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吉永小百合主演『いのちの停車場』 在宅医療の現場を通して描く「どう生きるか?」

5月21日より公開中の吉永小百合(76才)主演の映画『いのちの停車場』。『ふしぎな岬の物語』(2014年)でも吉永とタッグを組んだ成島出監督(60才)の最新作で、在宅医療の現場のリアルを描いた社会派ヒューマンドラマです。

「いのちの停車場」製作委員会
(c)2021「いのちの停車場」製作委員会
写真7枚

吉永が初めて医者役を演じたことでも話題の本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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【見どころ1】現役医師の原作者と吉永作品を多く手掛けた脚本家が織り成す“真実味”

本作は、医師であり小説家でもある南杏子による同名小説を、第35回日本アカデミー賞最優秀監督賞の受賞をはじめ、数多くの映画賞に輝いた映画『八日目の蝉』(2012年)の成島出監督が映画化したものです。この物語では、主人公である女性医師が直面する在宅医療の現場から、“命のあり方”が見えてきます。

2021「いのちの停車場」製作委員会
(c)2021「いのちの停車場」製作委員会
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あらすじ

あらすじはこうです。医師の白石咲和子(吉永小百合)は東京の救命救急センターで働いていたものの、とある事件の責任を取って自ら退職し、実家の金沢に帰郷します。そこで彼女は久しぶりに父・達郎(田中泯)と再会し、彼と生活を共にしながら、仙川徹(西田敏行)が院長を務める「まほろば診療所」で“在宅医”として再出発を果たします。

患者を訪問しての診療は、咲和子にとって初めての経験。“患者の生き方を尊重する”「まほろば」の方針や、行く先々で出会うさまざまな患者とその家族に戸惑いながらも、訪問看護師の星野麻世(広瀬すず)や東京から咲和子を追いかけてきた医大卒業生の野呂聖二(松坂桃李)と共に、診療所になくてはならない存在となっていきます。

2021「いのちの停車場」製作委員会
(c)2021「いのちの停車場」製作委員会
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吉永作品では”常連”の脚本家・平松恵美子が執筆

脚本を執筆しているのは、映画『旅猫リポート』(2018年)などを手掛けた平松恵美子(54才)。彼女はこれまでに、『母べえ』(2007年)や『おとうと』(2010年)、『母と暮せば』(2015年)といった吉永主演作の脚本を担当してきました。本作は医師として実際に多くの人の死を見届けてきた南が執筆したものが原作ではありますが、これは映画です。

登場人物は実体を持ち、声を持っています。いくら現役の医師が目にしてきたものを下地として映画化しても、それが真実味のあるものになるとは限りません。そこで重要になるのが、映画の設計図とも言える脚本です。吉永主演の諸作に携わってきた平松が書いたセリフを吉永が口にするからこそ生まれる真実味があるのだと感じます。

【見どころ2】吉永小百合を中心に、映画界に欠かせない俳優陣が多く出演

日本映画界を代表する俳優の一人である吉永の主演作とあれば、注目しないわけにはいきません。筆者は平成生まれなので、名画座やレンタルDVDなどでの完全な後追いですが、吉永がデビューして間もない頃の『霧笛が俺を呼んでいる』(1960年)や、『伊豆の踊子』(1963年)、『男はつらいよ 柴又慕情』(1972年)などのお気に入りの作品が多々あります。

2021「いのちの停車場」製作委員会
(c)2021「いのちの停車場」製作委員会
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彼女がいかに優れた俳優であるか、その出演作の数々から分かることと思います。「日本映画界が誇る」とは、まさに吉永のこと。これまでの作品でも、彼女の周りにはやはり優れた俳優たちが集まってきましたが、今作も例外ではありません。

咲和子を心から尊敬する医師の卵・野呂役の松坂桃李(32才)、慣れない在宅診療で咲和子をサポートする看護師役の広瀬すず(22才)、「まほろば診療所」に咲和子を温かく迎え入れる院長役の西田敏行(73才)。末期の肺癌を患いながらも、自分らしく生きることを貫く芸者役の小池栄子(40才)や、5年前にがんの手術をしたものの転移が見つかり再発し、咲和子を頼って「まほろば」にやってくる友人役の石田ゆり子(51才)、長年会えていない息子のことを想う膵臓癌患者で元高級官僚役の柳葉敏郎(60才)など、咲和子が訪問診療する患者役やその家族役にも、映画界に欠かせない俳優たちが扮しています。

2021「いのちの停車場」製作委員会
(c)2021「いのちの停車場」製作委員会
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吉永小百合と田中泯のかけ合いも注目

さらには、映画『万引き家族』で注目を集めた佐々木みゆ(9才)が小児がんに冒された少女役を演じ、まさに若手からベテランまで、吉永の脇を固めているのです。

本作にはユーモラスなシーンも多くありますが、“医療現場のリアル”に材を取ったものとあって、やはりシリアスなシーンが続きます。そこで、最期を迎える者と見届ける者とが織り成す人間ドラマが真に迫るものとなっているのは、先に挙げた俳優たちの力があってこそのものでしょう。特にすごいのが、吉永と田中泯(76才)のかけ合いです。

映画内で父娘の関係を演じているのですが、実はこの2人、ともに1945年生まれの同い年なのです。田中を「俳優」だと認識している方が多いかもしれませんが、彼は舞踊家。つまり、身体を使って魅せるプロです。本作では、老いとともに病に冒され、自由が効かなくなっていく咲和子の父を演じており、これを凄まじいまでの身体表現で実現させています。対する吉永は演じるプロ。声の調子だけで娘であることを示します。この2人だからこそ見事に成立する父娘役なのだと思いました。

【見どころ3】“咲和子さん”と一緒に向き合う「どう死ぬか」という人生のテーマ

本作は咲和子が、“命を救う現場”から、“命を見届ける”現場へと活動の場を変えることから始まります。その先で待っているのは、冒頭でも記したように“命のあり方”をどう考えるかです。「死」や「命」に対する考え方は人それぞれ。咲和子は“救う”ことや、どうにかして“延命”することが当然だと考えていたものの、「まほろば診療所」を介して多様な考え方を知るのです。

2021「いのちの停車場」製作委員会
(c)2021「いのちの停車場」製作委員会
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完璧ではない主人公が悩み、苦しむ姿に共感

筆者は医療に詳しいわけではありませんが、いつか誰しもに訪れる「最期=死」について考えることはあります。「どう生きるか?」という問いは、ひるがえって「どう死ぬか?」という問いに近しいものだと思います。この後者の問いに直面する患者たちに咲和子は出会い、やがて彼らに寄り添う“医療行為”を知っていきます。咲和子はみんなから尊敬される医師ですが、完璧ではありません。悩み苦しみながら、患者たち一人ひとりの想いを知っていくのです。私たち観客も、咲和子を通して、咲和子とともに、彼らの置かれた現状や感情を知り、考えていくこととなるでしょう。

生き方に正解がないように、咲和子が患者たちと見つけていく答えも、それが正解なのかは分かりません。ただ、彼女は寄り添ってくれます。そして、彼女のような医師が実際に存在します。本作を観た後、描かれている医療の現場のリアルを日常に持ち返り、改めて“命のあり方”について考えさせられる。そんな映画なのだと思いました。

文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。折田さんTwitter

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