2度めの緊急事態宣言は全面解除されたものの、変異株の広がりなど新型コロナウイルスの感染が心配な状況は続いています。
今回は、新型コロナに感染した際や、生活に困ったときに知っておくといい制度などについて、特定社会保険労務士の小泉正典さんの監修のもと紹介します。
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新型コロナ感染症の治療費は無料、休職時は「傷病手当金」を活用
【質問】
新型コロナに感染していたときに、入院などでかかる医療費はいくらくらいになるのでしょうか。仕事を休むことになった場合の収入減も不安です。(50歳・主婦)
【回答】
新型コロナウイルス感染症の治療費は、国が負担するのでかかりません。新型コロナウイルス感染症の疑いがある場合であればPCR検査も無料です。治療のための入院などで休職した場合は、「傷病手当金」を受け取ることができます。
●治療費、PCR検査は無料
日本には国民皆保険制度があり、国民全員が健康保険に加入しています。そのため、病気やケガをしても、一定の自己負担割合(70歳未満の場合、3割)で治療を受けることができます。
さらに新型コロナウイルスは厚生労働省が「指定感染症」に指定したので、治療費はすべて公費でまかなわれ、治療費はかかりません。ただし、入院した際のパジャマなどの身の回りの品は自分で用意する必要があります。
PCR検査に関しては、発熱や咳といった呼吸器症状などがあり、医療機関や保健所に検査が必要と判断された人や、濃厚接触者と認定された場合は、無料で検査を受けることができます。ただし、受診の際の診察料やPCR以外の検査は自己負担となります。また、自ら民間の病院で検査を受ける場合は、検査費用がかかります。
●感染して仕事を休んだときに役立つ「傷病手当金」
新型コロナに感染して会社を休んだ場合は、加入している各健康保険組合等に申請すると傷病手当金を受け取ることができます。もらえるのは、働くことで得られたはずの給与の約3分の2の金額。支給期間は最長1年6か月です。
これまで、国民健康保険加入者は傷病手当金を受け取ることができませんでしたが、新型コロナウイルスに感染した場合は特例によって、傷病手当金を受給できるようになりました。
対象者は、国民健康保険の加入者のうち、会社等に勤めている人で新型コロナに感染するなどして働くことができなくなった人です。また、国の特例では自営業は対象になりませんが、岐阜県飛騨市や愛知県東海市、愛媛県宇和島市など、自治体独自で個人事業主も対象にしているところもあります。
【ポイント】
・傷病手当金は、新型コロナウイルスに感染したと判定され、会社を休んで給与の支払いがない場合に受け取ることができます。被保険者に自覚症状がなくてもかまいません。
・傷病手当金は、労務に服することができなくなった日から起算して連続して3日を経過した次の日から申請できます。
・傷病手当金の手続きにあたっては、医療機関において労務不能と認められた日付を申請書に記入する必要があります。ただし、新型コロナウイルス感染で医師証明がもらえない場合は、保健所等の通知書と療養状況の申立書でも申請することが可能。(他の書類提出も求められる場合もあるので、自分が加入する健保組合等に確認してみてください)
年金や税金を払う余裕がなくなったら…「減免制度」
【質問】
新型コロナの影響で、休業要請が続いて収入が減ってしまいました。今の生活のままでは、国民年金や国民健康保険の保険料を納める余裕がありません。(56歳・自営業)
【回答】
新型コロナウイルスの支援策として、支払いが難しくなった人を対象に国民年金保険料や国民健康保険料の減免制度があります。
●知っておきたい「国民年金保険料の減免」
国民年金保険料の支払いが難しくなったときは、住所地の市区町村役場に保険料の免除・猶予の申請を行うことができます。現在は、新型コロナウイルスの特例措置によって、収入の減収幅を見込みで申告できるなど、通常よりも手続きが簡易になっています。具体的には、以下の条件に当てはまる人が対象となります。
・2020年2月以降に、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少したこと
・2020年2月以降の所得等の状況から見て、当年中の所得の見込みが、現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準になることが見込まれること
