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終活はいつ始めるべきか?この先の人生を充実したものにする「やりたくなる終活」のコツ

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終活は「思い立ったが吉日」(写真/photoAC)
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人から「あれをしろ」「これをしたほうがいい」と言われても、「やらなければ」と思うだけで、「やりたい」とは思えないもの。終活に関しても同様で、なんとなく「やらなければ」と思いつつ、なかなかやらないまま時間が過ぎている人も多いだろう。そこで、『終活1年目の教科書 後悔のない人生を送るための新しい終活法』(アスコム)を上梓した、1級FP技能士の黒田尚子さんに「やりたくなる終活」について詳しく教えてもらった。

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やらされる終活は長続きしない

「『行動』には、2つのパターンがあります」と黒田さん。それは、「自ら進んで行動する」のと、「他人によって行動させられる」の2つだ。終活についても同様で、自分から「やりたい」と感じて行う場合もあれば、人から言われて「やらなければ」と感じて行う場合もある。しかし、人から言われてやる場合、なかなか思うように進まなかったり、途中でやめてしまったりすることも多い。

「行動することが大事と言っても、他人にいわれてやるのでは、効果も半減しますし、長続きもしません。自分自身の『やる気スイッチ』が入らないとダメなのです」(黒田さん・以下同)

やる気スイッチをオンにするには「欲」に気づくこと

黒田さんは、「自分の中の『欲』に気づくと、『やる気スイッチ』がオンになる」と話す。黒田さんによれば、根源的な人間の「欲」は大きく分けて次の5つに分類される。

【1】「生きててよかった」を味わいたい
【2】やりたいことを全部やりきりたい
【3】「絆」を感じたい
【4】人から認められたい
【5】心配事をなくしたい

これらの欲を終活が満たしてくれると感じられれば、「やる気スイッチ」はオンになるのだという。

ガッツポーズをする女性
「やる気スイッチ」をオンにすることが大切(写真/photoAC)
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「『人に迷惑をかけないように、終活をしましょう』と言われるよりも、『人から認められたくありませんか。それには終活がおすすめですよ』と言われたほうが、そうなの? 本当にそうならやってみようかな、と興味がわきませんか? 根源的な『5つの欲求』を叶えることで、この先の人生がより充実したものになるはずです」

「5つの欲求」を満たす、やりたくなる終活

5つの欲求は、終活でどのように満たせるのか。

例えば、子供が小さい頃の写真を見て、子供が生まれたときの幸せな瞬間を思い出し、「生きててよかった」と感じることがある。黒田さんによれば、終活でも洋服やアルバムの整理、片付けなどを通して、同様の感覚を味わうことができるのだという。

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思い出の品を振り返ることは「生きててよかった」と感じることにつながる(写真/photoAC)
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また、「やりたいことを全部やりきりたい」という欲求に対しても、これまで家族や誰かのために我慢してきた「自分のやりたいこと」を終活のなかで見つけていくことで、欲求を叶えることにつながっていく。このように、終活は5つの欲求を満たすのに役立つと黒田さんは話す。

「私は、終活をすることが、この先の人生をより充実したものにする近道、と考えています」

5つの欲求はマズローの欲求5段階説にも通ずる

米国の心理学者マズローは、人間の欲求が「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの段階に分類されるという考えを提唱したが、黒田さんの考える「5つの欲求」も、この説に通ずるという。

「『生きててよかった』を味わいたい」と「やりたいことを全部やりきりたい」は「自己実現の欲求」、「『絆』を感じたい」はなんらかの社会集団に属して安心感を得たいという「社会的欲求」に通ずる。そして、「人から認められたい」は、その属する集団に自分の能力を認められたいという「承認欲求」、「心配事をなくしたい」は、身体的に安全で、経済的にも安定した環境で暮らしたいという「安全の欲求に通ずるところがあるためだ。

「このように、多くの部分が重なるのは、私も、マズローの考え方の根底にある『人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である』という点に共感しているからかもしれません」

終活は思い立ったときに始めるのがいい

終活に興味は出てきたが、やるにはまだ早いと思っている人もいるだろう。しかし、終活を始めるタイミングに決まりはなく、「思い立ったが吉日」と黒田さん。ただ、一般的には、定年退職や子供の独立・結婚など、人生の節目となる出来事がきっかけになることが多いそうだ。

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終活は「思い立ったが吉日」(写真/photoAC)

「そう考えると、60代前後が『終活適齢期』と言えるかもしれません」

終活はいざというとき家族のためになる

黒田さんが60代前後の終活適齢期の人たちに終活をすることをすすめる理由の1つは、やはりお金の側面からだと言う。事故や病気でお金が必要になったとき、いくら本人がきちんと貯金をしていたとしても、それを伝えられなかったり、伝えていなかったりした場合、家族は急にお金の工面などに追われることとなる。

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終活をしなかった場合、特にお金の工面で家族が困ることが多い(写真/photoAC)
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「現在、私は、FPの立場から、定期的に病院で、患者さんやそのご家族の相談を受けています。みなさん、さまざまな病気や病状を抱え、職業や家族構成、置かれている環境もバラバラですが、『もっと、早く終活をしておけばよかったのに……』と感じるケースが少なくありません」

終活をすると大切なものに気が付ける

終活をしておくことで、いざというときに家族が困らないという側面もあるが、終活は自分のためのものでもある。終活は「自分がこれまで何を大切にして生きてきたのか」、「これから残りの人生で何を大切にしたいのか」といった過去の人生の振り返りができるとともに、今、大切なものや人に気づくことにつながるためだ。

「終活も『老いの入り口』ではなく、自分のやりたいことをどんどんやって生きていくターニングポイント。そうとらえてはいかがでしょうか」

◆教えてくれたのは:CFP、1級FP技能士・黒田尚子さん

白いジャケットの女性
CFP、1級FP技能士の黒田尚子さん
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くろだ・なおこ。CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格。大学卒業後、日本総合研究所に入社。在職中にFP資格を取得し、その後FPとして独立。医療、介護、老後、消費者問題などに注力しながら、一般社団法人患者家計サポート協会顧問や城西国際大学の非常勤講師も務める。著書に『終活1年目の教科書 後悔のない人生を送るための新しい終活法』(アスコム)など。

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