今夏、日韓でヒットを飛ばした異色のヒューマン・ヒーリングドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』には、ヒロイン、ウ・ヨンウの大好物として(というよりも毎食コレ)韓国風ののり巻き・キンパが頻出。ウ・ヨンウがおいしそうにキンパを食べる姿が話題を呼びました。このドラマだけじゃありません! 韓国ドラマと食は切っても切り離せない関係。そんな韓国のユニークな食習慣や食文化を、ドラマの名場面と共に韓国エンタメライターの田名部知子さんが紹介します。
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天才弁護士、ウ・ヨンウはなぜ「キンパ」しか食べないのか
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、自閉スペクトラム症の新人弁護士 ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)が、持ち前の天才的な頭脳でさまざまな難事件を解決していく痛快さと、ウ・ヨンウが弁護士、人間、女性として成長を遂げる姿、周囲の人々の温かさが心地よく、見終わったあとのロスにもだえる人を数多く生み出した久しぶりの大ヒット作でした。
ウ・ヨンウが、朝昼晩と食べ続けるほど愛してやまないのが「キンパ」です。その理由は「中身が一目瞭然で、予想外の味に驚くことがない」 といういたってウ・ヨンウらしいもの 。そもそもキンパとは、韓国語で「キム=のり」「パ(ブ)=ごはん」を意味し、ごま油で味付けしたごはんに、ツナやスパム、にんじん、ほうれん草、卵焼き、かにかま、たくあんなどたくさん具材をのりで巻いて作ります。これ1本で、たんぱく質、糖質、脂質、野菜などがバランスよく摂れ、朝食や遠足のお弁当のメニューとして韓国人に愛され続けています。
値段は200円程度とかなりリーズナブルだったのですが、コロナ禍を経て外食産業の値上がりと共に、 この8月にはキンパの平均価格が約310円になるという報道がありました。
スポーツ観戦&漢江デートの定番は「チメ」
2020年の大ヒットドラマ『愛の不時着』では、ジョンヒョクとセリがジョンヒョクの後輩軍人たちとともに、ソウルのバルでチキンとビールを飲みながら日韓戦を観戦して大盛り上がりし、彼らにとってかけがえのない思い出になるという大切なシーンがありました。
韓国ではフライドチキンとビールの組み合わせは鉄板で、「チメ」(チキンとメクチュ〈ビール〉)と呼ばれ、2002年の日韓共催のサッカー・ワールドカップのころから定着した比較的新しい食文化です。大勢で盛り上がりたいスポーツ観戦や、ソウルの真ん中を流れる漢江(ハンガン)でのデートや女子会、家族連れのピクニックには必須のアイテムです。韓国ではアウトドアシーンでも出前を頼めるので、ソウル旅行のお天気のいい日には、ぜひふらっと出かけて気軽に楽しんでみてください。
女性から「うちでラーメン食べていかない?」と言われたら…?
王道ラブコメディ『キム秘書は、いったいなぜ?』では、これから恋愛関係に発展するかも?という段階で、ミソ(パク・ミニョン)が ヨンジュン(パク・ソジュン)を、「うちでラーメンを食べていきませんか?」と気軽に誘います。
ところがこれ、女性が男性を家に誘うときの特別な誘い文句なのですが、恋愛経験のない2人にはこの認識がありません。後日それぞれの友人からその事実を聞かされ、驚くやらニヤケるやら。日本の場合だと、「お茶でも飲んでく?」という感じですが、恋が深まるきっかけがインスタントラーメンとは、国民全員がラーメン好きな韓国ならではだと思いませんか。
エプロン必須!とにかくよく混ぜて食べるジャジャン麺
チキンと並んで出前での人気が高い「ジャジャン麺」は中華のジャンルで、真っ黒なソースがかかった韓国の国民食。
日本のジャージャー麺とはまったく味が異なります。チュンジャン(八丁味噌に近い)と呼ばれる黒味噌をベースに、カラメルの甘じょっぱい味付けは香ばしく深いコクがあり、豚肉、玉ねぎ、キャベツなどが具材として使われます。つけ合わせには必ず、生の玉ねぎと日本から伝わった黄色いたくあんが提供されるのですが、濃厚な味によく合い、韓国人にとって特にたくあんなしのジャジャン麺は考えられないと言います。
食べる前には、真っ黒なソースと中華麺をよく混ぜるのがポイント。日本ならぎょっとされるようなお行儀ですが、箸を左右1本ずつ持ってしっかり握りグリグリととにかくよく混ぜます。結構大変な作業で黒い味噌が洋服に飛び散るため、お店では必ずエプロンをもらってくださいね。
『賢い医師生活』 では、胸部外科医のジュンワン(チョン・ギョンホ)が気になる女性軍人イクスン(クァク・ソニョン)のジャジャン麵を混ぜてあげ、イクスンはつけ合わせのたくわんを、お礼にそっとジュンワンのジャジャン麺の上に乗せてあげるシーンがありました。もうすぐ付き合い始めそうな2人が、ジャジャン麵を通して微妙な距離を縮めていく姿にほっこりさせられますが、彼氏が彼女のジャジャン麵を混ぜるのは日常の光景です。
また、ジャジャン麺は日本でいう「引っ越しそば」のような役割として引っ越しの日に食べたり、4月14日の「ブラックデー」と呼ばれる日には、彼氏彼女のいない人たちが全身黒づくめでこのジャジャン麺を食べるというユニークな風習もあります。