
『医師がすすめる自力でできる弱った心臓を元気にする方法』(アスコム)を上梓した東北大学名誉教授で医師の上月正博さんによると、心臓病予防に大切なのは有酸素運動ですが、それだけでは不十分なのだそうです。そこで上月さんがすすめる「ゆるスクワット」と「ゆっくり片足立ち」の効果とやり方を教えてもらいました。
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医師がすすめる心臓リハビリメソッドとは
上月さんがすすめる心臓リハビリメソッドは、運動療法、食事療法、薬の飲み方、病気に対する知識の教育などが含まれた、心臓を元気にするために効果的なプログラムです。特に、運動療法や食事療法は重要です。運動では有酸素運動が最も大切ですが、それだけでは不十分だそうです。
「有酸素運動は心肺機能の強化や体力維持にはきわめて有効ですが、残念ながらサルコペニア(全身の筋肉や身体機能が低下した状態)やフレイル(心身の活力低下)といった高齢者に多い症状を完全に予防することはできません。心臓病の人でなくとも、筋肉量と寿命の相関性は無視できないのです」(上月さん・以下同)
筋力トレーニングは太もも中心に
筋力トレーニングとしては、太ももを中心とした下肢の筋肉や骨を鍛えるのがおすすめ。全身の筋肉のうち60~70%は下半身の筋肉で占められているためです。
「立つ、歩くといった基本動作を支えるだけでなく、基礎代謝や最大酸素摂取量の増加、関節の保護といった観点からも、太ももの筋力アップは推奨できます」
筋力トレーニングは息を止めずにやること
筋力トレーニングはついつい息を止めてしまいがちですが、重要なのは息を止めずに行うこと。「これがとても重要なので、しっかりと意識させなければいけません」と上月さん。
「これから紹介する『ゆるスクワット』も、あくまでも有酸素運動のひとつとして行うということです」
「ゆるスクワット」のやり方
筋力トレーニングとしてまず上月さんがすすめるのは「ゆるスクワット」。5~10回のスクワットを朝昼晩の合計3セット行うのがおすすめです。

【1】腰に手をあてて、足を肩幅に開いて立つ

【2】口からゆっくり息を吐きながら、5秒かけて軽く膝を曲げて腰を落とす

【3】腰を落としきったら、鼻からゆっくり息を吸いながら、5秒かけて【1】の姿勢に戻る
背筋はなるべく伸ばし、腰を落とすときは膝がつま先より前に出ないようにするのがポイントです。
「足腰が丈夫になればウォーキングの質も高まり、脂肪が燃えやすくなることで太りにくくなったり、同じ運動量でも心臓への負荷がかかりにくくなったり、というように、太ももの筋力アップは心臓リハビリの一環としても本当にいいことずくめです」
片足立ちでバランス感覚と骨強度を高める
ゆるスクワットと一緒に取り組むことを上月さんがすすめる、もう1つの運動が「ゆっくり片足立ち」です。スクワットのようにダイレクトに筋力アップを促すものではありませんが、足や背中といった多くの骨を筋肉と一緒に鍛えることができます。
「なんとたった1分間の片足立ちをするだけでも、じつに53分間もウォーキングしたときと同じだけの骨負荷がかかることがわかっています」
5cm浮かせるだけで効果あり
「ゆっくり片足立ち」では、トレーニングのように高く足を上げる必要はありません。地面から5cmほど足を浮かせるだけでも骨に対しては十分な効果が見込めます。
「ふらつきがある人はバランス感覚を養うことで転倒防止の効果も見込めますし、骨の強度を上げることで骨粗しょう症の予防にもつながるでしょう」
「ゆっくり片足立ち」のやり方
「ゆっくり片足立ち」はしっかりと両目をあけ、胸を張って背筋を伸ばした状態で行いましょう。

【1】右手で椅子の背や手すりにつかまり、しっかりと両目をあけた状態で自然に立つ

【2】右足を床から5cmほど浮かせ、そのままの状態で1分間キープさせる

【3】左手で椅子の背や手すりにつかまり、しっかりと両目をあけた状態で自然に立つ

【4】左足を床から5cmほど浮かせ、そのままの状態で1分間キープさせる
「スクワットと片足立ちは朝・昼・晩の3回を目安に、ながら運動でもいいので日常のルーティンに組み込み、お風呂やトイレと同様に毎日の日課としましょう」
◆教えてくれたのは:医師・上月正博さん

こうづき・まさひろ。東北大学名誉教授、山形県立保健医療大学理事長・学長、医学博士、日本心臓リハビリテーション学会名誉会員、総合内科専門医、腎臓専門医、高血圧専門医、リハビリテーション科専門医。1981年東北大学医学部卒業。心臓や腎臓などの内部障害のリハビリテーションを専門とし、心臓や腎臓の分野に貢献した科学者に贈られる世界的に名誉ある賞「ハンス・セリエメダル」を2018年に、「日本腎臓財団功労賞」を2022年に受賞。著書に『医師がすすめる自力でできる弱った心臓を元気にする方法』(アスコム)など。