日本人の死因第2位の心臓病について、心臓病を引き起こす可能性の高い「危険因子」をご存じでしょうか。危険因子はひとつ増えるごとに心臓病のリスクが数倍跳ね上がるそうです。そこで、『医師がすすめる自力でできる弱った心臓を元気にする方法』(アスコム)の著者でもある東北大学名誉教授で医師の上月正博さんに、心臓病の危険因子について教えてもらいました。
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そもそも心臓病とは
「心臓病」は、心臓の構造や機能の異常により生じる病気の総称です。「心不全」は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液をうまく送れなくなることを指します。心臓が弱くなることで、足のむくみや息切れ、疲れやすいといった症状が引き起こされます。そして、心不全の第1ステージと言われるのが「糖尿病」や「高血圧」などの生活習慣病。
「生活習慣病は、普段の生活習慣が原因となって進行し、悪化していく病気です。そして、生活習慣病のひとつの終着点が心臓病でもあります」(上月さん・以下同)
心臓病の患者の多くは健康診断で「問題なし」
心臓病は日本人の死因2位となっている国民病です。健康診断をきちんと受けていれば心臓病にも気が付けるのでは、と思いがちですが、心臓病の患者は、健康診断では何も問題がなかったケースが多いそうです。
「心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患では胸が痛むなどの前兆がなく、約70%の人が突発的な症状にさいなまれるのです」
危険因子を持っている人は注意
誰しもがなり得る心臓病ですが、心臓病になりやすい危険因子というものもあります。高血圧や糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、運動不足や喫煙、食塩の摂りすぎ、過度な飲酒、肥満、睡眠不足(6時間未満)や過度な睡眠(9時間以上)、ストレス過多、年齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、両親・祖父母・兄弟・姉妹に心筋梗塞や狭心症の人がいること、などが挙げられます。
「危険因子は多ければ多いほど突然死を引き起こす可能性が高く、そのリスクは足し算ではなく、掛け算。つまり、危険因子がひとつ増えるごとにリスクが数倍ずつ増えていきます」
高血圧や糖尿病は心不全のステージA
心不全の進行度にはステージA~Dがあります。ステージAは心臓病の危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)がある状態、ステージBはなんらかの心臓病(心筋梗塞、心筋症、不整脈など)がある状態、ステージCは心不全の症状(息切れや足のむくみなど)が出現する状態、ステージDは治療が困難となる状態です。
「高血圧や糖尿病は心不全のステージAとして位置づけられており、将来的に心不全として進行する予備軍であると定義されています」
高血圧は心臓に負担をかける
血圧は心臓が全身に血液を送り出すときのパワーであり、高血圧はその名の通り、血圧が高い状態です。パワーが強いことは悪いことではないようにも思えますが、高血圧では血液を循環させるために正常な人よりも多くの圧力を掛けなければならず、心臓に余計な負担を強いていることになります。
「心臓も筋肉でできていますので、強く働かせれば働かせるほど柔軟性がなくなり、やがて左心室の拡張機能障害を引き起こすほどに硬くなってしまいます」
合併症を進行させる糖尿病
糖尿病では、インスリン分泌が遅れたり、少なくなったり、あるいはインスリンの効きが悪くなったりして、うまく血糖値を下げることができなくなります。糖尿病には遺伝的な要因もありますが、多くの場合は食べすぎ、飲みすぎ、運動不足、喫煙といった生活習慣が関与しています。そんな糖尿病の怖いところは、「網膜症」や「心筋梗塞」といった合併症が無自覚で進行していくこと。
「血糖をコントロールして糖尿病による合併症や進行を予防することが、ひいてはさまざまな心臓病の発症を予防することにもなっていくのです」