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【気象予報士対談】天達武史さん&井田寛子さんが語る異常気象の現実「地球が沸騰化している」「気象の常識が完全に変わった」

気象キャスターの井田寛子さんと気象防災キャスターの天達武史さん(撮影/浅野剛)
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ノロノロ台風10号は去ったが、猛暑はもうしばらく続きそうだ。夏の平均気温は平年と比べて+1.76℃と史上1位。熱中症患者が急増し、全国で約8万5000人が救急搬送された。そんな異常気象や気候危機の解消に向け、仲間たちと動き出した気象防災キャスターの天達武史さんと気象キャスターの井田寛子さんに、「いまこそ伝えたい気象の話」を聞いた。【前後編の前編。後編を読む

2100年には全国的に40℃を超える殺人的な最高気温が続く

今年の夏はうんざりするほどの暑さだったが、2100年夏のある日の天気予報図を見たら、さらにゾッとするのではないか。

井田「環境省が2019年に公開したデータを基に作成したものですが、2100年には沖縄だけが38℃台で、あとは全国的に40℃を超える殺人的な最高気温が毎日のように続くといわれています。

私たちが何の対策も行わず、CO2などの温室効果ガスを排出し続けると、76年後の夏の最高気温がここまで高くなるという現実を、まずは知ってほしいんです」

天達「いまの生活を漫然と続ければ、多くの人が死んでしまう。東京ではこの7月、熱中症の死亡者が123人でしたが、2100年には約1.5万人の犠牲者が出てもおかしくない。もはや学校にも行けず生活も確実に変わるから、恐ろしい未来が待っているわけです」

最高気温41〜44℃が当たり前の2100年になると、まだ発表されたことのない「熱中症特別警戒アラート」が毎日発表。実質外出禁止となって学校も会社もリモートとなり、街から人影が消えることに。さらに連日、灼熱の熱波が全国各都市を襲い、熱中症でバタバタと人が倒れる。そこで救急車を要請しても機能せず、医療は逼迫、コロナ禍に似た状況が再来するかもしれない。

気象キャスターや気象予報士44人が今年の世界環境デーの6月5日、「命と未来をつなぐ気候危険解決の架け橋となり、行動する」と国連大学で声明を発表。今後は気象と気候変動を関連づけて伝え、温暖化抑止を訴える頻度を高めていくという
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──温暖化による気候変動は、気象予報士が担当するジャンルとは違うのでしょうか?

天達「ぼくら気象予報士が見ている気象は、いまから1週間、数か月先くらいまでの天気の動き。これを正確に、なるべく早くお伝えするのがいちばんの仕事です。それに対して、気候は気候科学者の研究分野で、10年、50年、100年といった大きな物差しで、気温や降水量などの大気の状態を予測します」

井田「地球温暖化となると、グローバルかつ長期間に及ぶ話になるので、天気予報内ではなかなか触れづらい。どうしても、災害からの避難や、熱中症予防など防災の話が優先になります」

気候変動に関する放送件数は2007年以降減ってきている
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子供を持つ親として暑い未来は防ぎたい

井田「私はNHK静岡局に入局後、2006年に気象予報士の資格を取得しました。それは静岡で気象災害が多く発生していたことから、人命を守るために災害報道に携わりたいと思ったからです。

その後、2023年の記録的な暑さを日本も世界も体験し、予報士として、小さい子供がいる親として、『いまの気象だけではなく、報道のあり方を変える必要がある』と思ったんです」

井田さんは結婚・出産後、東大大学院総合文化研究科広域科学専攻に入学。2023年に専攻修了した。修士論文のテーマは「気候変動のコミュニケーション論」だ。

──今年の猛暑も、温暖化が原因でしょうか?

気象キャスターの井田寛子さん(撮影/浅野剛)
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井田「産業革命前(1850年)の平均気温より、気温が1.5℃上がると永久凍土が溶けて、後戻りできなくなるレッドゾーンに入ります。それが、WMO(世界気象機関)による『世界の気温上昇が、今後5年の間に一時的とはいえ1.5℃を超えそうだ』というニュースもあるんです」

天達「これが恒常的に超えるようになると、もうアウト。気象庁によると日本の年平均気温は過去100年あたりで1.35℃上昇。『なんだ100年で1℃上がっただけか』と思うかもしれませんが、もう、やばい。ここ数年は異常で、地球が沸騰化していると実感しています」

井田「気象の常識が完全に変わってきて、皆が豪雨や猛暑、巨大台風、熱中症のリスクにさらされ、具体的に何をどうすればいいのか戸惑っている気がします。それに……日本人には気候変動や自然の脅威にはなすすべがないという無力感や諦めが根底にあるように感じます。

でも、それがアクションを起こさないことにつながるとしたら、この先を生きる子供たちに異常気象の世界を押しつけることになる。そうならないように意識と行動を変えるには、“まだ間に合う”“変えられる”という希望も必要です」

──講演会とテレビとでは伝え方は違ってきますか?

