
多くの人が「いつまでも健康で若々しくいたい」と望んでいることでしょう。その願いをかなえるのに一役買ってくれる若返りホルモンを研究しているのが、『ひざたたき 世界一簡単な健康法』(アスコム)の著者で整形外科医・美容皮膚科医の中村光伸さんです。若返りホルモンを分泌する簡単な方法として中村さんが考案した「ひざたたき」を、ぜひ実践してみましょう。
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臓器を活性化させる若返りホルモン「オステオカルシン」
中村さんが研究しているのは「オステオカルシン」という、「骨ホルモン」とも呼ばれるホルモンです。このホルモンが血管を通って体のすみずみに運ばれることで、臓器が活性化されるのだといいます。
「心臓や肝臓、腎臓、すい臓、腸など、多くの臓器に働きかけるため、全身の機能をトータルに向上させて、肥満症、糖尿病、認知症、動脈硬化などの予防や改善にも効果が期待されています」(中村さん・以下同)
骨の新陳代謝とともに分泌される若返りホルモン
この若返りホルモン「オステオカルシン」は、骨がつくられるときに分泌されます。骨は古くなった部分から新しくつくり替えられる新陳代謝を繰り返し、約5年で新しい骨へ生まれ変わるといわれているそうです。

「骨の新陳代謝は、古い骨を壊す→新しい骨をつくる……という繰り返しです。このとき骨を壊す働きをするのが『破骨細胞』。骨をつくる働きをするのが『骨芽細胞』です。注目していただきたいのが骨芽細胞で、この骨芽細胞が働いているときに、若返りホルモンが分泌されます」
加齢や運動不足で骨芽細胞の働きがダウン
一方で、40歳を過ぎると骨づくりのスピードが落ちてしまうのだそうです。それは、骨を壊す破骨細胞の働きと骨を作る骨芽細胞の働きのバランスが崩れ、骨づくりのスピードが追いつかなくなってしまうため。そこで中村さんが考案した「ひざたたき」を実践し、刺激を与えることで、骨づくりの働きを活性化することができるのだそうです。
「簡単にいうと、骨を作る骨芽細胞は、骨に負担がかかることに反応して働きます。骨に刺激が加わるなどして負荷がかかると『もっと強い骨をつくれ』という指令が出て、骨芽細胞が頑張るのです」
また、加齢に限らず、運動不足など骨に衝撃が加わらない生活を続けることも、骨芽細胞が働かなくなる原因に。年齢を重ねるごとに運動能力も落ちてしまうなど、骨へ刺激を与える機会が減りやすくなりますが、そうするとやはり、若返りホルモンの分泌も減ってしまうといいます。

効率的に骨へ刺激を与える「ひざたたき」
中村さんが考案した「ひざたたき」は、座って行うことができるので「けがや転倒のリスクが小さく、効率的に刺激が与えられる」簡単な方法なのです。
骨に刺激を与えられるならば、たたくのはどこでも構わないそうですが、「骨に効率よく刺激を与えるには、なるべく大きな骨をたたく、また、厚い筋肉に覆われていると刺激も伝わりにくいので、筋肉が薄い場所がよいでしょう」と中村さん。
「ひざたたき」は、きつい運動をするよりも習慣化しやすいのもメリットです。やり方を知って、実践してみましょう。
「ひざたたき」のやり方
「ひざたたき」のやり方は、いすに座り、右のこぶしで右ひざの上を、左のこぶしで左ひざの上を交互にトントンたたくだけです。

【ポイント】
・手は軽く握ってタテに
・ひざの皿とももの間あたりを上からまっすぐにたたく
・ひざから下はなるべく床と垂直にする
・かかと、足の裏をしっかり床につける
こぶしは胸のあたりの位置からまっすぐに落とすようにすると、ちょうどいい刺激になります。また、ひざの皿を直接たたくとひざも手も痛くなってしまうので、ひざの皿とももの間あたりをたたきます。
「ひざたたき」を行う際の注意点
一度に100回たたくと、ひざが痛くなる人もいるので、一度に20回ほどを目安にして、1日の合計が100回になるように分けるのがよいでしょう。また、力いっぱいたたかなくても大丈夫なので、痛みを感じない程度の強さで行います。さらに、2つのポイントに気をつけると効果的です。

まずは、背中を丸めないこと。背中が丸まっていると、こぶしを高い位置から落とすことができないので、よい姿勢を意識するとよいです。

太もものあたりは筋肉が厚く、骨に刺激が伝わりづらいので、ひざの皿とももの間をたたくのがポイントです。
「ひざたたき」を継続するためのコツ
自宅でテレビを見ているときや、電車やバスに乗っているときなど、ながらでできるため、習慣化しやすい「ひざたたき」ですが、さらに楽しく続けるためのコツも教えてもらいました。
家族や友達に話す
「仕事や普段の生活の中で、誰かに教えたり、アドバイスしたりしたときに、そのおかげで自分でも強く意識するようになったことがありませんか?」と中村さん。
自分で話したことを信じる効果は、心理学でも研究されているのだそうです。さらに、人にアドバイスをしておきながら自分ではやらない、というのも居心地が悪くなるもの。中村さんはこの心理を「ひざたたき」にも応用し、人に教えることをすすめます。
「一緒に取り組む仲間が増えたり、『ひざたたき』について会話する機会が増えたりすると、もっと続けやすくなります」

1日1回でも、続けることで成功体験を積む
高い目標を掲げると挫折しやすくなります。「とにかく目標は低く! やめないことが第一です!」と中村さん。
1日100回が目安ですが、100回できなかったから「自分はダメだ」と思って投げ出さずに、10回でも1回でもやれた自分をほめてあげることで、脳に成功体験を積んでいきましょう。
音楽に合わせて楽しく行う
例えば、ラジオ体操の音楽を聴くと、最近まったくやっていなかったという人でもなんとなく体が動くのは、音楽と一緒に運動を覚えているから。
「音楽が体を動かすきっかけになっているのですが、音楽の効果はそれだけではありません。音楽に合わせて運動すると、単に運動するよりも認知機能が高まりやすいといわれています」
テレビ番組やCMの音楽や、毎日聞いているお気に入りの曲に合わせてたたくのも習慣化のために効果的。単純ながら、楽しく続けられるコツのひとつです。
◆教えてくれた人:整形外科医、美容皮膚科医・中村光伸さん

光伸メディカルクリニック院長。医学博士。日本整形外学会認定医。日本体育協会公認スポーツドクター。日本抗加齢学会認定医。整形外科から美容外科、美容皮膚科、リハビリテーション科まで幅広く診療し、若々しい体を取り戻す「リバースエイジング」の専門家として、テレビや雑誌など多数のメディアに出演。整形外科医の知見から、若返りホルモン「オステオカルシン」の研究を進め、骨の強化と全身の機能回復を両立する「ひざたたき」を考案。著書に『ひざたたき 世界一かんたんな健康法』(アスコム)など。https://www.kmcl.jp/