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知っておくべき「地震保険」の基礎知識 官民一体の非営利制度で保険料は最低限、目的は被災後の生活再建、家を買い直すためのものではないことに注意

地震保険は家財をチェックする必要がある(写真/PIXTA)
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「南海トラフ地震臨時情報」に「台風避難指示」。日本列島はいま、未曽有の大災害の“Xデー”の足音におびえている。非常時に「命を守る」心構えは全国民に浸透しつつあるが、生き延びた先の「暮らし」を見据えたときに備えておきたいのが「地震保険」だ。その基礎知識と注意点を解説する。

加入率上昇も未加入世帯も多い「地震保険」

8月8日、宮崎県日向灘にて最大震度6弱、マグニチュード7.1の地震が発生し、気象庁は大規模な地震が発生する可能性が普段と比べ増しているとして、初の「南海トラフ地震臨時情報」を発表した。呼びかけは15日に終了したものの、大災害への不安は依然として高まったままだ。

さらに同月30日には九州に上陸した台風10号により、長崎県、兵庫県、愛媛県、静岡県、東京都などの幅広い地域で「全員避難」を呼びかける「警戒レベル4」の避難指示が発令された。

東日本大震災の教訓から食料や水などの災害用備蓄が改めて重視されるようになったが、被災時の命をつなぐ「物資」を備えるのと同じように、その後の暮らしを支える「お金」の備えも不可欠。事実、火災保険に付帯する「地震保険」の加入者は、東日本大震災以降、右肩上がりだ。ファイナンシャルプランナーの平野敦之さんが話す。

「2023年時点で、火災保険に地震保険を付帯している割合は2014年度の59.3%から69.7%に増えており、付帯率がもっとも高いのが宮城県の89.4%。もっとも低い長崎県でも、55.2%と半数を超えています。

一方、地震保険の全世帯の加入率は2014年度の28.8%から35.1%と増えています。ただし、地震保険とは別に各共済が提供する地震等の補償もあり、これを加味するともう少し高い加入率になります」

加入率が上がっているとはいえ、まだ多くの世帯が未加入であるのもまた事実。

地震大国・日本では“全世帯必須”であるはずの地震保険。入っていないのはもちろん、きちんとした知識がないまま加入して、いざというときに補償が得られないのでは元も子もない。

「地震保険は高い」という誤解

まず知っておくべきなのは、地震保険は「地震で壊れた家を買い直すためのもの」ではないということ。

「地震保険はあくまでも、被災後の生活再建のためのものです。

その実、地震保険の補償額は、付帯している火災保険の契約金額の30〜50%まで。例えば3000万円の火災保険に加入しているなら、地震保険の補償額は900万〜1500万円の範囲で、自分で決めることになります。また建物は5000万円、家財は1000万円までという上限もあります」(平野さん)

次に「地震保険は保険料が高い」という認識も改めておこう。ファイナンシャルプランナーで社会福祉士の清水香さんが説明する。

「地震保険が高く感じるのは“火災保険だけに加入するつもりでいたのに、地震保険もすすめられて、保険料が想定外に上がった”という心理的なもの。実際は地震保険は官民一体の非営利の制度で、保険料は最低限に抑えられています」

保険のパンフレット
保険料は住んでいる地域の被災リスクと建物の構造で決定(Ph/photoAC)
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保険料は住んでいる地域の被災リスクと建物の構造で決まる。

「住宅の密集している東京都や神奈川県などは保険料がもっとも高い。とはいえ、補償額が500万円で新耐震基準のマンションの場合、保険料は年間1万2400円ほど、一方岩手県は年間3300円ほどです」(清水さん)

「高い」という思い込みで地震保険に加入しなかったことで、多額の負債を抱えることになってしまった人は少なくない。岩手県在住のAさん(49才)ものその1人だ。

「結婚してマイホームを買ったのが13年前です。地震保険は高いし、補償金額が火災保険より少ないと思って入らずにいましたが、せっかく買った家を2011年の震災で失い、いまはローンだけが残っています」

Aさんは火災保険には加入していたが、マイホームを失った火災の根本的な原因が「地震」だったため火災保険の補償の範囲外で、保険金がおりなかったのだ。

「同じ火災であっても、失火や落雷によるものなら火災保険、地震によるものなら地震保険と、原因によって補償できる保険が異なります。たとえ保険料が高額だったとしても、地震保険には加入しておくべきです」(平野さん・以下同)

「家財」に加入しないことのリスク

さらに地震保険の補償範囲には「建物」と「家財」がある。両方を補償する契約にするとその分保険料が上がるため、「家財」までは加入しないケースもあるが、これは危険だ。

「家財の対象は“生活に必要なものすべて”です。家具、家電はもちろん、食器や衣類などもすべて補償してくれる。

火災が起きて家は無事だったとしても、消火のための放水で家財一式が濡れて使えなくなってしまうことは多い。このとき『建物』にしか入っていないと保険金は出ず、家財はすべて自腹で買い直しになります」

また、「建物」と「家財」の両方に入ると、補償額の増額にもつながる。

「地震保険は、被害の大きい順に『全損』『大半損』『小半損』『一部損』の4つの区分にあてはめ、保険金額が決まります。もっとも被害が少ない『一部損』の基準に満たないと、たとえ家具に損害があっても補償はゼロ。建物が損壊しているときは家財も損失している場合が多いのに、『建物』にしか入っていないと、被害に対して補償される金額が足りなくなる可能性が高いでしょう」

地震保険をセットで加入することで補償を受けることができる(提供/清水さん)
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地震保険の加入者は20年で2倍以上になる
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※女性セブン2024年9月19日号

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