わざわざ金融機関に相談へ行ったのに、気が付いたら不要な商品を買ってしまっていた……。そうした事態を避けるために大切なのは、不要な金融商品を見抜くポイントを押さえ、セールストークに惑わされずに適切な判断をすることだ。そこで、「やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術」(アスコム)を上梓した、シニア投資コンサルタントで独立系フィナンシャルアドバイザーの西崎努さんに、不要な金融商品や金融サービスを見抜くためのポイントと、シニア世代の投資で重要な「資金管理」と「出口戦略」という考え方について教えてもらった。
不要な金融商品を見抜くポイント5つ
投資にはさまざまなスタンスや戦略があるが、シニア世代や多くの投資初心者が基本とすべきは、今後のライフプランをもとに計算した余裕資金を使った、本人が許容できるリスクの範囲内で適切なリターンを目指すシンプルな投資。
例えば、リターンを追求するあまり、リスクの高い個別株にだけ投資をしたり、多少のリスクを取っても問題ないにもかかわらず、日本国債にだけ投資をしたりするような投資戦略は不適切だという。
一方で、金融機関へ相談に行くと、そうした戦略に合わない商品やサービスをすすめられることも多くある。そんなとき、不要な商品やサービスを見抜くためのポイントは次の5つだと西崎さんは話す。
【1】リスクや失敗時の話より、いい話ばかりをする
【2】コストの説明が曖昧で、運用中の費用がはっきりしない
【3】過去実績のよい結果が、将来も続くかのように提案してくる
【4】仕組みが複雑で何度聞いても理解できず、売買の判断がつかない
【5】ライフプランや将来の資金計画を考慮せず、商品提案をする
【1】リスクや失敗時の話より、いい話ばかりをする
投資では、誰だって少ないリスクで大きなリターンを得たいもの。金融機関の営業員もその心理を突き、いかに低リスクで大きなリターンが得られるかを顧客にアピールする。しかし、「投資における大原則は、『リスクとリターンは比例する』ということです」と西崎さん。
例えば期待リターンが年3%の商品と年10%の商品があった場合、10%の商品を買いたくなってしまうものだが、たいていの場合リスクは同じではない。期待リターン3%の商品のリスクが5%、期待リターン10%の商品のリスクが20%だった場合、安定運用をするのであれば、期待リターン3%のほうが適切だ。
「もしかすると年10%のリターンが続く結果になる可能性もありますが、それはリスクが高い投資になるので投資目的が値上がり重視の方が選ぶ投資といえます。『リスクとリターンは一時的に乖離(想定以上の値上がり、値下がり)することもあるが、結局は一定のところに落ち着く』という想定をぜひ頭に入れておいてください」(西崎さん・以下同)
【2】コストの説明が曖昧で、運用中の費用がはっきりしない
投資にかかる費用には、購入時にかかる費用である販売手数料のほかに、運用中にも継続してコストが発生する信託報酬などもある。金融機関で販売されている投資信託の運用コストは年率1~2%程度が多く、投資初心者にとっては大したコストではないように見えるかもしれないが、特に長期投資においては運用コストに敏感でいる必要がある。運用中のコストが高いと実質のリターンが下がり、コストによって運用の損益がマイナスとなることもあるためだ。
「期待リターンが6%だったとしても各種コストが2%かかっていれば、実質リターンが4%です。その結果、再投資に回せるインカムゲイン(配当など、資産を保有している間に得られる利益)の減少につながり、投資信託の魅力の一つである複利運用の効果が低下します。ほんのわずかな違いが5年後、10年後には大きな差になるのです」
【3】過去実績のよい結果が、将来も続くかのように提案してくる
過去の実績がよい商品だと、その後の運用も期待しやすくなってしまうもの。しかし、投資に「絶対」はなく、どんなによい実績がある商品であったとしても、その後もその実績が続くとは限らない。
「ここで大切なことは期待リターンを説明するだけではなく、どの程度のリスクがあり、相場が下落する場合にはどのくらい下がることが想定されるかをきちんと伝えてくれるかどうかです。さらにいえば、年間5%のリターンを期待する場合に投資対象として適切な商品かどうか、他に選択肢がないのかも比較提案してくれているかどうかがポイントです」
【4】仕組みが複雑で何度聞いても理解できず、売買の判断がつかない
個人投資家にとって価値のある金融商品や金融サービスは、できるだけ仕組みがシンプルであることが望ましいが、金融機関にとっては、シンプル過ぎる資産設計は手数料を取りづらくなる。一方、商品やサービスが複雑であればあるほど、手数料の中抜きや水増しがしやすいうえ、アピールする材料も増え、顧客を説得しやすくなる。つまり、複雑な商品ほど、顧客ではなく金融機関にメリットが多い傾向にある。
「もちろん仕組みが複雑で手間やコストがかかっていても、適切なコスト、必要なコストであれば許容することもあると思います。ただ私の経験上では個人に提案される商品で手間暇をかけた仕組みのものでよかったといえる商品はほとんどありません」
【5】ライフプランや将来の資金計画を考慮せず、商品提案をする
運用では「よい投資先となる商品やサービス」を探そうとしがちだが、本来最初にやるべきなのは、「今後の収入や支出」からどれだけの「投資金額」をどのくらいの「投資期間」なら運用に回せるかの確認だ。その状況確認をしたうえで、投資目的を満たす運用収入を把握し、本人が理解できて許容できるリスクの運用商品を選ぶことが大切だ。
「そもそも資産額や生活水準、今後の支出予定などによって運用のやり方は変わってきますし、投資に回せる余裕資金も違えば、選択できる商品もかわります。ある程度資産があるかたの資産運用や管理は人によって最適な方法はまちまちです」