アクションから読む、役作りの徹底ぶり
また、激しいアクションも『シティーハンター』の見どころのひとつでしょう。鈴木さんが披露するアクションはどれもこれも、しなやかで鋭い。1対1の格闘シーンでも、複数人を相手にした乱闘シーンでも、彼の動きは荒々しさがなく華麗です。アクションのリアリティを追求した場合、華麗さは求められません。けれども本作はマンガを原作としたものですから、どれだけ人間離れした身のこなしができるかが重要です。
その長い手脚を活かした鈴木さんのアクションは、まるで踊っているかのよう。実写とは思えない動きを、彼は軽快にやってのけています。いくら俳優とはいえここまで肉体を仕上げるのは、そうとうな追い込み方をしなければ無理なはず。鈴木さんの役作りの徹底ぶりは、ほとんどアスリートの域にあるのではないでしょうか。
それでいてアクションというのは通常のお芝居と同様に、対面する相手ありきのものです。本作ではハイスピードのアクションが展開しますから、密なコミュニケーションが必須になってくる。いくらアクロバティックな技を華麗にキメても、受け手側の正確なリアクションがなければ成立しません。一連のアクション・シーンの完成度の高さに、鈴木さんの座長ぶりが垣間見えたりもするのです。
彼の役作りの徹底ぶりは、ガンアクションにもいえることです。鈴木さんはこの作品のため、海外で実銃を扱う訓練を受けたというのです。
普通に生活をしていたら銃を手にする機会などないため、構え方ひとつで嘘がバレる。弾の込め方に関してもそうです。こういった細部を突き詰めた結果、より嘘のない獠というキャラクターが誕生しているのです。
“陰”も“陽”も、“静”も“動”も網羅したパフォーマンス。あらゆる観点から、獠を演じられる日本の俳優は鈴木さん以外にいないのではないでしょうか。そしていま、世界中のエンタメファンが彼に魅せられているというわけです。
Netflixだからこそできた実写化
本作において重要なのは、キャラクターたちだけではありません。彼らが過ごす街の表情が作品の完成度に大きく関わってくる。
新宿を舞台にした作品は数多くありますが、ここまで活き活きと街の様子を映し出している作品はそうないのではないでしょうか。製作チームは一年ほどの長い時間をかけて街との交渉を続け、「『シティーハンター』であれば」と撮影許可を得たのだそうです。
通常の映画やドラマだと、こうはいきません。新宿の街が舞台の「『シティーハンター』だからこそ」というのが大きいのかもしれませんが、映像の世界を拡張させようと動き続けているNetflixだからこそ実現できたことなのではないでしょうか。
この『シティーハンター』には、多くの人が日常を営むあの新宿の街が、等身大の姿で収められているのです。
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun