
体温超えの酷暑と効きすぎた冷房の寒暖差、生活リズムの乱れなどが重なり、だるい、疲れがとれない、やる気が出ないといった不調が続く「夏疲労」。疲労の蓄積により体力が消耗すると自律神経の機能も低下し、深刻な「夏バテ」状態になってしまう。疲れをためない秘訣をその道のプロに聞いた。
《以下の10人の医師と食の専門家、インストラクターに、夏疲労対策に関するアンケートを実施。「最強の食品」と「究極の習慣」を最大10個挙げてもらい、1位を10点、2位を9点、3位を8点、4位を7点、5位を6点、6位を5点、7位を4点、8位を3点、9位を2点、10位を1点として集計、ランキング化した》
石原新菜さん(イシハラクリニック副院長)、大久保愛さん(薬剤師・食養生研究家)、齋藤真理子さん(山本メディカルセンター理事長)、谷本哲也さん(ナビタスクリニック川崎院長)、tsukiさん (ヨガインストラクター)、内藤裕二さん(京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学教授)、福田千晶さん(医学博士・健康アドバイザー)、堀知佐子さん(管理栄養士・食生活アドバイザー)望月理恵子さん(健康検定協会理事長・管理栄養士)、渡辺恭良さん(神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科エッセンシャルヘルスケア科学講座特命教授)
各地で体温超えの猛烈な暑さが続き、最高気温40℃以上の酷暑日も記録するなか、体の重だるさや食欲不振といった夏疲労の症状を訴える人が増えている。疲労研究の第一人者で、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科特命教授の渡辺恭良さんが説明する。
「夏疲労の大きな原因は、自律神経(体の状態を自動で整えるしくみ)が機能しなくなってしまうこと。猛暑はもちろん、暑い外と冷房の効いた涼しい部屋を行き来すると、気温や湿度の急な変化にさらされます。そのたびに体は、発汗や血流の調整で体温を保とうとフル回転するため、自律神経がパンクしてしまいます。
熱中症は、まさに自律神経が限界を迎えてストップし、『体温を下げること』ができなくなった状態です。外出の際は日傘やつば広帽子、涼しい衣服、冷却グッズなどを使って暑さ対策を行い、室内では快適な温度と湿度環境で生活することが重要です」
夏場の快適な室内の温度は26〜28℃、快適な湿度の目安は50〜60%。この環境を保つことが夏疲労・夏バテ対策の第一歩となる。
皮膚の温度上昇にも注意が必要
猛暑の中、ハンディファンなどで暑さ対策をしている人も多いが、「気温だけでなく皮膚の温度にも注意してほしい」とイシハラクリニック副院長の石原新菜さんはアドバイスする。
「最新の研究で、皮膚の表面温度が32℃から35℃に上昇すると、粘膜の免疫抗体『S-gA』が約7分の1に激減するという結果が出ています(Lin et al., Energy & Buildings.2024)。S-gAは口や鼻、腸などの粘膜にあり、ウイルスや細菌の侵入を防ぐ“最前線”の免疫抗体。カンカン照りの猛暑や酷暑では、体力とともに、体を守る皮膚などにも影響を及ぼします。夏疲労に免疫疲労まで加わらないよう注意しましょう」
また、京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤裕二さんは、「夏疲労は、高温に伴い、身体的疲労が充分に回復できず体内時計に異常が生じた状態」と説明する。
「疲労を回復するためには、充分な睡眠時間を確保するとともに、睡眠の質を上げることが重要です。寝る前のアルコールを控え、空腹の状態で寝ること。眠れない場合は睡眠導入剤をうまく使うのも有効です」
もちろん、食事も重要だ。ナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也さんが語る。
「水分と食事を不足させないことが大切です。脱水になると血液循環や体温調節の効率が落ち、だるさ、頭痛、集中力低下、動悸につながります。
それだけでなく、たんぱく質や糖質を含む食事も欠かせません。疲労感があるからとサプリメントや栄養ドリンクに頼るより、たんぱく質と適度な塩分を組み合わせた食事をとるといいでしょう」
効果的な食品や習慣について、名医ら10人による回答を見てみよう。

酷暑に負けないためにとるべき「最強の食品」のトップは豚肉。管理栄養士の望月理恵子さんが解説する。
「身近な食品の中で、豚肉はビタミンB含有量がトップクラス。夏は汗や食欲低下によりビタミンBが不足しやすく、疲労感やだるさの原因になるため、豚肉を食べることで夏疲労の予防になります。さらに、必須アミノ酸をバランスよく含む良質なたんぱく源でもあるため、筋肉や血液、酵素などの材料となり、体力維持につながります」
2位のかつお、3位の納豆、6位のうなぎもビタミンB群が豊富。5位のにんにくには、併せて摂るとビタミンBの吸収を高めるアリシンが含まれている。
「アリシンには抗酸化作用や抗菌作用もあり、免疫力の維持に役立ちます」(望月さん)
3位の納豆、8位のみそ、10位のヨーグルトは発酵食品。暑さで弱った胃腸を整え、腸から全身を元気にする食品として欠かせない。
「旬の夏野菜(3位)の存在も忘れてはならない」とアドバイスするのは、管理栄養士の堀知佐子さんだ。
「夏野菜には抗酸化作用の高いビタミンA、C、Eが豊富に含まれています。スタミナをつけたいからと焼き肉を食べるより、野菜をしっかり食べた方が、疲労回復効果を期待でき、夏バテ予防にも、疲労回復にも役立ちます。おすすめはかぼちゃ、モロヘイヤ、パプリカ。これらを食べて抗酸化力を高め、酷暑に負けない体をつくってください」
質のよい睡眠のための腹式呼吸
「究極の習慣」のトップは質のよい睡眠。そのために必要な、夜間の室温調整や入浴も上位に入った。

