
長年住んでいた実家には荷物がてんこ盛り。計画的に片付けていかないと、いざ実家を売却すると決まったときに、大変なことになってしまいます。タレントの松本明子さん(56歳)が体験した、そんなドタバタの「実家じまい」を描いた『実家じまい終わらせました! ――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)が話題を呼んでいます。実家じまいの中でも特に遺品整理に注目して、松本さんに振り返っていただきました。
突貫作業だった遺品整理、廃棄費だけでも約100万円
実家の売却を決意してから、無事に買い手が見つかって胸をなで下ろした松本さん。それもつかの間、地獄の遺品整理が待っていた。
「売却が決まってから3か月以内に荷物を片付けなければなりませんでした。大切なものと不要なものを時間をかけて仕分けしたかったんですが…。
両親は私のものを大事に保存してくれていて、小学生のときの縦笛やハーモニカ、中学3年生で応募した書道コンクールの作品、芸能界に入ってから私が出演したテレビ番組も欠かさずビデオに録画してくれていて、新聞や雑誌などもファイルしてありました。段ボールを開けるたびに思い出に浸ってしまって作業が進みません。けれど、のんびりする時間はありませんでした」(松本さん)

遺品に向き合うことができなかった後悔
東京から実家のある香川県高松市まで、飛行機や車での往復で約24万5000円、引き渡し期限間際には仕事の合間に行ってホテルに宿泊、最後には健康ランドに連泊して約10万円の費用がかかった。

「片付けの最後の頃は、朝8時から夜11時まで作業して、健康ランドに泊まるという生活でした。ほかのお客さんたちと雑魚寝なので、松本明子だってバレバレです(笑い)。交通費や宿泊費よりも費用がかさんだのは、家財や遺品の廃棄費です。2トントラック10回分もの量になり、合計100万円ほどかかりました。
残念なのは、時間も気力も体力もなかったので荷物をろくに確認できず、捨てるものを決めてしまったことです。買い取り業者さんに引き取ってもらったピアノが4000円にしかならなかったこともあり、大した金額にならないのならと、家具や家電は粗大ごみにしてしまいました。
後悔したのは、家財や遺品を丸ごと整理して売れるものは売ってくれる業者さんの存在を知らなかったことです。父に買ってもらった立派なステレオセットなど、価値がついたものがいろいろとあったかもしれません。時間があればゆっくり吟味したかったし、懐かしい記憶に思いを馳せていたかった。けれど時間に追われてしまって、遺品に向き合うことができませんでした」

思い出の品の捨て時は難しい
遺品整理をしていると、両親の意外な面を知ることにもなった。

「父の本は数でいうと2000冊以上あったのですが、百科事典の裏に隠すようにエッチな本や雑誌を見つけて苦笑いです(笑い)。母の日記には“夫が浮気してるかも”と書かれていて、こちらも複雑な気持ちになりました。両親のプライベートなものを見て、見たくなかったという気持ちと、そういうことを思っていたんだという発見と、両方ありました。
また、書斎には父が書き上げた小説の原稿が残っていて、父の夢の欠片に触れた気がして感動しました。両親の新たな面を知ることは心情的にはおもしろかったんですけど、物理的には大変でした。どれも思い出が詰まっていて捨てづらいですしね」

どこかのタイミングで処分しなければ…
松本さん自身も息子をもつ母親だ。自分の荷物はどうするのかを聞いた。
「小中学生時代に集めていたピンク・レディーのブロマイド、松田聖子ちゃんや山口百恵ちゃんの切り抜きなどは捨てられずに実家から東京に持って来たのですが、これらは息子にとってはまったく価値も興味もないんだろうなって痛感しました。
息子に遺品整理で大変な思いをさせないために、どこかのタイミングで処分しなければいけないと思うのですが、結論は出ていません。死ぬまで残っちゃいそう。息子に文句言われるんだろうな(苦笑)。私は親の遺品で苦労したけど、連鎖しちゃいますね。自分だけの宝物って、どこで踏ん切りをつければいいんでしょうね」

財産のことは生前、親子で話すべき
壮絶な遺品整理をすませた松本さんは、親が健在なうちに荷物を整理しておくべきだと話す。

「親が大切にしていたものは残しておきたかったけれど、亡くなっていたら確認できません。大切なものはなに?と両親に聞きたかったですね。思い出の品を捨てるのもつらいので、ある程度の年齢になったら、子供に負担をかけないように荷物を整理しておくのも大事だと感じました。子供に見られたくないものは特に(笑い)。
財産のことも両親と話しておけばよかったと後悔しています。たとえば、父親名義の預金通帳がみつかって、銀行に問い合わせたところ“残額が1円あるので、取りに来てください”と言われました。1円のために、往復の飛行機代の6万円をかけられません。両親に生前整理をしてほしいとは言いづらいと思いますが、“口座に1円しか残っていなくても、子供が大変な目にあうらしいよ”と私の体験談を使って切り出してみてください(笑い)。
シリアスな問題ではありますが、遺品整理は誰もが通らなければいけません。この本をきっかけに、ご実家のこと、ご家族のことを明るく話せるきっかけになったり、参考になることが少しでもあると嬉しいです」

◆タレント・女優・松本明子さん

1966年4月8日生まれ。香川県出身。1982年にオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)で合格し、翌年に歌手デビュー。その後、元祖バラドルとして『DAISUKI!』や『進め!電波少年』(共に日本テレビ系)などに出演し、人気を確立。現在はバラエティー番組の他、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動中。今年6月、『実家じまい終わらせました! ――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)を出版。https://twitter.com/akkotongattelne
撮影/平野哲郎 取材・文/小山内麗香