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佐藤健の走り姿は凛々しく美しく、そして鋭い 映画『四月になれば彼女は』では激情を感じさせた走りで “愛”を体現 

過去と現在を往復する佐藤健

佐藤さんといえば、“主演俳優”としてさまざまな作品の看板を背負い続けている数少ない存在。映画での主演は2021年公開の『護られなかった者たちへ』から約2年半ぶりのこととなりました。川村さん原作の『世界から猫が消えたなら』と『億男』でも主演を務めていたことは先述しているとおりです。

そんな佐藤さんが本作で体現するのは、愛に翻弄されるひとりの男の姿。これまでにも『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017年)などの作品でラブストーリーの世界を生きてきましたが、本作では過去と現在を往復しながら愛の旅路を歩んでいます。

過去と現在の間には10年という大きな時間の開きがあるため、当然ながら佐藤さんは過去の藤代と現在の藤代の差異を表現しなければなりません。10年経っても変わらない人もいれば、まったく変わってしまう人もいる。この物語における藤代というキャラクターは、表面的には大きな変化のない人物です。けれどもこの10年という月日の流れの中で、その内面は圧倒的に変化している。

『四月になれば彼女は』場面写真
(C)2024「四月になれば彼女は」製作委員会
写真9枚

過去の彼からは、人生やこの世界というものに対して希望を持っているのを感じます。しかし現在の彼は幸福であるいっぽう、どこか“あきらめ”のようなものを感じる。

「大人になった」といえばそうなのかもしれません。彼が変わることになった具体的なきっかけについてまでは言及しませんが、藤代の過去と現在との差異を、佐藤さんはじつに繊細な視線やセリフ回しの変化によって表現しているのです。

『四月になれば彼女は』場面写真
(C)2024「四月になれば彼女は」製作委員会
写真9枚

佐藤健が走るとき……

佐藤さんは身体能力の優れた俳優として広く知られていることでしょう。主演を務めたアクション大作『るろうに剣心』シリーズ(2012年-2021年)は言わずもがな、『亜人』(2017年)や『サムライマラソン』(2019年)などでもその事実を証明してきました。

そんな彼が展開するアクションの中でもとくに優れていると思うのが、“走る”という行為です。もっともシンプルで、ほとんどの人がやったことのあるものだからこそ、それがいかに優れているのか、感覚的にでも理解できるのではないでしょうか。その走り姿は凛々しく美しく、そして鋭い(ちなみに『亜人』で共演した綾野剛さんもまた走り姿の美しい人で、このふたりが2強だと筆者は考えています)。

劇中では2度、藤代=佐藤さんが全力で走るシーンが描かれます。それは目の前にある愛する存在に対して激しく感情が動く瞬間であり、キャラクターのこの内面の変化が、アクション=肉体に反映されるわけです。

佐藤さんが走るとき――それはつまり、いつもは平静を保っている藤代の感情が、極限にまで昂る瞬間なのです。私たちは佐藤さんの身体的な変化をとおして、藤代の心に触れる。涙なしに見られないシーンが生まれています。

「愛する」とは何か?

本作が描くのは「人を愛するとはどういうことなのか?」という問いであり、これに対する答えは十人十色なのではないでしょうか。私たち一人ひとりが異なる答えを持っているわけで、唯一解などないのではないかと思います。

けれども本作はひとつの回答を提示しています。それは先述しているように、藤代=佐藤さんの姿から読み取ることができる。つまり「愛する」ということは、この肉体にまで劇的な変化を与えるものなのではないでしょうか。もしも自然と走り出してしまったら、そこには“愛”が生まれているのかもしれません。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
写真9枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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