不調改善

《便座に3分以上座ってはいけない?》トイレで起きる健康リスク、強い「いきみ」が引き起こす血圧上昇

便座に3分以上座ってはいけない(Ph/pixta)
便座に3分以上座ってはいけない?(Ph/PIXTA)
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体にたまった老廃物を排出し、腸内の環境を整える。定期的な排便は健康長寿を実現するための大切な生理現象であり、生活習慣だ。しかし、しっかり「出そう」と踏ん張るほど、死のリスクは足音を忍ばせて近づいて来る。時間・環境・姿勢…「いきみ」で命を落とさないためにはどうすればいいか。

監修・取材

草間かほるクリニック院長 草間香さん
東邦大学名誉教授・平成横浜病院・総合健診センター長 東丸貴信さん

トイレに入って5分、大きな物音

「早朝、トイレから大きな物音がして急いで駆けつけると、同居している82才の義母が倒れていて…慌てて救急車を呼びました」

そう振り返るのは山梨県在住の主婦・Aさん(52才)。

「病院での診断は心筋梗塞。発見が早かったため事なきを得ましたが、義母がトイレに入ってから5分も経たないうちに起きた出来事でした。もし気づくのが少しでも遅れていたらと思うと、ぞっとします」(Aさん)

Aさんの義母を一瞬で死の淵に立たせた原因は「いきみ」にあった。

草間かほるクリニック院長の草間香さんが解説する。

「いきむためには息を止めながら腹圧を高める必要がありますが、その動作によって一気に血液が心臓に送り込まれ、急激に血圧が上がります。

つまり、いきんでいる時間が長いほど心臓や血管に負担がかかりやすく、心不全や心筋梗塞、脳卒中など心血管疾患を発症するリスクが高まるということ。実際、トイレの最中に発症し、倒れる人は少なくありません」

スッキリするための”ひと踏ん張り”で命を危険にさらさないために、「死を招くいきみ」の正体を専門家に徹底取材した。

強くいきむと血圧は60上がる

平均すると約40mmHg、高ければ60mmHg以上ーーこれはいきんだときに上昇する血圧の数値だ。東邦大学名誉教授・平成横浜病院・総合健診センター長の東丸貴信さんが言う。

「つまり、安静時の最大血圧が140mmHgある場合、強くいきむと瞬間的な数値は200mmHgを超えます。たとえ数分間であっても血圧が200Hgを上回れば脳血管が切れたり、心臓や脳の血管が詰まったりして脳出血やくも膜下出血、脳梗塞といった脳卒中や、心筋梗塞のリスクが大きく跳ね上がります。

とりわけ高齢者は慢性的に血圧が高く、動脈硬化も進み血管が弱くなっているため、いきむことがトリガーとなり心筋梗塞や脳卒中を引き起こしやすい。3分以上のいきみはどんな場合でも避けるべきです」(東丸さん・以下同)

年を重ねることに加え、排便の頻度の低さもいきみと血管病の相関関係に拍車をかける。

「アメリカで行われた研究によって、慢性的な便秘の人ほど心血管疾患のリスクが高いことが明らかになっています。

国際学会誌に発表された論文によると1日1回排便のある人に比べて、2~3日に1回しかない人は心臓血管疾患による死亡率が1.21倍、4日以上に1回だと1.39倍に。さらに脳血管疾患による死亡率は、2~3日に1回で1.29倍、4日以上に1回では1.9倍に跳ね上がります」

外的要因も大きなリスクファクターになる。

寒くて冷たい日本のトイレ

「急激な温度変化も血圧の乱高下を招きます。とりわけ日本家屋はトイレや廊下が冷えやすい造りになっていることが多い。

ただでさえ血圧が上がりやすい環境下にいきみが加われば、血管に負担がかかることは自明です。特に一日の寒暖差が激しいこの時期は、より注意が必要です」(草間さん・以下同)

タイルの上にトイレの便器のオブジェが置いてある
日本のトイレは寒くて冷たい(Ph/イメージマート)
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血管に負担をかけずに正しく「いきむ」ためにはどうすべきか。気温が大幅に下がる早朝や深夜はトイレに立つことがリスクになるが、草間さんはがまんするよりも、より安全にトイレに行ける環境を整えるべきだと断じる。

「いつでも血管に負担なくトイレに立つことができるよう、環境を整えておくことが肝要です。便座はもちろん、トイレの室温もリビングや寝室と同じくらいに保つことを推奨します」

血圧だけではない、強く、長くいきむことによるリスク

強く、長くいきむことによるリスクは血圧だけではない。日本人の3人に1人が悩んでいるといわれる「痔」の危険性も指摘されている。いきみは腹部に圧力をかけると同時に肛門にも負担をかけるため、内肛門括約筋と肛門の粘膜の間にある組織がうっ血して血行障害が起こり、その部分がいぼ痔となってしまうことがある。強く長いいきみはうっ血を起こしやすくするので、いきみは3分以内が絶対なのだ。

スマホや本を持ち込んでトイレにこもるのも禁物。うっ血はただ座っているだけでも起こることから、便座に座る時間が長くなればなるほど痔になりやすくなる。“ながらトイレ”は、衛生的にも健康のためにもいますぐやめるべき習慣といえるだろう。

ロダンのポーズでかかとを上げる

高血圧や血管病、痔などいくつもの病の引き金にもなるいきみだが、避けるためには無理にいきまずとも出せるよう排便力をつけることを意識したい。専門家が口を揃えたのは、便座に「的確な姿勢」で座ること。

「座って『く』の字にする、いわゆる『ロダンの”考える人”のポーズ』で座ることで直腸から肛門まで一直線になり、排便しやすくなります。このポーズを取りながらかかとを上げ、少し前傾姿勢になることで自然に腹圧がかかり、強くいきみすぎることを避けられます」

東丸さんは、便意がなくても毎日朝晩、「考える人」のポーズで便座に座ることを推奨する。

「排便しやすいポーズで数分待つことで、血管や肛門に負担をかけずに便意を呼び起こすことができるようになります」(東丸さん)

それでも出ないときは、無理にいきまず、3分経ったら潔く諦めて次のチャンスを待とう。食生活を意識することで、便秘対策でいきみに伴う血管への負担を減らすことも大切だ。

理想の排便の姿勢(イラスト/飛鳥幸子)
理想の排便の姿勢(イラスト/飛鳥幸子)
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食生活の改善、筋肉を鍛えて予防

「バランスのよい食事に加え、適度な食物繊維と脂肪分、そして乳酸菌が含まれた食品を摂ることを心がけてください」(草間さん)

東丸さんは、食生活の改善に加え、筋肉を鍛えることを推奨する。

「筋力が低下するほどに排便時に強くいきむ必要が生じます。

定期的な運動が難しければ、うつぶせになって、体重を使って腸を地面に押し当てながら左右に体を動かすだけでもいいし、腹式呼吸をして横隔膜を上下に動作させるのも効果があります」(東丸さん)

運動をするのは大事だという(Ph/photoAC)
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草間さんもできることから始めてほしいと続ける。

「運動は筋力を保つことはもちろん、ストレス解消という側面でも重要です。とりわけ女性はストレスによってホルモンバランスが崩れることで自律神経が乱れ、便秘が慢性化しやすい。毎日の継続によって、いきまずに“出せる”体が作られます」

※女性セブン2024年5月9・16日号

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