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永野芽郁主演で話題『地獄の花園』 バカリズムが描く“女の闘い”の斬新さと清々しさ

5月21日より公開中の永野芽郁(21才)が主演を務める映画『地獄の花園』。公開から最初の土日2日間で観客動員数13万5000人、興収収入は1億4800万円を記録し、初登場1位を獲得した話題作です。

『地獄の花園』の画像
(C)2021『地獄の花園』製作委員会
写真8枚

“ヤンキーOL戦国時代”を描いたコメディとアクションのバランスが心地良い本作は、気持ちがどんよりしがちなこのご時世にスカッと気分転換できる作品となっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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【見どころ1】奇想天外な“ヤンキーOL戦国時代” ユニークな脚本は「さすが」

本作は、お笑い芸人や俳優、脚本家など、マルチな才能を見せるバカリズム(45才)がシナリオを手掛けたもの。“華麗なるOLの世界の裏で、実は血で血を洗う派閥争いが繰り広げられている”──そんな奇想天外なオリジナル脚本を、Perfumeやサカナクションなど、数々のアーティストのミュージックビデオを手がけてきた関和亮(45才)が監督している。

主演の永野芽郁はごく普通のOLを演じており、彼女が“ヤンキーOL”たちの抗争に巻き込まれていくさまが描かれます。広瀬アリス(26才)、菜々緒(32才)、川栄李奈(26才)、お笑いトリオ・森三中の大島美幸(41才)らが、主人公・直子(永野)がOLとして勤める職場の同僚役として登場し、社内外での激しい抗争を繰り広げていくのです。

『地獄の花園』の画像
(C)2021『地獄の花園』製作委員会
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バカリズムのアイデアと視点に感服

あらすじはこうです。素敵なOLライフに憧れる直子の職場に、カリスマヤンキーOLの蘭(広瀬)が中途採用されてきます。この蘭という女性が、とにもかくにも強い。相手が何人いようと関係なし。それまでは、“悪魔の朱里”の異名を持つ朱里(菜々緒)、“狂犬”と呼ばれる紫織(川栄)、“大怪獣”と恐れられる刑務所帰りの悦子(大島)の三者がそれぞれの派閥を率い、頂上(テッペン)を目指して乱闘を繰り返していたものの、ここに“主人公タイプの一匹狼”である蘭が加わることで、社内の勢力図が一変してしまうのです。

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(C)2021『地獄の花園』製作委員会
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ひょんなことから蘭と仲良くなったカタギのOLである直子も、いつしか“地上最強のOLの座”をかけた抗争に巻き込まれてしまうことになるのです。

一見“花園”にも見えるOLの世界の裏で、もしもこんな抗争が起きていたら──バカリズムの発想のユニークさは、「さすが」の一言です。“OL×ヤンキー”の組み合わせに関しては、鑑賞中「よくぞこんなことを考えたなあ……」と何度も声を上げて笑いながらも関心しきりでした。女子高生の抗争や、アイドルの抗争を描いた作品は過去にもありますが、OLの抗争を描いたものは初めてだと思います。

女性同士の闘いや絆というものを、少しだけ視点を変えてみたり、アイデアの組み合わせを変えてみるだけで、こんなにもユニークな作品になるのだと考えさせられました。

【見どころ2】ツッコミどころ満載の登場人物それぞれの役どころに注目

物語の発想がユニークな作品ですが、キャラクターの配置も面白いのが本作です。主人公の直子は“OL戦国時代”にありながら、ごく普通のOLとして素敵なOLライフを夢見ています。すぐそばで罵声が飛び交っていようが、流血ものの乱闘が起こっていようが、彼女はどこ吹く風。

火花を散らし合う女たちの横で、自販機で何のジュースを買うかで悩んだり、「彼氏欲しい」などとのんきなことを考えています。

どうやら彼女は、努めて“平和主義”や“暴力反対”の姿勢を取っているわけではなく、純粋に平凡なOLライフを謳歌しようとしているだけなのです。彼女の表情も、口から出てくる言葉も、まるで周囲の者たちとは無関係。演じる永野の終始すっとぼけたような態度が印象的です。このアンビバレントな構図が絶妙なおかしみを生み出しています。