天達「全国各地に講演で行きますが、気候変動に関心のあるシニアのかたが多く、温暖化の話はしやすいんです。

それに対して、テレビの場合は、打ち合わせのときに異常気象の原因を聞かれて、ぼくが『原因は温暖化です』と言うと、急にスタッフたちに引かれちゃうことがよくあるんです(笑い)。それは、テレビの視聴者は不特定多数で、気候変動に関心の高い人もいれば、興味のない人もいるのと、“温暖化”というワードひと言で片づけちゃうと、それが結論のように感じられてしまう、というのもあるのかなと思います。

それで、環境月間などで“二酸化炭素があるとなぜ暑くなるか”“海面上昇はなぜ起きるのか”などの実験を番組で解説したり、SDGs週間などに絡めて取り上げるようにしています」

暑すぎて運動量が減る子供たち

──子供たちと温暖化やSDGsなどについて話しますか?

井田「いまの子供たちは、小学校から気象について学んでいるので、温暖化にも詳しいんですよ」

天達「ぼくが子供の頃は、冷蔵庫を開けて、頭を入れて『ひゃ〜涼しい』なんてやっていたのに(笑い)。いまの子供たちは、何も言わなくても『水を出しっぱなしにしない』『ゴミを減らす』『無駄遣いをしない』などを当たり前にやっていて、偉いなと思います」

井田「うちの子が生まれてきたときは、すでにめちゃくちゃ暑かったわけで、それ以外の夏を知りません。プールが大好きなのに暑すぎたり、雷注意報で一季に2回くらいしか入れない。公園の滑り台なんか熱くて座れないし、遊具に誰もいない。だから運動量が少ないんです。その影響がこの先どう出るか、気がかりですね」

CO2排出を抑え、CO2を吸収する森を増やす。やるべきことはシンプル

──日本は、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、いわゆる『2050年カーボンニュートラル』を目指していますが、その効果はあると考えますか?

気象防災キャスターの天達武史さん(撮影/浅野剛)
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天達「あと約25年ですが、本当に達成できれば、日本は脱炭素社会になります。出したCO2をそのまま吸える環境に戻していけば、気温が上がっていくのが抑えられ、徐々に落ち着いていくと気候科学者は予測しています。

そうなるには、いま行動しないとこの先何をやっても難しい状況になりかねません。私たちの課題は、CO2排出を抑え、CO2を吸収する森を増やすこと。やるべきことは実にシンプルです」

井田「人間はこれまでもさまざまな技術革新を行ってきましたが、今後はCO2排出を抑えたり、暑い時代を生き抜くための新しい技術を生み出すことが必要です。そのためには、再生可能エネルギーを活用することも重要です。

たとえば太陽光パネルにしても、耕作放棄地で小さなシェアリングみたいなものを日本全国で行えば100%太陽光で賄える、など調べると方法はいくつもあることに気がつき、疑問も芽生えます」

──気象予報士が気候変動を伝える強みってありますか?

井田「気象予報士には毎日放送枠があり、視聴者と近い存在で、発言の自由度もあります。食や健康リスク、スポーツなどあらゆる分野と気候変動の話題は何かしら関係があるので、身近に感じてもらいやすいと思います」

天達「詳しい科学データが公表されるようになったので、以前より気候変動について話しやすくなりましたね。将来の予報を自ら行うより、たとえば現実に起こっている洪水の報道映像などを使い、どう具体的にイメージしてもらうかが、ぼくらの腕の見せどころ。テレビは映像の宝庫ですから」

後編につづく

【プロフィール】

天達武史/気象防災キャスター。1975年、神奈川県出身。ファミリーレストラン勤務時に気象予報士の資格を取得。その後、日本気象協会に所属し、フジテレビ系『とくダネ!』を経て、現在は同『めざまし8』に気象防災キャスターとして出演中。

井田寛子/気象キャスター。1978年、埼玉県出身。NPO法人気象キャスターネットワーク理事長。NHK静岡局を経て、気象予報士の資格を取得し、NHK『ニュースウオッチ9』やTBS系『あさチャン!』などで気象キャスターを務める。

取材・文/北武司

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※女性セブン2024年9月26日・10月23日号

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