
年齢を重ねるにつれ「高いキーの曲が歌えなくなった」「声がかすれる」などといった、声の変化は、声の老化によるものかもしれません。しかし、声の老化とは一体どういうことなのでしょうか。声が老化する原因と対処方法、声のアンチエイジングに効果が期待できる食材や漢方薬について、薬剤師の山形ゆかりさんに教えてもらいました。
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声の老化症状と原因
声の老化症状には、高いキーが出にくい、声のかすれ・ガラガラ、滑舌が悪くなった、声が長く続かないなどがあげられます。その原因となる声の老化原因は、主に4つあります。

更年期
女性の更年期は、女性ホルモンや自律神経が乱れやすくなっています。更年期の影響で血流が悪くなると声帯がむくみやすくなったり、唾液の分泌量が減ることで声帯が乾燥したりするのです。これにより、高いキーが出にくくなったり、声がかすれたりするといった症状があらわれます。
声帯細胞の減少
発声する際の振動体となる声帯粘膜を正常に保つ物質の生産は、加齢による影響で減少します。それにより、声帯粘膜が機能低下を起こすと、声が出しにくい、かすれるなどの変化が生じます。
筋肉の老化
声を出すときは、声帯が声門を閉じ、そこを呼気がすり抜けることで声帯粘膜を振動させています。しかし、加齢による筋肉の萎縮で声帯がたるむと、声門をうまく閉じることができなくなり、声帯粘膜の振動が弱くなることで声がかすれたり、しわがれたりする変化が起こります。

また、声の音色や響き、滑舌などに影響を与える「共鳴腔(きょうめいくう)」も加齢によって筋肉の萎縮が起こったり、機能低下を起こしたりするので、声が響きにくくなったり、滑舌が悪くなったりするなどの症状があらわれます。
肺の老化
加齢によって肺が老化して肺活量が低下すると、声帯粘膜を振動させる声門下圧(吐く息の強弱)が低下するため、声が長く続かない、声が不安定になる、声が弱くなるなどの変化があらわれます。
声のアンチエイジング方法
日常生活でできることとしては、1日10分程度、新聞や本を朗読したり、早口言葉を言ったりすることが発声に関する筋肉の老化予防につながります。長時間話したり、歌ったりするときはこまめに水分補給をして、声帯が乾燥しないように意識してください。

また、喉の筋肉にアプローチする発声練習をすることも有効です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が公開している「発声機能拡張訓練」も咽頭の筋肉や肺機能を向上させる効果があります。次に紹介する方法で、1回2セット・朝と夜の1日2回行うとよいでしょう。
発声持続練習(喉頭筋の準備運動)
はじめに「いー」と、息が続く限り発声してください。次に、口を閉じて「んー」と、息が続く限り発声します。自分の出しやすい音域で構いません。
音階上昇練習(喉頭筋の伸長トレーニング)
音階上昇練習は自分が無理なく出せる低音から「おー」と発声を始め、発声したまま2オクターブ程度高音まで上昇させます。高音の状態をキープしたまま3秒間発声を続けましょう。
音階下降練習(喉頭筋の収縮トレーニング)
上昇練習で出した一番高い音から「おー」と発声を始め、発声したまま2オクターブ程度低音まで下降させます。低音の状態をキープしたまま3秒間発声を続けましょう。
音階の上昇・下降練習は、どちらも口の形を「お」に固定して崩さないことがポイントです。
特定の音での発声持続練習(喉頭筋の筋力強化)
「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」の音程で、それぞれ息が続く限り「おー」と発声します。
声を老化させるNG行動
逆流性食道炎や咽喉頭(いんこうとう)酸逆流症などによる咽喉頭への胃酸の流入は、声帯を劣化しやすくします。そのため、コーヒーやアルコール、高脂質食品など胃酸の分泌を増やす食品の過剰摂取や、胃酸が逆流する原因となる食後のごろ寝は控えましょう。

また、大声や高い声の出しすぎは声帯の炎症を招き、ささやき声(内緒話の声)は声帯を開いて空気を通しながら発声するため、声帯が乾燥したり、不自然な力が加わったりし、声帯への負担が大きくなります。
声のアンチエイジングに効く食材
声帯を使いすぎると、細胞を傷つけたり、老化させたりする「活性酸素」が声帯内に大量に発生することで炎症を引き起こすとされていますが、アスタキサンチンを内服することで症状が緩和され、声帯の維持に有効であることが示唆されました(京都府立医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 平野 滋「アンチエイジングへの挑戦
声のアンチエイジング」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/121/1/121_1/_pdf)。これは、アスタキサンチンに活性酸素を除去する強力な「抗酸化作用」があるためとされています。

「アスタキサンチン」は、エビやカニなどの甲殻類や鮭などに多く含まれます。また、アスタキサンチンは油と一緒に摂取すると吸収率が高まる性質があるため、秋が旬の「秋鮭」をバター焼きやムニエルにして摂取するのがおすすめです。
声のアンチエイジングには漢方薬も役立つ
先述した方法で症状の改善が見られない場合は、耳鼻咽喉科でも取り入れられている漢方薬の内服も有効です。
声のアンチエイジングには、乾燥を防ぐために「喉や口内を潤す」働きや、更年期による影響にアプローチする「女性ホルモンを整える」働きのある漢方薬を選びます。

声のアンチエイジングに役立つ漢方薬
・白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
体がほてり、喉が渇きやすい人に向いています。胃にこもった熱を取ることで胃腸機能の働きを高め、潤いを与えて口の渇きに働きかけます。
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
血の巡りをよくし、水分代謝を促すことでホルモンの乱れを整えます。むくみや冷えが気になる人に向いています。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信する「Medical Health -メディヘル-youtubeチャンネル」(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。