
美容医療では、医師が「何を説明するか」だけでなく、施術を希望する本人の話をどう聞くかも医療安全に関わることが示された。
美容外科におけるコミュニケーションや医療訴訟に関する研究を整理した論文で、イスラエルの研究者らは2026年8月、施術を受ける本人の希望や感情を正確に把握するための5つの「アクティブリスニング(積極的傾聴)」のスキルを提案した。
「何を話すか」だけでは不十分
・美容医療の特徴→治療目標が本人の主観や希望に左右されるため、医師が話を正確に聞き取ること自体が重要な診断手段になる。
・医療過誤請求→仕上がりへの不満は形成外科の医療過誤請求の14.4%を占め、他の診療科の3.8%より高かった。
・コミュニケーション→苦情や訴訟では、仕上がりへの不満や説明不足、コミュニケーション不足との関連が報告されている。
一般的な外科手術の診療では、病変を診察したり、画像で確認したり、検査値を測定したりできる。一方、研究者らによると、美容外科では、本人が自分の外見をどう感じ、どのような変化を望み、どのような仕上がりを求めているのかといった主観的な要素が、治療方針を考える上で重要になる。
そのため研究者らは、美容外科では「聞くこと」そのものが重要な診断手段になると指摘する。十分に話を聞かないまま治療方針を決めると、手術そのものに問題がなくても、本人が思い描いていた仕上がりとのずれが生じる可能性があるという。
実際、論文で紹介された先行研究によると、仕上がりへの不満は、形成外科での医療過誤に関する請求の14.4%を占めていた。他の診療科では3.8%で、およそ4倍となっていた。
また論文によると、338人の形成・再建外科医を対象に、診療を受けた人から寄せられた苦情を分析した先行研究では、コミュニケーションに関する苦情が全体の19%を占めていた。さらに、顔の美容外科を巡る医療訴訟について27件の研究を検討した論文では、仕上がりへの不満、十分な説明や同意の不足、コミュニケーション不足などが、訴訟の主な原因として報告されていた。
ただし研究者らは、こうした研究で確認されているのは、コミュニケーションのあり方と苦情や訴訟との関連であって、因果関係が証明されたわけではないと注意を促している。聞き方を改善することで実際に訴訟を減らせるかどうかは、今後の検証が必要になる。
今回の論文では、2010年1月から2026年4月までに発表された文献をデータベースから検索。美容や形成外科におけるコミュニケーション、期待のすり合わせ、苦情、医療訴訟などについて報告した研究を整理した。
「聞く力」を5つに整理
・5つの傾聴スキル→「学ぶ姿勢」「判断を急がない」「言い換える」「問いかける」「感情を承認する」という5つの方法が提案された。
・希望の確認→本人の言葉を言い換えて確認し、治療で何を実現したいのか、なぜ今受けたいのかまで掘り下げることが重要。
・治療目標の共有→医師と本人のイメージのずれを減らし、より適切なインフォームド・コンセントにつなげるためにも「聞く力」が求められる。
今回の論文ではコミュニケーションの考え方を基に、美容外科で重要になる「聞く力」を5つにまとめた。参考にされたのは、対立や感情を伴う難しい会話についての専門的な理論だ。
1つ目は「学ぶ姿勢を持つこと」。論文では、専門知識や経験が豊富な医師ほど、早い段階で「この人にはこの治療が合う」と結論を出しやすく、それが十分に話を聞く妨げになることがあると説明する。論文では説明のための想定例として、鼻の手術を希望する28歳の女性を挙げている。単に鼻の形を変えたいのではなく、婚約をきっかけに写真に写る横顔を気にするようになり、重要なイベントまでに自信を持ちたいと考えているケースだ。背景まで聞き取ることで、手術の時期や、どの程度の変化を期待できるのかについての説明も変わってくるという。
2つ目は「判断を急がないこと」、3つ目は相手の話を自分の言葉で「言い換えること」。研究者らによると、言い換えは単に相手の言葉を繰り返すのではなく、医師が理解した内容を伝え返し、認識にずれがないかを確かめるための方法になる。論文では、上まぶたの手術を希望する52歳の男性を想定した例も示している。「若く見えることよりも、仕事の会議で疲れて見えず、元気な印象に見えることを望んでいるという理解で合っていますか」と確認することで、本人が何をもって「うまくいった」と考えるのかを、より具体的に把握できると説明している。
さらに研究者らは、「なぜ今、治療を受けたいのか」「治療を受けて希望通りになったら何が変わるのか」と背景を掘り下げる「問いかけ」と、不安や落胆といった感情を受け止め、それを言葉にする「感情の承認」も重要とする。
研究者らによれば、これら5つは単なる会話のテクニックではない。美容外科では、本人が望んでいる変化そのものを検査や画像だけで把握することができない。そのため、どのような仕上がりを求めているのかを正確に聞き取ることが、治療方針を決める上で重要になるという。
研究者らが重視するのが、聞く力とインフォームド・コンセントとの関係だ。手術の内容やリスクを説明するだけでなく、治療を受ける人が何を望んでいるのかを医師が正確に理解することも欠かせないと指摘する。美容医療では、希望する仕上がりが人によって異なる。十分に聞き取らないまま治療を進めると、医師が考える治療目標と、本人が思い描く結果にずれが生じる可能性がある。研究者らは、希望を決めつけず、理解した内容を確認しながら話を進めることが、より適切な同意につながると考えている。
また、術後に不安や不満が生じた場合も、すぐに医学的な説明を始めるのではなく、まず気持ちを受け止めることが、その後の説明を理解してもらう上で重要になるという。
美容医療を受ける側にとっても、医師が希望や不安をどのように聞き取るかは、治療を選択する際の一つの視点になりそうだ。
参考文献
Or Friedman, Miri Mizrahi Reuveni, Yuval Paniri, Arnon Afek, David Maiershon, The Unheard Patient: Active Listening as a Core Clinical Skill in Aesthetic Surgery, Aesthetic Surgery Journal, 2026;, sjag172,
【プロフィール】 星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。
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