「就寝前に行うストレッチ運動として、腹式呼吸をするのも睡眠の質を高めます」と渡辺さんはすすめる。
やり方は、【1】軽くひざを曲げて仰向けに寝て、両手をお腹に置く。【2】鼻から2秒かけて息を吸い、お腹を膨らませる。【3】3秒かけて口から息を吐き、お腹をへこませる。【4】息を吐き切ったら声を出して5つ数える。
「【1】~【4】を6回繰り返し(約1分)、2~3セット行うといいでしょう」
部屋の照明を暗めにして行うと、呼吸が整い寝つきやすくなるそうだ。
私が実践している夏疲労対策
夏疲労の恐ろしさを知り尽くしている10人のスペシャリストが実際にしている対策を、すぐに取り入れよう。
石原新菜さん「薬味を意識して摂る」
「夏の食事には、ねぎやしょうが、みょうが、大葉、こしょう、山椒、七味唐辛子などの薬味を意識して摂るようにしています。薬味には食欲増進、消化吸収を助け、血行促進効果があり、夏の冷え対策になります」

大久保愛さん「食事の最初に酢の物を」
「食事の最初に酢の物やにごり酢の炭酸水割り、マリネなどを取り入れています。夏は胃腸の働きが落ちやすいですが、酢っぱいもの(酸味)は胃酸の分泌を促し、夏バテ回復に必要なたんぱく質やミネラルの吸収をサポートしてくれます。また、毎朝鏡の前で『舌』の状態をチェックし、胃腸の疲れや水分不足などを確認しています」
齋藤真理子さん「深い呼吸をする」
「呼吸が浅くなっていると感じたときは、意識的に深い呼吸をするようにしています。冷房による冷えと外気の暑さによる寒暖差に対応し、自律神経を整える効果があります」

谷本哲也さん「冷たい飲料を一気飲みしない」
「冷たい飲み物のガブ飲みは胃腸に負担をかけ、食欲が落ちる人もいます。私は常温の水かぬるめの白湯、お茶、温かい汁物を少量ずつとり、お腹を冷やさないようにしています」

tsukiさん「体内リズムを崩さない」
「腸内環境と睡眠の質のために一日を過ごすようにしています。朝は太陽の光を浴び、日中はヨガで自律神経を整え、筋トレで体力をキープ。夏も湯船につかって体を温めると、体内リズムが整います」

内藤裕二さん「睡眠時間を確保する」
「最も気をつけているのは睡眠時間の確保。心拍数や皮膚温、活動量などを24時間計測し、健康状態やコンディションを可視化する指輪型のウエアラブルデバイス『Oura Ring』を使い、睡眠を客観的にモニタリング。睡眠の質を上げるようにしています」

福田千晶さん「いつもと同じように過ごす」
「私は医師ですがマスターズの競泳選手でもあるので、夏でもいつもと同じようにトレーニングを行い、いつもと同じように食べています。おそらく同年代の女性と体力、筋肉量などがかなり違うせいか、夏疲労は感じません。食事では、なす、ピーマン、玉ねぎを油で炒め、みそと少量の砂糖で味をつけた『なすの油みそ炒め』をよく食べます」
堀知佐子さん「夏野菜の煮込みを毎日食べる」
「トマトやかぼちゃ、パプリカ、なす、ピーマン、オクラなどの夏野菜の煮込みを大量に作り、1日に1回は食べるようにしています。就寝2時間前の入浴、朝起きてすぐのシャワーも自律神経を整えるのに役立っています」

望月理恵子さん「こまめに水分を補給する」
「意識して水分補給をしています。小さい水筒を持ち歩き、こまめに中身を取り替えています。キンキンに冷えた水よりも、常温~やや冷たい水をのどが渇く前に飲むようにしています」

渡辺恭良さん「水分の摂り方を工夫する」
「1日に1.5~2Lの水分を摂ります。朝と就寝前には電解水素水を。紅茶やコーヒー、緑茶は朝食前か朝食時。仕事のときや集中力を上げたいときは強炭酸水。活動や運動の前後には酢酸・クエン酸飲料というように、飲料の効果特徴を考慮して飲み分けています」
取材・文/山下和恵
※女性セブン2026年8月20・27日号