
目が悪い人でも、眼鏡やコンタクトなどを使用することで日常生活は問題なく送ることができます。一方で、見えてさえいれば、目の不調には気が付きづらいもの。そんな気が付きづらい目の不調が、実は全身の不調の引き金になることをご存じでしょうか? 眼科専門医・森下清文さん監修の元で著書『歳をとっても目が悪くならない人がやっていること』(アスコム)を上梓した、わかさ生活代表取締役社長の角谷建耀知さんに、目と全身の不調の関係性と、目の健康を守るポイントを教えてもらいました。
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目の不調は日常生活に悪影響を及ぼす
目が悪くなっても、眼鏡やコンタクトレンズの使用などで視力を矯正すれば、普段の生活で目の悪さを感じることはありませんが、視力を矯正してもよく見えなかったり、物が歪んで見えたりなど、視界に異常があると日常生活にも影響が出ます。「ものがちゃんと見えなくなると生活に支障をきたすのは、私たちは情報の約9割を目から得ているからです」と角谷さん。

「目からの情報に頼っている私たちは、ものがちゃんと見えなくなると、とにかく生活が不便になります。目の前や左右にあるものをうまく認識できなければ、うまく歩くことさえできません。注意しながら歩いても、つまずいたり、転んだり、ぶつかったり……。そんなことが続けば、外出するのも面倒になります」(角谷さん・以下同)
目が悪くなり、やりたいことができなくなる「アイフレイル」
目は加齢とともに衰えますが、それによりちゃんと見えなくなると、やりたいことがイメージ通りにできなくなります。この状態を、「アイフレイル」といいます。フレイルとは、「加齢によって体や心が衰えた状態」のことで、介護は不要であるものの、自分のやりたいことが思うようにできなくなりつつある状態を指します。そして、アイフレイルはその入り口のようなもの。
「何もせずにフレイルが進行すると、やがて誰かの手を借りなければ生活できなくなります。いわゆる要支援、要介護状態になるということです」
目の健康チェックリストで自分の目をチェック
見えてさえいれば、なかなか気が付きづらい目の不調。日本眼科啓発会議のホームページに掲載されている、目の機能低下をチェックする項目に当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
《目の機能低下のチェックリスト》
・目が疲れやすくなった
・夕方になると見にくくなることがある
・新聞や本を長時間見ることが少なくなった
・食事のときにテーブルを汚すことがある
・メガネをかけてもよく見えないと感じることが多くなった
・まぶしく感じやすい
・まばたきしないとはっきり見えないことがある
・まっすぐの線が波打って見えることがある
・段差や階段で危ないと感じたことがある
・信号や道路標識を見落としたことがある

「該当する項目が1つもなければ、あなたの目は今のところ健康です。正しく見えています。1つでもあれば、目の健康が怪しくなってきているかもしれません。2つ以上ある人は、一度、眼科専門医に相談することをおすすめします」
目の不調で高まる病気リスク
目の不調は、日常生活の不便さだけでなく、さまざまな病気を引き起こす可能性があります。厚生労働省が発表している「平成28年国民生活基礎調査」のデータによると、介護が必要になった原因の1位は認知症、2位は脳血管疾患、3位は高齢による衰弱、4位は骨折・転倒、5位は関節疾患となっています。一見すると、アイフレイルと要介護の関連性は薄いようにも見えますが、実は上位を占める疾患と視覚障害は深く関連しています。
「例えば、1位の認知症は、視覚障害を合併すると、より進行しやすいことが報告されています」
目の不調は認知機能にも影響
日本人に多いアルツハイマー型認知症の直接的な原因は脳内にたまるゴミであるアミロイドβと考えられていますが、認知症進行の外的要因の一つは、社会参加が少なくなることと言われています。
「見えにくくなることで外出することや人と接することに消極的になると脳への刺激が減り、認知機能の低下につながるものと推測されています」
脳血管や心臓病リスクも高める
さらに、見えにくくなると脳血管疾患や心臓病などの循環器疾患のリスクも高まります。「近年の研究によると、眼底の異常が軽症の人は循環器疾患の発症リスクが約2倍になり、重症化すると2倍以上になるという報告があります」と角谷さん。眼底とは、一般的にはフィルムにあたる網膜のことで、ものを見るための中心的な役割を担っています。
「目の状態が循環器疾患のリスクと関連するのは、目の裏側にある網膜に流れる血管が、全身に流れる血管の状態を反映しているためだと考えられています。網膜の血管も、脳の細い血管も、心臓からの血管が枝分かれしたものです。特に目に到達する血管と脳に到達する血管は、鼻のあたりまで同じ血管になります。そのため、網膜の血管と脳の細い血管は同じ状態になると考えられているのです」
目が悪いと自律神経が乱れ、不調が表れることも
また、目の機能が衰えてくると、疲れやすくなったり、頭が痛くなったりなど、不調が現れてくることがあります。これは、自律神経の乱れによるもの。

通常、人間の体は約24時間のリズムに合わせて自律神経からあらゆる器官に指示が送られ、呼吸、体温、内分泌、代謝、循環などがコントロールされています。このリズムを正常に保つために大切なのが朝の光であり、1日24時間というリズムは、朝、目に入ってくる光が網膜を刺激することで形成されています。
「つまり、目の状態が悪くなって光を十分に感知できなくなると、生体リズムが崩れることになるのです。そうなると、生体リズムに合わせて稼働している自律神経も乱れ、体のあちこちに異常が現れるようになります」
目の健康を保つための3つのポイント
アイフレイルという概念は、目の健康についての研究が進んだことや、世界中の人たちの寿命が長くなってきたことを背景に生まれました。人生100年時代とも言われる今、100歳まで目と全身の健康を守るためには、日頃から目の状態に注意して大切にする必要があります。100歳まで目の健康を守るポイントとして角谷さんが教えてくれたのは次の3つ。
【1】40代くらいまでは、近視の進行をできるだけ防ぐ
【2】40代以降は、できるだけ目の老化を遅らせる
【3】60代以降は、目の病気の予防に気を配る、病気になったら適切な治療をする
「目の健康を守る。その意識が高まれば、100年を楽しめる人生に近づけることになります」
◆教えてくれた人:株式会社わかさ生活 代表取締役社長・角谷建耀知さん
かくたに・けんいち。18歳のとき、脳腫瘍の大手術によって視野の半分を失う。自身の経験から、自分のように目で困っている人の役に立ちたいとの想いで、1998年にわかさ生活を創業し、目の健康サプリ「ブルーベリーアイ」などを販売。現在は多数の企業や眼科医と連携して、商品の開発・情報発信を行う。著書に『歳をとっても目が悪くならない人がやっていること』(アスコム)、『長生きでも脳が老けない人の習慣』(同)など。https://ameblo.jp/wakasa-president/
◆監修:医学博士・森下清文さん
もりした・せいぶん。医療法人森下眼科理事長・医学博士。大阪医科薬科大学で研鑽を積み、同大学の講師として、白内障、緑内障、眼底出血などの診療と研究に従事。1991年に大阪市北区で森下眼科を開業。1992年4月から「市民健康講座 目の勉強会」を開始。全国各地で啓発活動を行う。https://morishitaganka.net/