
猫が立ったまま壁などに少量のおしっこをかけるスプレー行動。自分のなわばりを主張するためにしているマーキングだと考えられていますが、少量でもかなりニオイが強いので、特に室内飼いの愛猫にはマーキングをやめてもらいたい飼い主さんが多いはず。どのような対策ができるのか、獣医師の山本昌彦さんに話を聞きました。
去勢手術は一定の効果アリ、でもよく考えて選択を
山本さんによれば、「猫が壁やカーテンにおしっこを引っかけるのは、自分の存在をアピールするためだと考えられていて、トイレの失敗などとは別物です」とのこと。よって、不適切な排泄行動とは異なる対策を考えることになります。

猫のマーキングは、一般的には、なわばり意識が強い、去勢手術をしていないオス猫によく見られる行為だとされていますが――。
「オス猫に多いですが、メス猫でもマーキングする子もいます。解決策としては、将来、その子に交配させるつもりがない場合は、生後6~10か月頃、最初の発情期が来る前に去勢・避妊手術を受けさせることが挙げられます。ただ、手術をすれば必ずスプレー行動をしなくなるわけではありません。手術するまでに既に習慣化していると、手術後もマーキングが続くことがあります」(山本さん、以下同)
去勢・避妊には、望んでいないのに子どもができてしまう事態を避けたり、発情しても満たされないというストレスを軽減したり、生殖器に関する病気を予防できたりするだけでなく、縄張り意識を小さくしてマーキングなどの困った行動をしないようにする、軽減するなどのメリットもあるのです。
一方で、去勢・避妊手術には一定のリスクがありますし、手術後の生活では、発情にエネルギーを使わなくなる分、太りやすくなると言われています。
去勢・避妊のメリット、デメリットを見比べ、家族の一員である愛猫にとって最良の選択を考えたいところです。
ストレスが原因の場合は、問題ごとに対処
猫がマーキングをする理由は、発情期の自己アピールだけではありません。
「今まではしなかった子が急にスプレー行動を始めたり、今まで以上に頻繁にしたりする場合は、不安やストレスが原因だと思うので、理由を探ってその原因になっているものを取り除くことで、行動が止んだり減ったりする可能性があります」
例えば、引っ越しや部屋の模様替え、新しいペットを迎えた、同居家族が減った、増えた、飼い主さんが構ってくれないなどの環境の変化が、猫にはストレスになることがあります。このようなとき、「自分のなわばりが侵された、侵されそう」と感じたり、漠然と不安を覚えたりして、マーキングにいそしむことがあるようです。
スキンシップをして、愛猫が安心できるよう気配りを

原因を取り除くといっても、引っ越しや同居家族の増減などの変えられない要因の場合もあります。そういうときは、いつも以上にスキンシップをして、愛猫が安心できるように気を配りましょう。おもちゃを使って狩りのような遊びをするのもストレス発散になるはずです。
「新しいペットを迎えた場合には、前からいる子をはっきり優遇してください。カーテンや仕切りなどを適宜使ってストレスを緩和しましょう。それから、ストレス緩和用のサプリメントなども開発されているので、動物病院で処方してもらえるか相談するのもいいですね」
マーキングを一度した場所に対する対策
スプレー行動が現れる、増える原因に対するアプローチを紹介しましたが、猫がスプレー行動を取った場所に対して物理的なアプローチをすることにも、一定の効果があります。
「同じところにマーキングを繰り返さないように、おしっこを引っかけた場所はなるべく素早く丁寧に清掃して、汚れやニオイがついたままにしないことが大切です」
猫は食事を取る場所では排泄行動やマーキングをしない
また、猫は食事を取る場所では排泄行動やマーキングをしない傾向があるので、マーキングした場所をしっかり掃除したあと、そこで食事を与えるようにすると、その場所で再びマーキングをする確率は下げられそうです。

「猫がそもそも、その場所に行きたくなくなるように、一時的に床にアルミホイルを敷いたり、両面テープを貼ったり、ハーブなど猫の嫌がる香りのする鉢を置いたりするのもいいと思います」
消臭スプレーなどを使う場合には、ペットの健康を害しないものを選ぶ必要があります。
「スプレーを吹きつけたところをペットがなめてしまうことがあるので、消臭成分としてアルコール(エタノール)が入ったものは避けてください。酵素や環境微生物、お茶や柑橘類に由来する成分などを消臭成分としているスプレーも数多く市販されているので、そうしたもののなかから選んでください。臭い全般に効くものもあれば、特定のニオイによく効くものもあるので、猫のおしっこ臭に強いタイプを選んでもいいですね」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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