「南海トラフ地震臨時情報」に「台風避難指示」。日本列島はいま、未曽有の大災害の“Xデー”の足音におびえている。非常時に「命を守る」心構えは全国民に浸透しつつあるが、生き延びた先の「暮らし」を見据えたときに備えておきたいのが火災保険だ。その基礎知識と注意点を解説する。
マンションの高層階でも必要な水災、風災への備え
火災保険は持ち家、賃貸にかかわらず加入が必須。補償内容は自分で選ぶことができ、当然ながら増やすほど保険料は上がる。だが、ここでケチると“もしものとき”に後悔することになりかねない。ファイナンシャルプランナーで社会福祉士の清水香さんが説明する。
「かつては“マンションの高層階に住んでいれば、水災や風災は必要ない”ともいわれましたが、いまは事情が違う。2018年に大阪に台風が上陸したときは、高層階に飛来物が直撃し、専有部分に損害が発生しました。また2019年には神奈川県・武蔵小杉のタワーマンションで水がはけなくなり、排水管から水が逆流する事態が発生しています。もはや、高層階に住んでいても水災が不要とは言い切れません」(清水さん・以下同)
水災は台風や暴風雨、豪雨、融雪による洪水のほか、高潮、土砂崩れ、落石もカバーされる。近くに川や海がないからといって、水災をつけないような油断は禁物だ。どうしても安くしたければ、「免責」の活用を。
「免責とは、簡単にいえば自己負担額を設定するということ。
例えば『免責金額10万円』なら、100万円相当の損害があった場合は、そのうち10万円を自己負担することになり、保険金として支払われるのは残りの90万円になります。
保険料をまとめ払いするのも1つの手。火災保険の契約は最長5年間なので、5年契約で保険料を一時払いすることで、毎年更新するよりも安く抑えることができます」
「絶対につけるべき」特約とは
「公的な給付がなく、手元のお金では対処できない大きな損害に備えるため」。清水さんは、保険の最大の意義をそう語る。中でも「絶対につけなければいけない」と専門家が口を揃えるのが「個人賠償責任特約」だ。
「他人に損害を与えてしまった際の法律上の損害賠償責任を補償する保険です。他人のものを壊したり、過失によって誰かを死傷させてしまう可能性は誰にでもあり、賠償額がどれほどになるかは予測できない。中には自転車事故でおよそ1億円の賠償命令が出たというケースもあります」
台風で庭の木が倒れて隣家に被害を与えてしまい、損害賠償責任を負った場合などでも補償を受けることができる。災害時だけでなく「洗濯機のホースがつまって階下に水漏れさせてしまった」「散歩中に犬が通行人に噛みついた」といったケースも対象になる。ファイナンシャルプランナーの平野敦之さんが話す。
「個人賠償責任特約は火災保険のほか、自動車保険や自転車保険、傷害保険などに付帯できます。ただし、その分重複しやすいので、新たに加入する際はよく確認を」(平野さん・以下同)
「キャンセル保険」「スマホ保険」は必要か
そうした「絶対に入るべき保険」がある一方で、よく検討すべきケースもある。
「住まいのリスクは建物の所在地や構造、築年数などによって異なり、火災保険の補償も、損害保険会社や商品によって違う。自分にとって必要な補償とそうでない補償を確認し、冷静に判断してください」
加えて近年は、コロナ禍を経て注目を集めるようになった、旅行やライブの「キャンセル保険」のほか、「月々100円からスマホの破損時に5万円を補償」とする「スマホ保険」など、ユニークな少額保険が次々登場しているが、これも本当に必要かどうか、落ち着いて判断すべきだ。
「スマホの破損もライブのキャンセルも、生活がおびやかされるほどの家計へのダメージはありません。“掃除中にうっかり窓を割ってしまった”など、日常の過失での損害を補償する家財の『破損・汚損』と同様に優先順位は低いでしょう。手元のお金で対応できないレベルの出費にはならないからです」(清水さん)
どうしても不安なら、少額かつ短期のものを選べばいい。車を持っていない人がレンタカーを使用する際に1日だけの自動車保険に加入できるように、旅行時に「その日限り」の保険に加入すれば、安心して楽しむことができるだろう。
命はもちろん暮らしも守れるよう、いまから行動を。
※女性セブン2024年9月19日号