かび毒は「無農薬」でリスク増 有機栽培では予防効果はほとんどない
高温多湿で梅雨がある日本はただでさえかび汚染リスクが高いが、輪をかけているのが「オーガニック」だという。
「有識者の間では、汚染の防止やリスクを軽減するためには、赤かび病に強い品種を選ぶことはもちろん、化学合成農薬の適切な散布も重要だと考えられており、2008年に農研機構らの研究がマニュアルとしてまとめられました」
一連の研究は、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が設置した「コーデックス委員会」が作成したかび毒汚染防止のための行動規範にも引用されている。
生産者はマニュアルに沿って栽培や収穫を行い、基準値を超えた小麦が市場に出回らないよう注意している。それでもサンプリング調査をすると年や地域によって数値は大きく変わり、発病予防の難しさを物語る。
「にもかかわらず、化学合成農薬を使わない有機栽培がオーガニックで体にいいとして礼賛されています。正しく化学合成農薬を使った方が安全だと、私は思います」
化学的に合成された肥料および農薬を使用しないことなどが有機栽培の基本となっているが、それによる弊害もあるということ。無農薬は安全どころか、かび汚染のリスクを高めてしまうのだ。
「有機栽培では、微生物から抽出した薬などおよそ30種類の農薬は使用可能です。しかし、それらの農薬で赤かび病を予防できるか、試験を行ったところ、効果がほとんどないものや、むしろ麦の生育に悪影響が出るものもありました」
また、高級ベーカリーや自然派食品の店などでは「天然酵母」をうたうパンが並べられているが、差別化される市販のイーストも天然に存在する酵母であり人工的に作られたものではない。“天然酵母だから安心”というお墨つきではないのだ。
オーガニック食品は「安心を見極める」のが難しい
松永さんは、「国産だから、有機栽培だから安全」という志向が過度になることに警鐘を鳴らす。
「無農薬で行う有機栽培は、高度な能力やこまめな観察、過酷な重労働が求められます。虫などは手作業でもとれますが、どこまで徹底して管理できるのかは非常に疑問が残る。虫によって食品に傷ができればそこから腐りやすくなり、かびもつきやすくなる。徹底した管理のもと有機栽培をされている農家もある一方、ずさんな管理になってしまっているケースも残念ながらあります。オーガニックはそれを見極めるのが極めて難しく、すべてが安全とは到底言い切れないのです」
一方で、「輸入食品だから危険」というのも間違った思い込みかもしれない。
「食の安全についての規制は、むしろアメリカの方が厳しい。日本から肉や魚介類を輸出しようとしても、アメリカの基準をクリアできず許可されないというケースが頻繁にあります」
「日本のいちごが農薬残留超過で輸出ストップ」に惑わされてはいけない
何を基準に食の安全を判断するか。そのためには、“バランスのよい食の情報収集”が必要だ。台湾メディアでは、しばしば日本から輸入したいちごの残留農薬が基準値を上回ったとして廃棄されたというニュースが流れるが、これも、だからといって日本のいちごが危険だと決めつけるのは早計だという。
「栽培に使われた農薬の中に、日本での残留基準値が台湾より高いものがあった。そのため、日本国内では基準値をクリアした問題のないいちごが、台湾に輸出されると基準値超えとなってしまうのですが、だからといって日本のいちごが決して危険なわけではありません。基準値を超過した農薬は台湾でも野菜や果物に使われ、高い基準値が設定されているものもある。
そもそも、基準値の高低でどちらが安全かを判断することはできません。農薬の規制は、作物の種類や気象条件、その作物につきやすい害虫や病原菌などがその国で出やすいか、その作物を国民がどれだけ食べているかなどさまざまな要素を検討して決められています。毒性の強さで基準値が決まっているわけではないので、安全性の指標にはなりません」
あるひとつの食品の、ひとつの基準値だけを比べて、安全か危険かを決めるのは極めて難しいということ。体にとっていちばんの害とリスクは“思い込み”と“決めつけ”なのかもしれない。
※女性セブン2024年6月27日号