健康・医療

【日本の医療の実態】事故を必死に隠そうとする病院や医師、人手不足で問題を起こした医師も転職可能、医師から見ても「不器用な医師」も 

経験や知識がない危険な医師がいるケースは少なくない(写真/PIXTA)
写真6枚

「ミスが多い」「経験が少ない」「知識がない」。私たちが命を預けなければいけない医師の中には、実はこんな危険な人物が少なくない。不調を治すために行った病院で心と体を壊さないようにするための方法を、現場を知り尽くした医師たちがこっそり明かす。【前後編の前編。後編を読む

医療事故の件数は増加

全国各地の病棟が「患者の安全」を意味するシンボルカラーのオレンジに染まり、東京都では「医療の安全」をテーマにしたシンポジウムに大勢の医師や看護師が足を運ぶ―世界保健機関(WHO)が制定した「世界患者安全の日」である9月17日、国内の至るところで医療者たちによる啓発活動が行われた。

国民皆保険制度の下、高い志を持った医師から誰もが適切で安全な治療を受けられる日本の医療の質は世界でもトップレベルだとされてきたが、その実態はいま、大きく揺らいでいる。日本医療機能評価機構の発表によれば、医療事故の件数は年を追うごとに増加しており、2023年における医療事故の報告件数は前年よりも757件多い6070件にものぼった。

命にかかわるものや、日々の生活が困難になる重篤な事例も枚挙に暇がない。2020年1月に兵庫県の赤穂市民病院で起きた「手術ミス」では、腰椎の手術を受けた70代の女性が、40代の脳神経外科医に誤って神経をドリルで切断されたことで、下半身のまひなど重い後遺障害を負った。

現在、民事裁判が進行中だがそこで明らかになったのは、この医師がわずか半年の間に執刀した手術で8件の医療事故を起こしていたという事実。病院の管理体制や安全教育の在り方も問題視されている。

事故やミスは治療時に留まらない。今年4月には名古屋大学医学部附属病院が、8年前に80代の男性患者の画像診断の結果を主治医が見落としたことで、肺がんの診断が遅れたことを公表した。患者は最終的に、肺がんで亡くなっている。

報告されてない事故も数多ある?

「日本の医療水準は、皆さんが思うほど高くない。いま明らかになっている医療事故は氷山の一角に過ぎません」

匿名を条件にそう話すのは、都内の総合病院に勤務する50代の消化器内科医の男性だ。

「患者の多くは『医師は倍率の高い試験を突破し、厳しい研修を受けたのだから』と信頼していますが、現場で一緒に働いている中には勉強を怠ってきた医師もいれば、過ちを認めようとしないずるい医師もいる。医療事故が起きれば、重大な内容であるほど病院も医師も必死で否定して隠そうとする。そのため、報告されていない事故も数多あるのが現状です。

医療事故が起きたら隠そうとする病院や医師もいる(写真/PIXTA)
写真6枚

加えて現在、どこの病院も医師不足のため、問題を起こした医師であっても比較的簡単に次の職場に移ることができる。患者が裁判を起こしても、それが大きく報道されない限り、勤務先の病院を変えれば過去を隠せるのです」

実際、赤穂市民病院の執刀医も現在は別の病院に移り、医師として勤務を続けているという。『医者が教える「ヤブ医者」の見分け方』著者で、松寿会病院理事長の金子俊之さんは、「医師の3割は“ヤブ”」だと言い切る。

「極端な話をすると、医師免許さえあればどんな治療をしても明らかな過失がなければ医師は罪に問われない。だからこそ医師は常に研鑽を積み、最善の医療を患者に提供できるよう知識と技術をアップデートしておく必要がありますが、旧態依然とした治療を行う医師も珍しくありませんし、知識以前に、明らかに適性がない医師もいます。

しかし問題が生じても、病院にも一般企業と同じく解雇制限があるため、よほどのことがない限り解雇できません」(金子さん)

要するに、ミスを連発する「ヤブ医者」や適性も知識もない「バカ医者」は私たちが考えている以上に多く存在するうえ、病院はそれを教えてくれないどころか、隠そうとするのが現状なのだ。危険な医師を見分けて避けるための方法を知らなければ、病気が治るどころか死と隣り合わせになるかもしれない。

