生存率が5%下がっても、声帯を残す選択をした
医師からは2つの治療法を提案された。1つは声帯と食道をすべて取り去り、胃を引っ張り上げて食道を再建する手術。もう1つは抗がん剤と放射線照射を合わせて行う「化学放射線療法」だ。
「先生からは手術でがんを除去したほうが、再発リスクを抑えられるとすすめられましたが、声帯を取ると声を出すことができなくなります。化学放射線療法なら体を切らなくてもすみますが、生存率が5%ほど下がるそうです。持ち帰って、一晩考えることにしました。ステージ3なので、速やかに治療方針を決めなければいけなかったんです」
姪は「手術してほしい」と泣いた
秋野さんはすぐに頭を切り替えて治療法を検討し始めたが、身内はそうはいかなかった。
「マネジャーでもある姪は、手術をしてほしいと泣いていました。娘は“ママの人生だから、ママが決めて”と言ってましたね。その日は一晩中、どうしようかと考えました。
私は女優ですから、手術をして声帯をなくすと仕事を失います。首の中央に穴をあけて気管孔を作ることになるので、お風呂に肩まで浸かれなくなりますし、水泳もできません。それに、ニオイもわからなくなるんですって。すると、食べ物の味もわからなくなるなど、QOLが落ちます。
それを考えると、たとえ寿命が短くなったとしても、今の生活が維持できた方が絶対いい。そう決断して先生に“化学放射線療法にかけてみます”と伝えると、5年生存率は約30%だと言われました。その時も、10人中3人生存するなら、私はその3人に入るはず、とポジティブに考えられたんです」
秋野さんはその後食道に見つかった9つのがんを含めて、現在は全て取り除かれている。
◆女優・秋野暢子さん
1957年1月18日生まれ。大阪府出身。1974年にテレビドラマデビューし、翌年NHK連続テレビ小説『おはようさん』で主演。1986年、映画『片翼だけの天使』でキネマ旬報主演女優賞受賞。2022年6月にステージ3の頸部食道がんが判明、主な治療は成功してがんサバイバーに。舞台、バラエティ、執筆、講演など、幅広く活動している。https://ameblo.jp/yokosmilerun/
取材・文/小山内麗香