●国民健康保険料・介護保険料も減免できる
国民健康保険料・介護保険料についても、減額、または全額免除の制度があります。免除される金額は、対象となる期間の保険額に、前年の所得に応じ20~100%の割合で計算されます。
細かい計算式は複雑ですが、前年の合計所得額が300万円以下なら、対象期間は保険料全額免除となる可能性が高いです。収入が落ちたことを証明する必要がありますが、緊急措置のために減収幅は見込み額でよく、判断は各自治体に任されています。
国民年金保険料や国民健康保険料に関しては、支払いが困難で延滞しそうになったら、自治体の窓口に相談することをおすすめします。
【ポイント】
・一括払いなどですでに保険料を納めている場合でも、対象期間の納付分を減免できます。
・国民年金保険料の減免を受けると、保険料を全額納付した場合と比べて将来受給する年金額が低額になります。
・ただし、免除等の承認から10年以内であれば、追納して年金額を増やすことができます。
納税や光熱費の支払いが苦しいときは「猶予」を申請
【質問】
飲食店でアルバイトをしていましたが、職を失い、公共料金や税金を支払うのが厳しいです。(62歳・無職)
【回答】
公共料金については、コロナ禍の特例措置により、支払い遅延に対して柔軟に対応してもらえます。納税も猶予してもらえることがあります。
●公共料金は「支払期日延長」を利用
昨年4月、経済産業省は電気・ガス事業者に対して、新型コロナウイルスの影響で料金の支払いが困難な人に対して支払いを猶予するなど、迅速かつ柔軟な対応を要請しました。これにより、一定の条件を満たす場合は、電力・ガス会社に申し出ることで料金の支払いが一定期間猶予されます。
東京電力の場合、新型コロナの影響による休業および失業等で、「緊急小口資金」または「総合支援資金」の貸付を受けている人、または支払い困難な事情がある場合が対象となります。個人だけでなく法人も含まれます。
水道料金についても同様に猶予されます。例えば東京都23区では、申し出をした日から最長で1年間、水道料金・下水道料金の支払いが猶予されます。(申請受付は令和3年3月末まで)
●税金が払えないときは…「納付猶予」
所得税や相続税、贈与税などの国税は、災害によって大きな損害が生じたなど個別の事情によって納税が猶予されることがあります。新型コロナに関しては、以下の2要件を満たしている人が対象となります。
・コロナの影響で2020年2月以降の任意の期間(1か月以上)に、仕事の収入が前年同期と比べておおむね20%以上減少したこと
・一度に納税することが困難であること
市税や固定資産税などの地方税についても、同様に納付の猶予が認められる場合があります。困ったら、まずは所轄の税務署や自治体に問い合わせてみましょう。(現在猶予対象となる国税は、令和3年2月1日までに納期限が到来するもの)
【ポイント】
・電気・ガス・水道料金に関しては、個々の状況次第では、猶予期間後も支払いについての相談できる場合があります。
・電気・ガス・水道料金に関しては、申し出た日から支払いの猶予が開始され、それまでに支払っている料金は、対象とならない場合もあります。
・国税や地方税については、すでに納期が過ぎている未納の国税でも、さかのぼって特例を利用することができる場合もあります。
このように、さまざまな支援制度があります。コロナによって困難な状況になった場合は、すぐにあきらめず、まずは自治体などに相談に行ってみてください。
※手続き内容をわかりやすくお伝えするため、ポイントを絞り編集しています。一部説明を簡略化している点についてはご了承ください。また、令和3年1月25日時点での内容となっています。
監修:特定社会保険労務士・小泉正典さん
こいずみ・まさのり。特定社会保険労務士。1971年生まれ、栃木県出身。明星大学人文学部経済学科卒。社会保険労務士 小泉事務所 代表、一般社団法人SRアップ21理事長・東京会会長。専門分野は労働・社会保険制度全般および、社員がイキイキと働きやすい職場作りのコンサルティング。監修書に『社会保障一覧表』(アントレックス)、『「届け出」だけでお金がもらえる制度一覧』(三笠書房)など。セミナーや講演も多数行う。https://koizumi-office.jp/
●新型コロナ禍の影響で収入減や解雇になったら…生活を助ける「対コロナ緊急支援制度」