心臓への負担を減らし、心臓を元気にするための「心臓リハビリメソッド」というものがあることを知っていますか? リハビリと聞くと病後に行うイメージがありますが、心臓リハビリメソッドは、心臓病の予防にも役立つメソッドです。意外にも簡単に実践できる心臓リハビリメソッドのメリットややり方について、『医師がすすめる自力でできる弱った心臓を元気にする方法』(アスコム)を上梓した、東北大学名誉教授で医師の上月正博さんに教えてもらいました。
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心臓のリハビリメソッドとは
上月さんがすすめる心臓のリハビリメソッドとは、心臓への負担を減らし、心臓を元気にするための「トレーニング」や「生活習慣の見直し」です。リハビリと言っても、病後ではなく病気になる前にこのリハビリメソッドを実践することで、心臓病の予防などの高い効果を得ることができるそうです。
「40~50代を迎えたら、たとえ今は健康体でも、心臓をケアするに越したことはありません。心臓は何歳になっても鍛えられます。まだ間に合います。なんの予防もせずに自堕落な生活を送り、心臓疾患になってしまってから悔やんでも遅いのです」(上月さん・以下同)
効果を示すエビデンスもある心臓リハビリ
上月さんによると、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の患者が心臓リハビリを行うことにより、行わなかった場合に比べて心血管病による死亡率が26%低下し、入院のリスクが18%低下することがわかっているそうです。また、心不全の患者の場合は、心臓リハビリによってあらゆる入院が25%減少し、心不全による入院が39%減少するとの研究結果が報告されているそうです。
「心臓リハビリを行うと、血管が広がり、体の隅々まで血液が行き届くようになります。血の巡りがスムーズになりますから、結果として心臓の負担が軽くなり、失われた活力が戻ってくるのです」
心臓リハビリは治療法として最高ランク
医療の世界では、すべての病気において「どのような治療(医療技術)を行うのがいいか」が4つの視点からランクづけされています。それぞれの視点で3~7段階の指標があり、このうち「Ⅰ」および「A」が最高ランクとなっています。
「じつは心臓リハビリは、急性冠症候群(狭心症や心筋梗塞)、慢性心不全、心臓手術後、末梢動脈疾患、心臓移植後といった数多くの心臓病において『ⅠAAⅠ』という最高級の評価が与えられているのです」
心疾患には安静より運動
元々、心臓病の治療としては「安静第一」が主流だったため、安静にしていた結果として筋力が大きく低下してしまい、自力で歩くことができなくなる人が続出しました。しかしその後、安静よりも運動のほうが良いというエビデンスが出始め、1999年にドイツで発表された論文によれば、「週に2~3回の運動を行う群」の患者は「運動を行わない群」の患者に比べて2倍以上の生存率を記録したそうです。
「今や心臓病は『安静にしていると、かえって寿命が縮まる』という考え方が主流です。しかし『なんとなく、安静にしていたほうがよさそう』という前時代的な考え方も根強く残っています」
薬も運動療法や食事療法ありき
心臓リハビリには、運動療法、食事療法、薬の飲み方、病気に対する知識の教育など、さまざまなものがプログラムとして組み込まれていますが、「いかに薬が効果的だとしても、運動療法や食事療法ありきが前提」と上月さん。特に昨今はリモートワークなどで日中ほとんど動かない人も増えているため、運動を意識することが大切。しかし、意気込むほどの運動が必要なわけではないそうです。
「運動負荷といっても程度はさまざま。心臓リハビリでも『急性期』『回復期』『維持期』の3段階でそれぞれ推奨される運動療法は異なっています。心臓リハビリの最大の特徴は、心不全の人でもできるくらいの安全な運動がベースとなっていることです」
心臓リハビリは健康状態を知ってからやること
心臓を元気にする心臓リハビリメソッドですが、始める前に自分の健康状態を知っておきましょう。心臓リハビリは心不全の患者でも安全にできる運動ですが、「急性期」にあたる場合は医師や看護師などの監視下で、病気の回復程度や心臓の状態を随時チェックしながら行う必要があります。重篤な高血圧症や糖尿病、不整脈などの合併症がある人や、医師より運動を止められている人などはまずかかりつけの医師に指示を仰ぎましょう。
また、脈拍を計ることによって心拍数をモニタリングしながら運動をすることも重要です。
「心臓リハビリに関しては安静時のプラス30、β遮断薬を使用している場合はプラス20くらいが上限となるように調整してください。脈拍数と心拍数は不整脈がない限り同じなので、脈拍を知ることで心拍の状態も知ることができます」