新しい安倍晴明の姿から期待できること
できあがった作品を観て私たちは、晴明の操る呪術を目にします。しかしそれは映像技術によって生まれるものですから、撮影現場では存在しません。“目に見えないもの”です。俳優はこれらがあたかもそこに存在するかのように振る舞わなければなりません。
『ゴールデンカムイ』も『キングダム』も『今際の国のアリス』も、VFXを多用した作品です。そういう観点からいえば、山崎さんは激しいアクションをこなす高い身体能力の持ち主であるのと同時に、優れた身体感覚の持ち主なのだとも思います。そこに存在しないものがあたかも存在しているかのように表現するのは、俳優の仕事の基礎でしょう。
2001年に公開され大ヒットを記録した『陰陽師』で晴明を演じたのは、野村萬斎さんでした。彼は俳優である以前に能楽師。そこに存在しないものがあたかも存在しているかのように表現する、言わばプロ中のプロです。陰陽師の世界観との相性の良さもさることながら、やはり彼の優れた身体感覚が、平成の安倍晴明を生んだのではないでしょうか。
山崎さんが生み出すのは、多くのアクション超大作のヒットに貢献してきた俳優だからこそ演じることのできる、令和の安倍晴明像だといえます。真のスターとは、時代を映す鏡です。いまのこの時代を反映した、非常に現代的で新しい晴明が誕生していると思います。
※山崎賢人の崎はたつさきが正式表記
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun