不調を治すために世話になった病院がヤブ医者だったら……考えたくもないが、現実には十分にあり得ることだ。そんな目に合わないためにはどうすれば良いのか? 「ヤブ医者」「バカ医者」を見分ける方法をこっそり明かします。【前後編の後編。前編から読む】
専門医資格の有無を確認する
もし、目の前の医師が信頼に足る存在ではないことを疑った場合、何を根拠に判断し、どう対応すれば不利益から逃れることができるのか。都内の総合病院に勤務する50代の消化器内科医の男性は「まずは医師の経歴をチェックすべし」とアドバイスする。
「病院に勤務する医師は1年単位で雇用契約を結ぶことが多いので、病院側が“この医師は問題がある”と思ったら、契約を更新しません。1~2年ごとにコロコロと勤務先の病院を変えている医師は、何かしら問題を起こして更新を断られている可能性があるので、警戒すべきだと言えます」
経歴を見るときは、臨床経験の長さ、専門医資格の有無も確認しよう。中央大学大学院戦略経営研究科教授で医師の真野俊樹さんが言う。
「医療の質を保つには一定量の経験が必須なので、数年間大きな病院でしっかり勤務した経歴を持つ医師は安心できる。反対に、美容外科のような保険外診療の分野に研修が終わってすぐに行くような医師は、最低限の経験を積めていない可能性があります。
加えて必ずチェックしてほしいのは、肺の病気なら呼吸器、心臓の病気なら循環器など専門医の資格を持っているかどうか。また、手術を受ける際は、病院が公表する手術件数が多いところを選ぶといいでしょう」(真野さん)
ただし、「専門医が1人しかいない病院は受けられる恩恵が中途半端になる」と、みつばち大阪クリニック院長の橋本惠さんは言う。
「大きな病院で治療を受けるメリットは、複数の専門家が意見を出し合って、偏りなく方針を決めてもらえるところにある。また、専門医が多ければ、何かトラブルがあったときにも安心できる。
翻って言えばいくらスタッフが多くても、専門医が1人しかいない病院では医療の司令塔ともいうべき医師のパワーは個人開業クリニックと変わらないということになります。そのたった1人がミスや不適切な処置をしたとしても、周囲の専門外の医師たちにはわからないので同じ種類のミスによる事故が繰り返し起こりやすい環境だと言えるでしょう」(橋本さん)
加えて、病院選びや医師の経歴をチェックする際、ホームページの見た目に惑わされないことも覚えておいてほしいと橋本さんは続ける。
「ホームページやパンフレットの類は、業者にお金を払えばいくらでも見栄えよく作れます。むしろチェックすべきは、手術成績やブログなどで医師がどんなことを発信しているかです。理念をしっかり持って、経験に基づいた考えを持ち、それを時間をかけて自分で文章にまとめ、それまでの手術成績と併せて積極的に発信している医師は信頼できます」
丸椅子と手動ドアにヤブ医者が潜む?
病院の入り口や受付、待合室など、訪問時の見た目から判断できることも少なくない。武田マネジメントシステムス代表で医療コンサルタントの武田哲男さんが解説する。
「古くから“医は仁術か算術か”という議論があります。仁術とは、医療は人命を救うためにあり、患者に謙虚に尽くすべきだという考え。一方で算術は、いわゆる金儲けです。特にコロナ禍以降は、算術で経営重視の医療機関が増え、患者に寄り添わない医師が集まる構造になっています。
そうした病院は徹底的なコストダウンを図り、利益のために患者に負担を強いることを平気で行います。例えばドアがいまだに自動ではなく手動なら、高齢者や障害者の視点に欠けているといえるし、感染症予防の点からもNGです。回転するような丸椅子も転倒リスクがあるので、患者のことを考えていないといえます」(武田さん・以下同)
スタッフが多い病院なら、医師や看護師に「お手洗いに行くにはどうしたらいいですか」などと質問してみるのもいい。
「自分の仕事ではないような態度で『受付に聞いてください』などと言うようなら、信頼できないと考えていいでしょう。病院の方針は、受付を含めたスタッフの態度や身だしなみに表れます」
そうしたスクリーニングを重ね、いい医師を選んだとしてもいざ診察が始まってから“この医師は信頼できないかもしれない”と疑念が生じることもあるだろう。そのときはまず、疑問に思っていることをしっかり伝え、相手の話を聞こう。
「特に手術のように大きな治療を受けるときは、場の雰囲気に流されずに、納得して治療を受けることが重要です。疑問に思ったことを聞いて嫌な顔をするような医師なら、病院を変えた方がいい」(真野さん)
最後は医師との相性も判断材料に
武田さんも「患者には病院を変える権利がある」と声を揃える。
「違和感を覚えたら遠慮なく転院したいと伝えてください。引っ越しや、通院の便の悪さなどを理由にすると、トラブルになりにくい。最悪、紹介状がなくても病院を変えることはできます。その際は新しい病院で、『前の病院はこういったところが苦手だった』など理由を話せば、病院サイドも患者の意向を把握しやすくなります」
ただし、相手も人間である以上、優秀な医師でも患者と行き違いが起きる可能性はゼロにならない。だからこそ、最後は相性も判断材料になる。
「最近は『シェアードディシジョンメイキング(共同意思決定)』といって、さまざまな治療の選択肢の中から、患者と医師が相談して共通のゴールを目指すという考えが一般的になっています。医師との信頼関係は重要なので、いくら腕がよくても説明を上から目線でするような医師は避けた方がいい。医師の意見に流されて治療を選択してしまうと、あとで後悔することにもなる。人任せにせず、相性も腕もいい医師を選んでほしい」(真野さん)
どんな医師に診てもらい、どんな治療を受けるのか。自分でしっかり考え、選択しなければ大切な命は守れない。
(了。前編を読む)
※女性セブン2024年10月10日号