司会・女優・コメディエンヌなど、さまざまなジャンルで活躍し、『好きなタレント調査』(NHK放送文化研究所)で女性部門3年連続1位に輝いたこともある久本雅美さん(63歳)。以前は毎日のように飲み歩いて午前さまは当たり前、広い交友を誇っていた久本さんも、還暦を過ぎて人付き合いが変わったと言います。どんな変化があったのかうかがいました。
刺激を求めるなら男友達、行きついたのは女友達
「若いころは人と出会うことが楽しくて、刺激的で。仕事が終わると、とにかく誰かと飲みに行っていました。朝8時入りですと言われると、7時55分まで飲めるじゃん、ぐらいの勢い(笑い)。眠っている間におもしろいことがあったらどうしよう、寝るのがもったいないと思っていた。それが毎日のエネルギーになっていたし、出会いは財産でもありました。
でも、もうそんな体力も気力もありません。夜9時くらいになると眠たくなるので、飲み会に参加しても2次会には行かなかったり。むしろアルコールなしのランチにするなど、健全な交流にシフト中です。ディナーをするとしても、6時くらいから食べ始めて、気の合った仲間たちと穏やかな時間を楽しむようになりました」(久本さん・以下同)
やっぱり女同士って最高だな
刺激を求めるなら男友達だと、2、30代のころは男性とばかり飲み歩いていた。
「みうらじゅんと何人かで旅行に行ったり、役者仲間の古田新太や池田成志たちと朝まで飲んだりしていました。この頃、同性より、異性のほうが刺激的で面白かったし、同性だとつい自分と比べて自己嫌悪に陥ったりしたので、男友達のほうが楽しかったんです。
でも年齢を重ねると女性同士とも素直に認め合えるようになり、やっぱり女同士って最高だなと思える。もちろん、友情の糸が切れないように、お互いの歩み寄りは大事ですけどね」
おいしいものを食べながら大切な人と過ごす時間は宝
勝手のわかったなじみのメンバーに、グループLINEで「いついつにどこでね」とスムーズに約束を取り付ける。ここでも省エネモード。
「柴田理恵さんは家が近所で料理上手なので、食事に誘われて手料理いただきながら飲むこともあります。コロナ禍で内食は増えましたね。ZoomやLINEのビデオ通話を使うようになったのも大きな変化です。甥っ子がアメリカに住んでいるのだけど、6歳と5歳の甥っ子の子供が“オバチャーン”って連絡してきて、すごく身近になりました。可愛いから忙しくてもつい出ちゃう(笑う)。遠くの人と気軽に連絡できて、距離が縮まったのは良かったよね」
ビートたけしとの交流
60歳を過ぎ、「生涯のうちであと何回食事ができるんだろう」と考えて、少々値段が高くてもおいしいものを選ぶようになったという。
「おいしいものを食べながら大切な人と過ごす時間は宝です。ありがたいことにビートたけしさんが呼んでくださる機会があって、女優の岸本加世子ちゃんと一緒に、1年に3、4回は食事に連れていってもらっています」
ビートたけしからは、女性芸人は「女性であるべき」「女性だからこそ」「女性を捨てること」の振り幅が大きければ大きいほど面白くなると教わり、引き出しの一つになっているという。
衝突することもあった柴田理恵は、いまや一生の友人
人とのつながりを大切にしている久本さんに、意識していることを尋ねた。
「親しい仲でも誠実であること。気持ちのいい会話や飲み方じゃないと楽しくないよね。深い友達は別として、基本的には難しい話題やネガティブな話はしません。私はかなり空気を読みますよ。1人でも空気を壊す人がいたら、嘘でしょ、って思っちゃう(笑い)」
合わない人との付き合い方
それでも気が合わない人がいたら、どうすればいいのか。
「まずは顔には絶対に出さない。私は“挨拶は自分から笑顔で”を心掛けています。“寒いですね”などプラスアルファの言葉をかけ続けていると、相手との距離も縮まる気がします。さわやかな挨拶から1日が始まれば、自分も周りの人も気持ちがいいよね。
ただ、理不尽な人はいますよね。そういう人とは無理に付き合う必要はないと思う。注意しないといけないのは、あの人はイヤ、気にくわないとバサバサ切っていると、孤独になってしまう。それに人間関係は変わるものです。柴田さんとは40年来のつきあいですが、若いころは衝突することもありました。でも今は熟年夫婦のような、一生の友人になりました(笑い)」
◆お笑いタレント・女優・久本雅美さん
1958年7月9日生まれ。大阪府出身。佐藤B作主催の『劇団東京ヴォードヴィルショー』を経て、1984 年に演出家の喰始、柴田理恵らと劇団『WAHAHA 本舗』を結成する。『秘密のケンミン SHOW 極』『ヒルナンデス!』(共に日本テレビ系)など、舞台のみならず、テレビ、映画、CMなどで幅広く活躍中。今年11月、明るく生きる82のヒントを書いたエッセイ『みんな、本当はおひとりさま』(幻冬舎)を出版。
撮影/浅野剛 取材・文/小山内麗香