「息が詰まる」「ちょっとひと息」というように、呼吸は、われわれの心と体に直結している。呼吸こそ、健康と長寿を支える“柱”だったのだ。身につければ、昨日の自分より、確実に健康な自分になれるはず。
『鬼滅の刃』で注目の「全集中の呼吸」
今、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が大ヒット中だが、主人公の炭治郎らは、特殊な呼吸法を使って刀を振るい、人を食う悪鬼を倒す。『鬼滅の刃』で描かれるのはファンタジーの世界だが、呼吸は古くから禅や武術の世界で重視されてきた。
『鬼滅の刃』には、身体能力を瞬間的に高める「全集中の呼吸」というワザが登場する。これと同じく、気合を入れたいときや大事なイベントの前に行いたいのが「1:1の呼吸」だ。 米ハーバード大学や仏ソルボンヌ大学などで最先端医療に携わる医師で医学博士の根来秀行さんが解説する。
◆やる気が出る「1:1の呼吸」とは?
「吸った空気で胸を膨らませるイメージで行う『胸式呼吸』と、お腹を膨らませるイメージで息を吸う『腹式呼吸』の両方を取り入れた呼吸法です。まずは背筋を伸ばして立ったまま、息を吐き切ります。次に、速めのスピードで鼻から息を吸って、鼻から息を一気に吐きます。このときは、胸式呼吸を意識してください。続いて、ゆっくりお腹を膨らませながら3秒かけて息を吸い、お腹をへこませながら6秒かけてゆっくり息を吐きます」(根来さん・以下同)
速いテンポで胸式呼吸した後に、ゆっくりとしたテンポで腹式呼吸をすることで、交感神経と副交感神経の両方に働きかけることができる。
「胸式呼吸で交感神経のスイッチがオンになり、脳や体が活動的になります。その後腹式呼吸をすると、副交感神経が刺激され、リラックスすることができる。つまり、やる気スイッチをオンにしたまま、ゆるやかにブレーキをかけて心を落ち着かせるのです。心身を“活動モード”にしたまま、興奮しすぎることはなく、冷静さを保つことができ、ベストなパフォーマンスで臨むことができます」
”呼吸力”を底上げする「ドローインの呼吸」
ダイエット法としても知られる「ドローインの呼吸」は、実は“呼吸力”を高めるのにも役立つ。
私たちが呼吸するときは、横隔膜など、肺の回りにある「呼吸筋」が動いている。腹圧をかけて行うドローインの呼吸をすることで、ぽっこりお腹だけでなく、浅速呼吸を改善し、普段の呼吸の質そのものを高めることができるのだ。
◆腹筋に意識を集中させ、お腹をへこませる
やり方は簡単。腹筋に意識を集中させて、お腹をへこませたまま、呼吸をするだけだ。
「背筋を伸ばしていすに座ったら、ゆっくりと鼻から大きく息を吸い込みます。このとき、意識的にお腹を大きく膨らませるのがコツです。吸い終わったら息を止めて、お尻に力を入れます。その後、鼻からゆっくりと息を吐きながら、お腹全体をへこませます。お尻の力は維持したまま、お腹を背中に近づけるイメージで行いましょう。そのまま30秒間キープしてから脱力します。キープしている間、呼吸は止めずに浅い胸式呼吸を行ってください」
慣れないうちは、へその上に手を当てて、お腹の動きを意識しながらやるといい。インナーマッスルも鍛えられるので、猫背も改善。いつでもどこでも、己を鍛えられる呼吸法なのだ。
全身の細胞が強くなる「完全呼吸法」
われわれは普段、無意識に空気を肺に出し入れする「外呼吸」を行っている。このとき、人間の体は、血液を介して全身の細胞に酸素を取り込む「内呼吸」も行っている。
「充分な細胞呼吸ができていないと、新陳代謝が低下したり、頭がボーッとするなどの不調が起こる。日本人に多い腰痛や肩こりは、腰や肩の筋肉細胞の酸素不足が原因の1つです」
そこで、効率的に細胞呼吸を行うためにおすすめなのが、「完全呼吸法」だ。
◆新陳代謝がアップし、内臓機能の向上が見込める
「肺を包んでいる胸郭の上部、中部、下部にあるすべての呼吸筋を使います。細胞呼吸を促進するので、血流がよくなり新陳代謝がアップし、内臓機能も向上が見込めます。また、副交感神経に働きかけて、緊張をほぐす効果もある。姿勢矯正や便秘解消、呼吸筋の強化にもつながります」
いすに腰かけてもあぐらをかいてもいいので、自分にとってラクな姿勢で座る。背筋を伸ばし、手を軽くへその前で組んで、目を閉じたところからスタートする。
「まず、ゆっくり息を吐きながらお腹をへこませます。次に腹式呼吸の要領で、お腹を膨らませながら息を吸ってください。そこから肩を後ろに引いて胸を開き、両肩を上げて肺の上の方まで空気を入れます。息を吸い切ったら、2~3秒息を止めましょう。その後、お腹をへこませながらゆっくり息を吐き、肩や胸を元に戻します」
「完全呼吸法」では、一つひとつの動作を丁寧に意識しながら、5~7回繰り返すのがポイントだ。呼吸法のメリットは、誰でも手軽にできることだ。東邦大学名誉教授で医師、脳生理学者の有田秀穂さんがいう。
「ヨガや気功法など、人は大昔から健康法として呼吸法を行ってきました。無意識で行っている呼吸に意識を向ければ、どんな人でも簡単に効果を実感することができます」
コロナにインフルエンザ…次々と襲い来る“現代の鬼”を前に強くなれる理由。それは、呼吸を制することかもしれない。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2020年12月3日号
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