医師から見ても「不器用な医師」

まず初めに知っておくべきは、医師の腕に左右されやすい、つまり特に「ヤブ医者」の存在に気をつける必要のある領域がどこかということ。中央大学大学院戦略経営研究科教授で医師の真野俊樹さんは、手術を伴う治療を筆頭に挙げる。

手術を伴う治療は医師の腕に左右されやすい(写真/PIXTA)
写真6枚

「がんや心疾患など、生命にかかわることが多い病気の場合、基本的には学会のガイドラインに沿って治療方針や手術の術式・手順が決まります。だからこそ、医師の力量で内容にはおのずと差が出てきます。腕利きの外科医に師事して腕を磨いたドクターと、症例数が少ない病院でほとんど手術をしていないドクターでは体への負担や予後の経過がまったく違う」

みつばち大阪クリニック院長の橋本惠さんも「手術の腕は命にかかわる」と声を揃える。

「実際に手術を見ていても、不器用な医師がいるのは事実。手術は多かれ少なかれ体にメスを入れるわけですから、下手な医師にあたれば最悪の場合、命を落とす可能性もある。循環器内科や消化器内科でカテーテル治療を行うときも、血管に穴を開けてしまう事故はよく聞く話です。また、最近では整形外科や脳神経外科で腰椎を手術する治療が増えていますが、神経自体を傷つけてしまい、大きな後遺障害を残すことも珍しくありません。

腹腔鏡手術も事故が多い。私の親戚も有名な病院で腹腔鏡手術を受けましたが、担当した医師の不手際で胆管に穴が開いて胆汁が漏れるようになり、いまも定期的に通院しています。手術を伴う治療になった場合は執刀医の経歴や手術成績は確認した方がいいかもしれません」

処方薬の扱い方にも力量の差が出る

体に直接負担がかかる手術と比較すれば投薬や生活指導が治療のメインとなる高血圧や糖尿病は、多少の「ヤブ医者」にあたったからといって即重篤な状態に陥るわけではない。しかし、気づかないうちに体が蝕まれているケースもある。

「血圧や血糖値など治療の目標となる基準値や薬は、学会のガイドラインで定められていますが、実際の投薬治療は、年齢や体調を見極めてコントロールする必要があります。しかし、一切調整をせず、数値だけを見て90代の高齢者にも抗コレステロール薬や降圧剤を10種類近く処方するような事例が少なくない。

また、すぐに専門病院で入院が必要な状態の糖尿病患者を、町のクリニックが内服薬を処方しながらだらだらと“様子見”しているような医師も存在します」(金子さん)

橋本さんは「処方薬の扱い方にも医師の力量が出る」と話す。

医師が選んだ処方薬によっては体調が悪化してしまう場合がある(写真/PIXTA)
写真6枚

「特に抗うつ剤や睡眠薬など、脳の中枢に作用する精神系の薬は、副作用で極度の食欲不振や誤嚥性肺炎を起こすこともあるので注意が必要です。医師に副作用や合併症に対する知識が不足していれば、薬の影響で体調が悪化しても気がついてもらえず、危険な状態に陥る可能性は充分にありうる。処方される薬の数や、処方後の様子を気にかけてくれるかどうかはしっかり見極めた方がいい」(橋本さん)

医師の腕や知識不足によって病気そのものが見落とされ、治療に辿り着かないケースもある。

「特に健康診断を専門で行う病院には、経験の浅い医師が多く潜んでいて、精度の低い健診や検査が行われ、見落としが頻発しているのが現状です。例えば胃がんを調べるバリウム検査は腸閉塞や放射線被ばくなど体への害が大きいわりにがんの発見精度が低く、本来であれば胃カメラを優先して行うべきです。にもかかわらず、いまだにそうした検査を平気で行うのは患者の都合をまったく考えない健診機関側の都合のためです」(金子さん)

さらには、がんの疑いがあっても、患者に伝えない医師すらいると金子さんは続ける。

「マンモグラフィの結果、乳房にしこりがあることがわかったのに、乳腺科の受診を促したり、紹介状を書いたりすることなく、結果が書かれた紙だけを返しておしまいということもある。私の知り合いでも結果票にがんの疑いを意味する『乳房腫瘤』という記載こそあったものの、医師からは再検査の案内も説明もなく、危うくそのまま放置するところだったと話す人がいました」

後編へ続く

医師の腕によって病気や治療が左右される
写真6枚
ヤブ医者のいない病院の5つの特徴
写真6枚

※女性セブン2024年10月10日号

関連キーワード