
「もっと多くの気の合う仲間に出会いたい」という願望。「人前では緊張して顔がこわばってしまう」という悩み。実はこれらは、「先に理想の顔をつくる」練習をすることで叶えたり、乗り越えたりすることができると表情筋研究家の間々田佳子さんは言います。一体どういうことか、間々田さんの著書『伝わる顔の動かし方』(光文社)から一部抜粋、再構成して紹介します。
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自分がなりたい「理想の人物」の表情をイメージ
コミュニケーション能力がアップすると、人間関係も変わります。
あなたがもし「グループにいても、なんとなくひとりになりがち」「なかなか人間関係を広げられない」といった対人関係の悩みを抱えていたとしても、大きく変えられる可能性があります。
トレーニングを続けるうち「同じ趣味に打ち込める、気の合う仲間ができた」といった話を聞くことは、まったく珍しくありません。なぜでしょうか? これは特別なおまじないや魔法なんかではなく、心理学的にみれば、ごく自然な流れなのです。

「類似性の法則」をご存じでしょうか? 自分と共通の要素をもつ人間に親近感を抱く、心理作用のことです。
学生時代を思い出してみてください。クラスの仲よしグループは、運動部所属のスポーツ好き、華やかなファッションやメイク好き、漫画やアニメやゲーム好き、といった属性で、それぞれ分かれていませんでしたか?
自分に近い考えや価値観をもつ相手のことは理解しやすく、安心感も抱きやすいので、自然と距離が近くなります。信頼関係も築きやすいでしょう。「類は友を呼ぶ」ということわざは、心理学的にはもっともなのです。
では、あなたが理想の人間関係に恵まれるには、どうしたらいいのでしょうか。
その方法は、とてもシンプル。まず、理想の未来や、そこにいる自分の顔をイメージしてみてください。理想を明確にしたら、それをなぞるつもりで表情をつくってみるのです。
「信頼できる仲間に囲まれ、仕事や趣味に充実した日々を送っている」「凜々しく印象的な目で、左右バランスよく上がった口角の笑顔。頬によけいな肉やたるみはなく、すっきりしている」といったふうに。

イメージできましたか? もし、理想の姿がイメージできない……と困った方は「この人のようになりたい」というロールモデルを探してみてください。
いいなと感じるモデルは、あなたの感性に訴えかけてくる要素をもっているはずです。どんな人を理想と感じるか、そこから自分らしさが見えてきます。
イメージするときに注意してほしいのは「今の私は全然そんなふうじゃないから」などと恥ずかしがったり、遠慮したりしないということ。現時点での自分を根拠に、未来を否定しないでいただきたいのです。
そのうえで、理想の表情を目指してトレーニングしてみてください。すると、たとえまだあなたの中身が変わっていなくても、あなたの表情を見て集まる人たちがまさに「類は友を呼ぶ」がごとく、理想に近い人ばかりになってくることでしょう。
「理想の顔」をつくれば人間関係が変わる
その人たちの雰囲気や表情を見ることで、今度はあなた自身の内面までもが理想に近づいていきます。
断言します。理想をイメージし、顔の動きを変えていくことは、理想の未来にたどり着くためのいちばんの近道。まずは理想の顔を先につくることで、理想の人間関係が広がっていく。それに伴い、今度は自分の中身もついてくるのです。
よく「他人は変えられないから、自分を変えるしかない」と聞きますよね。これはこれで正しいのですが、一方で私はその先に「けれど自分が変われば、他人も変わる」と付け加えたいのです。
もし、コミュニケーションを通して理想の自分を表現することができれば、そんなあなたに似たタイプの人が引き寄せられることでしょう。あなたしだいで、周囲の人間関係そのものを変えることができるのです。
もし今「どうして私の人間関係はパッとしないんだろう」「なかなか思うように友達ができない」などと悩んでいるなら、厳しく聞こえるかもしれませんが、あなた自身がそういうふうな人間だと、表情や態度で周囲に知らせてしまっている可能性があるのではないでしょうか。
「周囲の人間は、自分を映す鏡」という言葉は真理です。ですから、まずは自分が理想の顔をつくる努力をしながら、コミュニケーションの質を上げていくこと。すると、周囲の人間関係の変化というかたちで、結果がついてきます。

