いということ。社会保険労務士の井戸美枝さんが言う。

「年齢に関する法律で、その年齢になるのは『誕生日の前日』です。例えば、いま64才で1月23日が誕生日の人なら、法律上は1月22日に65才になる。つまり、64才のうちに退職したいなら、『誕生日の前々日』である1月21日までに退職手続きを終えておく必要があるのです」
そのうえで、できるだけ失業手当の日額を増やす準備も整えておきたい。
「基本手当日額は退職前6か月間の賃金(賞与は除く)をもとに計算されるため、退職前はできるだけ仕事を頑張ること。残業や休日出勤を増やして稼ぐ人も少なくありません」(三原さん)
失業手当や高年齢求職者給付金を受けたい場合は、ハローワークに行く前に退職した企業に「離職票」を発行してもらう必要がある。
「いずれも再就職の意思があることが条件なので、ハローワークでの申請と同時に求職の申し込みも必要。受給資格決定後、7日間の待期期間を経て、支給が始まります。失業手当とは違い、高年齢求職者給付金は年金と同時に受け取ることも可能です」(北村さん)
(第2回に続く)
※女性セブン2025年2月6日号