
定年後は仕事をやめて、悠々自適に趣味を謳歌したいと考えている人も多いだろうが、『年金最大化生活』(アスコム)を上梓した社労士みなみさんは、定年後も働いたほうがいいと話す。定年後も働くといいことがたくさんあるからだそうだ。具体的にどんなことがあるのか、詳しく教えてもらった。
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定年後も働いたほうがいい理由とは
「定年後も働いたほうがいいのは、いいことがたくさんあるからです」と社労士みなみさん。具体的には、次の5つのメリットがあるという。
【1】収入が増える
【2】健康保険料を減らせる
【3】健康になれる
【4】元気とやりがいを見つけられる
【5】ちょっとした収入の差でも生活が大きく変わる
「人生100年時代といわれるようになりました。100年生きると考えると、60歳、70歳になったとしても老け込むのはまだ早いのです。これから人生はまだまだ続きます。家に引きこもっているよりも、働いたほうが何かといいことがあります」(社労士みなみさん・以下同)
働くと健康保険料が3分の1に
定年後も働くことのメリットの1つは、健康保険料を減らせることだ。健康保険には、年金受給者や自営業者が加入する国民健康保険(国保)と、会社の健康保険(健康保険組合や協会けんぽ)があるが、一般的には会社の健康保険のメリットのほうが大きい。
例えば、働いた分の年収が106万円、年金が220万円、合計した年収が326万円だった場合、社会保険に加入している人の保険料は単身の人で年5万2800円だ。一方、2024年度の横浜市の国民健康保険料で試算すると、健康保険料は年18万7970円と、3倍以上の差がある。

「なぜ、こんなにも差があるのかというと、協会けんぽや健康保険組合に加入している人は、働いた分の収入(106万円)だけが保険料計算の対象になるからです。そして、なんといっても大きいのが、保険料の半分は会社が負担してくれることです。一方、国民健康保険の人は、働いた収入と年金のすべての収入(326万円)が、保険料算出の対象になります」
働いたほうが健康でいられる
働いたほうが健康でいられるというメリットもある。厚生労働省が2005~2015年にかけて実施した調査によると、働いている人の方が、働かない人よりも、健康を維持し続けられる傾向があったそうだ。
「人生100年時代の今は、60代で老化を意識する人は少なくなってきているかもしれませんが、働かなくなって、日常での活動量が減り、社会との接点が少なくなると、一気に老化が進みます」
厚生年金の加入期間が40年に満たない人は特に働くメリットが大きい
特に、厚生年金の加入期間が40年に満たない人は、定年後も働くことのメリットが大きい。社会保険に加入できる条件を満たしていることが前提で、最低金額の月8万8000円を超えていれば、給与の額にかかわらず年間約2万円上乗せされる「経過的加算」という仕組みがあるためだ。対象となるのは60歳時点で厚生年金の加入期間が40年に満たない人で、60歳以降も引き続き働けば、70歳までの間、厚生年金加入期間が40年に到達するまで経過的加算が付与される。

「すぐに思い浮かぶのは、専業主婦の期間が長かった人たちでしょう。例えば、20歳から10年間会社員として働いた女性がいます。30歳で結婚して、子育てのために仕事を辞め、夫の扶養に入っていました。そして子育てが一段落した頃にパートタイマーで10年間働きました。この女性の60歳までの厚生年金加入期間は20年です。経過的加算は厚生年金の加入期間が40年になるまでつくので、この女性がさらに60歳から10年間働くと経過的加算がつきます」
定年後の仕事の探し方
定年後に働く場合、会社員であれば、今働いている会社で働き続けるのが選択肢の1つだ。定年制を定めている企業の約8割は60歳定年だが、多くの企業が再雇用契約や嘱託契約など雇用形態を改めて、60歳を過ぎても働き続けられるようになっている。
「2025年4月からは、65歳までの継続雇用制度が義務化されるため、働き続けたいと希望すれば65歳まで働くことができるようになります」
ハローワークも活用を
退職後に仕事を探す場合は、最初に行くのはハローワークだ。しかし、ハローワークでの求人検索だけでは納得のいく結果を得られないことも多い。そのため、ハローワークではまず、シニア向け支援を活用することを社労士みなみさんはすすめている。全国300か所のハローワークには、「生涯現役支援窓口」というものが設置されており、ここではシニア世代向けの情報提供や支援を受けることができる。

「この窓口では、シニア世代を積極的に採用する企業の情報を提供しており、通常の窓口よりも高い就職率を誇ります。また、履歴書や職務経歴書の書き方、面接の受け方など、シニア向けの具体的なアドバイスも行っています」
無料で相談できるキャリアコンサルタント
さらに、ハローワークではキャリアコンサルタントに無料で相談できるサービスも提供している。キャリアコンサルタントは、経験やスキルを整理し、適切な職業選択をサポートしてくれる専門化で、自己理解を深め自分の強みを明確にすることで、効果的な就職活動が可能になる。
「能力開発や教育訓練の情報提供、求人検索の支援も行っています。キャリアコンサルティングは、最寄りのハローワークで、無料で申し込むことができます」

◆教えてくれたのは:社労士みなみさん
しゃろうし・みなみ。年金をはじめとする「老後のお金」をテーマに情報発信を行う社労士YouTuber。専門性の高い内容ながら、チャンネル登録者数は17万人を超える。かつては大手銀行に勤務し、投資信託などの資産運用のアドバイスを行っていたが、50代に入って子育てが落ち着いたことをきっかけに、社会保険労務士として開業。知識や経験のないまま投資を始めて失敗する高齢者が多い現状を変えるべく、「年金最大化生活」を提唱している。https://www.youtube.com/@around_retire
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