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《大塚寧々×ヤマザキマリ対談》「読めば読むほど磁石のように吸い寄せられ…」「子供の頃、浮いていませんでしたか?」「もちろん(笑い)」(前編)

「人生を使い切った」母

ヤマザキ:人間という生物として授かった機能を満遍なく使って人生を謳歌する人は基本的に毎日機嫌が良いですね。私の身近にいた人での代表的な例はうちの母(編集部注、『ヴィオラ母さん』のモデルにもなった、ヴィオラ奏者の山崎量子さん・享年89)かもしれない。

大塚:お母様、最高ですよね! 本当に素敵!

ヤマザキ:奔放な人だったんで一緒に暮らすとなると大変ですが(笑い)、母は人生を使い切った人だったと思います。就労する女性が少なかった時代に、できたばっかりのオーケストラに入りたいと親族も居ない北海道に移り住み、結婚しても夫を失い、女手ひとつで娘2人を育てている。これだけ聞くといっぱいいっぱいな人のイメージになるんですが、そうじゃなかった。「明日のコンサートは素晴らしい楽曲をやるので2人とも学校休みなさい。授業よりこっちのほうが大事」と学校を休ませてコンサートに引っ張っていったり、運転中にたぬきが横切れば車を停めて「飼いたい!」と草むらに探しに行くし、80歳を超えても夕焼けを見て「地球に生きてるって素晴らしい! 英気を養ったから明日からバリバリ働くぞ」などと盛り上がっている(笑い)。集団で群れていないと心細いとか、世間体が作る規定から逸れると不安とか、そういうのは彼女にはなかった。オーケストラという集団組織に勤めているから尚更だったのかもしれません。

大塚:大好きなエピソードです!

ヤマザキさんの母のエピソードで盛り上がった
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ヤマザキ:そんな母が2022年末に亡くなり葬儀は地元のホール借りてコンサート形式にしたんですけど、最後は母の同僚とお弟子さん90名によるオーケストラによる『威風堂々』で締め括られました。母にぴったりの音楽でした。その場にいて、なるほど、世の中にはこんなに前向きなエネルギーをもらえる弔い方があるんだ、と感心しました。母にはとにかく「命を見事に使い切りましたね、お疲れ様でした。人生を堪能できてよかったね」っていう気持ちしか出てこなかったですね。

大塚:あてはまるかわからないですけど、もちろん大変なこともあったかもしれないけれども、命を精一杯感じて、精一杯きちんと生きた、すがすがしさがありますね。

ヤマザキ:そんな母を見ていたから、私も物心がついて“自分の社会”が作られていくとき、別に集団のひとりじゃなくてもいいんだって思えたんです。たとえば中学校に通うようになって、新しく友達を作るタイミングでアイドルの誰それが好きか聞かれるっていうのがあるじゃないですか。

大塚:あ〜、あれ! 無理でしたね(苦笑)。全然共感できなかった。本当に自分が好きではないものを、でも会話ができなくなってしまうからちょっと会話に乗らないといけないかなとか考えてしまって。

ヤマザキ:そうそう。勘弁してよと思いつつ、クラスで生きていくにはそうするしかないと学ぶわけですよ。だからそんなに好きじゃないのに「じゃあこの人かなあ」と無理して言ってみたりね。でもしばらく経つと「本当に好きなの?」ってバレる(笑い)。

大塚:私もそうだった(笑い)。

ヤマザキ:とはいえ、当時は自分たちと違う人間との共生がいまよりはおおらかだった気がします。私は「ヤマザキさんちは親が音楽家で不思議な家だから」って、宇宙人扱いされてましたけど、“疎外”はなかったですね。宇宙人もいればツッパリもいたり、貧乏なうちの子もいたり、あらゆる環境で育まれた子供たちの“共生”が確立されていましたよね。

大塚:たしかに。それぞれを尊重しているというか、緩かったですよね。変わっていてもいい、子供として育つにはいい時代だったと思います。いまみたいにSNSとか裏でコソコソ疎外するとかじゃなかったから、ある意味健全だったと思います。

ヤマザキマリさんと大塚寧々さん
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◆大塚寧々
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』ほか数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道にも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。現在放送中のドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)出演中のほか、1月19日公開の映画『僕らの世界が交わるまで』の日本版ナレーション担当、CM出演、雑誌連載など多方面で活躍中。

◆ヤマザキマリ
1967年東京都出身。漫画家・随筆家。東京造形大学客員教授。1984年に渡伊、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で油絵と美術史を専攻。1997年より漫画家として活動。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『ヴィオラ母さん』(文春新書)、『パスタ嫌い』(新潮社)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。現在はイタリアと日本に拠点を置き、精力的に執筆活動等を行っている。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。

撮影/chihiro. ヘア&メイク/福沢京子(大塚さん分)、田光一恵(ヤマザキさん分) スタイリスト/安竹一未(kili office・大塚さん分) 取材・文/辻本幸路

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