
知らないと、思わぬ危険がペットに迫ることがあります。一緒に暮らす愛犬や愛猫の健康に関する不安や疑問について専門家に聞くシリーズ。今回は、人間には無害でも犬や猫には有害な食べ物などについてです。身近にあるペットにとっての危険を知って、大切な家族の一員を守っていきましょう。
玉ねぎだけじゃない、犬や猫には”怖い野菜”がある
犬や猫の「玉ねぎ中毒」は広く知られていると思います。玉ねぎやにんにくなど、ねぎ科の植物を食べると、その成分によって赤血球が破壊されて貧血になるというものです。私たち人間にとってはなじみ深い野菜なのに、ペットには有害だというギャップが怖いですよね。
実は、このような食べ物は身の回りに数多く存在しています。どんなものがあるか、獣医師の山本昌彦先生に挙げてもらいました。
「野菜でいうと、ほうれん草は与えないほうがいいですね。シュウ酸やマグネシウムやを多く含むので、与えすぎると膀胱炎(尿石症)のリスクがあります。ぶどうやレーズンによる急性腎不全のリスクもあります。アボカドは、ペルシンという毒素があるので避けなければいけません。
ナッツ類も油脂を多く含むので消化不良になりやすいです。犬のマカデミアナッツ中毒にも注意が必要です。小型犬では1粒食べただけでも、脚に力が入らなくなってふらつくなどの運動失調を引き起こすことがあります」(山本先生・以下同)

生肉、魚介類、煮干し、チョコレートなども危険
犬や猫は基本的に肉や魚が大好き。飼い主さんがお刺身などを食べていると、欲しそうにする子も多いのではないでしょうか。つい一切れあげたくなるのが人情ですが、実はこれもNGです。
「生肉、生魚は、寄生虫が心配なので避けてください。エビやイカ、タコ、貝類なども生はダメ。チアミナーゼというビタミンを分解する酵素のせいで、ビタミンB1欠乏症になることがあります。
煮干しや海苔もマグネシウムが豊富に含まれるので、大量に与えると尿石症などにつながります。ダシを取るための煮干しには塩分が多く含まれていることがあるので、その意味でも犬や猫の体にはよくありません。
また、チョコレートやココアなどカカオを原料とする食べ物、飲み物も与えてはいけません。カカオにはテオブロミンという有機化合物が含まれ、犬や猫はこの物質の代謝速度が遅いため、人間には問題のない量でも中毒を起こします」
キシリトールや乳製品など意外なNGも
アルコールも厳禁です。犬や猫のアルコール致死量は人間よりずっと少なく、例えば体重4kgの猫ならコップ1杯(150ml)程度が致死量だといいます。コーヒー、紅茶、緑茶、抹茶もカフェイン中毒を起こすので、犬や猫にはあげてはいけません。

「意外なところでは、歯磨き粉などに使われているキシリトールも犬や猫では、低血糖や急性肝不全を引き起こす可能性があり有害です。パンも見落とされやすいかもしれませんね。実は、発酵時にアルコールが微量に発生し、焼き上がったあとも残存するので、あまりおすすめできないんです。
人間が食べるための乳製品も、犬や猫は乳糖を分解する酵素が少なく、消化不良になりやすいです。ミルクをあげるなら犬用、猫用のものをあげてください。このように、意外なものがダメだったりするので、無害で栄養バランスもしっかり設計された市販のドッグフード、キャットフードをあげるのが一番安心かもしれませんね」
薬ガラや糸などは誤飲しやすいので要注意
以上が、犬や猫にとって危険な食べ物の代表例です。ここに挙げた以外にも、分解・代謝しにくい物質が多く含まれるものなどは、やはり危険ということになります。ご飯やおやつとして誤って与えてしまう以外にも、落ちたものを口に入れるといった誤食の可能性もあるので、注意したいですね。

落ちたつまようじを犬が誤飲の例も
「食べ物だけでなく、小さなおもちゃやキーホルダーなども誤って飲み込みやすいです。梅干しの種や、飼い主さんが飲んでいる薬剤、その薬ガラなども、ペットが触れられる場所に放置しないようにしてください。また、猫はひもや糸を飲んでしまうと非常に危険なので、気を付ける必要があります。
私が実際に診療した例では、飼い主さんがお弁当を作っていて、床に落としてしまったつまようじを犬が誤飲してしまったという例がありました。犬は、基本的に口の中に入れてみて、それが何なのか確かめる習性があるので、誤飲しやすいものは落としたり放置したりしないように、しっかり管理しましょう」
何にストレスを感じるか知っておくと◎
食べ物以外にも、人間にはどうということもないのに、犬や猫にはストレスになりやすい物音や事象があります。例えば、雷です。

「基本的には音や空気の震動が苦手なのだと考えられますが、遠くで空が光るだけで怖がる子もいます。アニコムではペット探偵による迷子捜索サービスを提供していますが、花火大会の音に驚いて犬が逃げ出してしまったという例もありました。工事の音や自動車の走行音、掃除機の動作音など、大きな音が苦手なペットは多いですね」
環境の変化は注意
そのほか、引っ越しで環境が変わって食欲がなくなってしまったり、お正月やお盆で飼い主さんの親戚や友人など、犬や猫にとって“知らない人”がたくさん来るとストレスで下痢したり、といったことも起こります。
「愛犬や愛猫が何を嫌がるのか分かっておいて、飼い主さんのほうでカバーしてあげるといいですね。例えば、雷や花火なら、ペットを室内に入れ、窓を閉めてカーテンを引いて、音や光が室内に伝わりにくくしてあげると、ストレスはかなり軽減されるのではないでしょうか」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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