顔を動かすことが「自信」につながるワケ
私はいつも「顔を動かすと自分に自信がもてる」とお話ししています。なぜ顔を動かすことが自信につながるのか、疑問に思う方もいるかもしれませんので、もう少し掘り下げてご説明しましょう。
顔には左右合わせて50もの筋肉(表情筋)があります。
たとえば、あなたは「頬を持ち上げる筋肉はどれ?」と聞かれて「大頬骨筋!」と答えられますか? 普通はそんなこと、意識しないですよね(笑)
けれど、今どの筋肉をどのように使うべきかを理解し、コントロールできるようになると、モヤモヤとした迷いが消えます。
面接やスピーチなど緊張する場面でも「今、大頬骨筋がこわばっているから笑顔をつくりにくいんだな」と、冷静に状況を判断できます。そして「じゃあ、大頬骨筋を意識して口角をより上げよう」と、適切な解を導き出せるのです。
重要なポイントは、「そこに感情は介在しない」ということ。
「大事な場面で顔がこわばるなんて、私の心はなんて弱いんだろう」などと、ムダに性格を責めずにすみます。「性格が弱いからどうしようもない」などという、思考停止に陥ることもありません。というか、そういう発想自体、しなくなります。

「クセを外す」コアフェイストレーニング
「ただの筋肉の動かし方の問題」だと、ありのままに受け止められるようになるのです。つまり「自分を責めるクセ」をなくせます。悩みグセを解消できます。この「クセ」を外すことこそ、コアフェイストレーニング(*編注/間々田氏が考案した体ごと表情筋を鍛えるメソッド)なのです。
表情筋の正しくないクセ、自分をネガティブに責める思考のクセ。表情もメンタルも「クセ」によって形づくられています。だからこそ、トレーニングによって生まれもった望ましくないクセを外し、新たに望ましいクセをつけていくことで、人は大きく変われるのです。
今の私はというと「今日の講演では右の口角ばかり上がっていたな」といった具合に日々の細かい変化に気づくので、あとは「左の口角挙筋も意識してトレーニングしよう」と結論できるまでになりました。
「なぜ今、こういう表情をしているのか」が手に取るようにわかれば「だったらこうすればいい」という解決策もわかり、あとはそれを実行するだけ。そこに性格やメンタルの強弱なんて関係ないことが実感できるでしょう。
自分をムダに責めなくなると、自信が生まれます。そして「なんだ、トレーニングしたら私も思いどおりに顔を動かせるんだ!」という驚きと自信のあとに「私もここまでできるんだ!」と、自分を認めて好きになる気持ちがわいてきます。そうして、性格まで前向きになれるのです。
ひとつ誤解しないでほしいのは、マイナスの感情を抱いてはダメ、という意味ではないということ。とっさにネガティブな感情にとらわれることは、人間誰しもあります。
コアフェイストレーニングの真髄は、そうなったとしてもすぐに内面をゼロにリセットできる、自分をニュートラルな位置へ戻せる、という点にあるのです。
◆教えてくれたのは:表情筋研究家・間々田佳子さん

ままだよしこメソッド代表取締役。顔の学校「MYメソッドアカデミー」主宰。日本に「顔のヨガ」ブームを起こした第一人者。2020年、体全体を整えながら顔を鍛える「コアフェイストレーニング(R)」を考案。顔や表情の悩みを解決に導くメソッドとして、その普及と発展に努めている。各種メディアのほか、企業の研修やイベントなど幅広く活動し、講座受講者はのべ3万人超。著書は15冊・累計55万部を突破。2023年11月、『伝わる顔の動かし方 コミュニケーションは見た目が9割』(光文社)を出版。