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(C)2021『地獄の花園』製作委員会
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広瀬アリスの役者としての“振れ幅”を堪能できる

そんな直子と仲良くなるのが広瀬アリス演じる蘭です。蘭の登場によって直子も抗争に巻き込まれますが、これが本作の主軸となるので、つまり広瀬は本作において、物語が動くきっかけとなる重要な役どころに配されているのです。これまでさまざまなタイプの作品やキャラクターに挑戦してきた彼女ですが、本作では広瀬の演技の振れ幅の大きさが遺憾なく発揮されています。

敵対する者に対してはドスの利いた声とともにメンチを切り、アクション俳優よろしく派手に立ち回ります。しかし直子と2人きりのときは、ドラマの感想を言い合ったり、コピー機を上手く操作できずに慌てていたりと、等身大の年頃の女性像も垣間見せます。

リーダーとしての才能も見せる蘭のカリスマ性をエネルギッシュに表現している広瀬の演技が本作にもたらしているものは大きいと言えるでしょう。

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(C)2021『地獄の花園』製作委員会
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遠藤憲一が“お局OL”として登場

もちろん、菜々緒、川栄李奈、大島美幸も本作の盛り上がりに大きく貢献しています。三者とも特攻服を身にまとい、ヘアスタイルはドレッドにパンチパーマ。その見た目からしてかなりの気合いが感じられます。それでいて、彼女たちはただの“ワル”ではなく、仲間のことを大切にし、仕事は仕事で集中する。フザケているのかマジメなのか……。

観客をそっちのけで、真剣にいまを生きています。そのひたむきな姿は観る者に勇気すら与えてくれるでしょう。

さらには、遠藤憲一(59才)が他社の総務部の“お局OL”として登場するほか、小池栄子(40才)が都市伝説とされてきた“地上最強のOL”に扮しています。これらのキャスティングからしてツッコミどころ満載なのに、登場人物が真剣に争い合うから面白い。俳優それぞれの新しい顔が見られると思いますし、彼女らの組み合わせから生まれる“意外性”も楽しめると思います。

【見どころ3】笑えるフィクションだからこそ感じる女性の現実

筆者にはOLの経験がないため、その実態がどんなものなのかは分かりません。少なくとも、本作に見られるものとは違うのでしょう。ですが、人と人とが集まれば、揉め事や女性同士のトラブル、男性社員や上司などとの敵対、あるいは友情が生まれることもあることでしょう。

本作に登場する女性たちの生き様からは、敵対していても他者を認め、やがて連帯していく“学び”を得られます。勝ちは勝ち、負けは負けだと認め合う器を持つ彼女たちは潔く、清々しいのです。とは言っても、そこで介在するのは“力(腕っぷし)”ではありますが……。

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(C)2021『地獄の花園』製作委員会
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また本作には、大きな仕掛けがあります。素敵なOL生活を夢見る直子には、実はヒミツが……というものです。演じる永野芽郁がアクションを披露している映像があちこちで公開されているので、それとなく想像を膨らませている人も多いことと思います。ぜひその仕掛けにも注目してもらえばと思います。

ハイヒールやパンプスに見る「生き辛さ」

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(C)2021『地獄の花園』製作委員会
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一点、筆者が本作を観ていて非常に気になったことがあります。登場人物たちが、パンプスやハイヒールを履いていることです。これはOLや女性ならば珍しくないことかもしれません。しかし、彼女たちは乱闘に加わるのにもそれを履いたままなのです。走ったり跳んだりするので、かなり危険です。現実のOLの方々は乱闘こそしないものの、慌ただしく歩き回る姿を見かけることはあります。

もちろん、好きで履いている方もいるのでしょうが、パンプスの着用を是とする社会風潮に対し「#KuToo」などの社会運動が起きているのも事実です。劇中でパンプスに目が行く度に、社会に浸透する女性特有の生き辛さのようなものも感じずにはいられませんでした。フィクショナルな作品で現実とのギャップがあるだけに、個人的にはそうした些細な描写やカットに注目する見方もあるのではないかと感じました。

文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。折田さんTwitter

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