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《家族が認知症だと思ったら…》“どうやって病院に連れていくか”に悩む人に有効な方法を専門家が指南

医師の話を聞く女性
認知症の疑いがある家族を病院に連れて行くよい方法とは?(写真/photoAC)
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誰しもにある、認知症のリスク。まだ身近に認知症患者がいないという人こそ、そのときが来るときの心構えをしておきたい。そこで、『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)の著者で理学療法士の川畑智さんに、家族が「認知症かも…」と思ったときの対応について聞いた。また、川畑さんが認知症の人のサポートや認知症予防のための活動を行うなかで出会った、自身が認知症を自覚した人のエピソードについても教えてもらった。

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家族が認知症かと思ったら…

最近物忘れがひどくなったなど、家族が認知症かもしれないと思ったとき、ストレートに「認知症じゃないの?」と伝えてもすんなり受け止められる人は多くないだろう。

本人に自覚がなければ、「何を言っているんだ」と怒ったり不機嫌になったりするのは想像にかたくない。また、自分の異変を感じている場合も、「もし本当に認知症だったら…」と認めることへの恐怖心で、病院に行くことをためらってしまうことも多いという。

「この『どうやって病院に連れていくか問題』は、全国をまわる講演でも、非常によく聞かれる悩みです」と川畑さん。

自分の検査を理由に病院へ誘導

そんなときに川畑さんがすすめているのが、「最近、物忘れがひどい気がしてるの。1人で検査に行くのが不安だから、一緒に病院についてきてくれない?」といった具合に、自分ごととして話して、警戒されないように病院への同行を促すという方法だ。

「事前に病院に連絡を入れておけば、そこは相手もプロ、心得たものです。奥さんのニセ検査を終えたあとで、『せっかくだから、ご主人も一緒に検査をしてみましょうか』と、事前に打ち合わせたストーリーどおりにうまく運んでくれるでしょう」(川畑さん・以下同)

健康診断のお知らせ
健康診断を理由にするのも有効(写真/photoAC)
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ほかにも、「健康診断のお知らせが来て、今年は頭の健康チェックがあるのよ」といった“ウソ”もかなり有効な手段だと川畑さんはいう。

「健康診断の案内は、行政から毎年来るのが通例となっているため、義務的な感覚で、割とすんなり受け入れることができるようです」

認知症も早期発見が大切

認知症は生活習慣病の1つなので、「早期発見が大切」だと川畑さん。おかしいと感じたら、気分をのせて病院に行ってもらうことが早めの対策の第一歩だ。

「MCI(軽度認知障害)」の状態を放置すると、年間10〜15%が認知症に移行するといわれており、初期の段階で適切に対処をすれば、進行をゆるやかにしたり、健常な脳に戻したりできることもわかっています」

脳疾患が原因の記憶障害もある

また、「記憶障害=認知症」とは限りません、と川畑さん。例えば、硬膜下血腫や脳腫瘍といった脳の病気、また、老人性うつでも、記憶力は低下するからだ。

頭を抱える女性
認知症ではなく脳疾患の可能性も…(写真/photoAC)
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「とりわけ、脳疾患が原因なら緊急を要します。そのため『あれ、おかしいな』と感じたら、早めに病院に行って検査を受けることを、私は必ずすすめています」

認知症について理解を深めることが大切

川畑さんが認知症への不安を少し和らげるエピソードとして教えてくれたのは、初期の認知症の段階で自身の異変に気づき、対策をしようとした68歳の平田さんの話だ。

平田さんが川畑さんの元を訪れたのは、「最近、記憶が苦手になった」という自覚が強まったことがきっかけだったという。

大量のネガフィルム
自分が認知症かもしれないと思ったときの心構え(写真/photoAC)
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心構えができていれば不安も減る

初期の認知症だとわかったにもかかわらず、平田さんは「原因不明の病気じゃなくてよかったです。次にどうなるのかわかっていれば、手も打てるし、心構えもできるじゃないですか」と、強がっているというわけでもなく、妙に明るく見えたそうだ。

「普通はこうはなりません。『とうとうこの日がきたか』『自分はもうダメだ』…と、認知症の診断がつくとほとんどの人は落ち込みます」

川畑さんは、平田さんが両親ともに認知症だったと聞いて、両親の人生を見守りながら、どんなことが起こってどうすればいいのか、認知症について理解を深めていたことがわかったという。

「大切なのは、認知症になったらどうなるか、どう支えられればいいかを事前に知っておくことです。今介護をしているかたは、介護をしていること自体が、実は自分自身の認知症に対する学びになっているという点も、ときどき思い出してみてください」

横断歩道を渡る老夫婦
認知症になったらどうなるのか、事前に知っておくことが大切(写真/photoAC)
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次に起こることを知ってショックを緩和

「人は、知らないものに恐怖を感じます」と川畑さん。介護する側も、次にどうなるかわからないからこそ、この先に起こることを想像してビクビクして過ごすことになる。でも、「次に起こることがわかれば、大抵のことは受け止められるもの」だと川畑さんは言う。

「ある日突然、トイレの失敗を目の当たりにするのと、『そろそろ、トイレが1人でできなくなる頃かな』とめどをつけてから経験するのでは、大違い」だと続ける。

そのためには、本で予習しておいたり、ケアマネジャーに次に苦手になることをあらかじめ聞いておいたりするのがいい。

「少なくとも、心構えをしておくことで、ショックを緩和できるでしょう」

◆教えてくれたのは:理学療法士・川畑智さん

スーツ姿のめがねをかけた男性
理学療法士の川畑智さん
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かわばた・さとし。理学療法士。熊本県認知症予防プログラム開発者。株式会社Re学代表。1979年、宮崎県生まれ。理学療法士として、病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立し、熊本県を拠点に「脳いきいき事業」を展開。さらに、脳活性化ツールの開発に携わったり、講演活動を行ったりしているほか、メディア出演や著作も多数。

◆監修:脳心外科医・内野勝行さん

うちの・かつゆき。脳神経内科医。医療法人社団天照会理事長。金町駅前脳神経内科院長。帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院を経て、現在は金町駅前脳神経内科の院長を務める。脳神経を専門として、これまで約1万人の患者を診てきた経験をもとに、薬物治療だけでなく、栄養指導や介護環境整備、家族のサポートなどを踏まえた積極的な認知症治療を行っている。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。

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