誰しも老後に豊かな生活を送りたいもの。そのために必要なのは、無駄な出費はおさえ、きちんと貯蓄をし、「ゆとり」を生み出すこと。そこで、『年金最大化生活』(アスコム)を上梓した社労士みなみさんに、豊かな生活のために改善すべき「ゴースト出費」と、60歳からでも1000万円貯金するための方法について詳しく教えてもらった。
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減らすべき「ゴースト出費」
社労士みなみさんは、まず「ゴースト出費」を減らすべきだと話す。ゴースト出費は、今まで何となく支払っていた固定費のなかで、実は支払わなくてもよかったり、出費を抑えられたりするもののことだ。
「例えば、携帯料金に代表される通信費、生命保険、医療保険など、毎月出ていくけど、いくら出て行っているのかを意識する機会の少ないものが該当します」(社労士みなみさん・以下同)
スマホ代をおさえる
ゴースト出費の代表格と言えるものがスマホ代だ。スマホ代は高い人だと1人当たり毎月7000円以上払っており、年間で約8万4000円の出費となる。これを例えば、UQmobileやahamo、Y!mobileなど、大手キャリアのサブブランドに変えるだけで、月3000円以下に抑えることができる。
「ドコモ、au、ソフトバンクといった大手キャリアでないと不安。高齢の人が通信費を減額できないポイントの1つです。そういう人は、大手キャリアが60歳以上の人に向けて行っているサービスやプランをフルに活用しましょう。5分以内の国内通話が無料になるなど、お得なサービスもあります」
生命保険や医療保険も見直す
保険もすぐ見直せるポイントだ。生命保険は一度も見直したことがないという人も多いが、加入後何年も経っている場合に古いプランのまま高額な保険料を支払っていることがある。医療保険も同様で、これまで見直したことがない場合は見直すのがおすすめだ。
「私は、生命保険(死亡保障)は65歳以上で子どもがすでに独立してれば、解約を検討してもよいと思います。けがや病気に備える医療保険も実は必要ありません。子どもが独立した後は、子どもの生活費や教育費などを生命保険で備える必要がなくなるからです」
さらに出費を抑えるなら、シニアだからこそ利用できるものを活用
ゴースト出費に加え、さらに出費を抑えるなら、60歳以上限定のサービスやシニア割引、シニア特典など、シニアだからこそ利用できる仕組みやサービスを活用することも重要だ。
例えば、東京都交通局の「東京都シルバーパス」は70歳以上の都内在住者が都営バス、都営地下鉄、都電などを無料または割引で利用でき、関西私鉄(近畿地方)でも65歳以上のシニア向けに割引や一日乗車券が提供されている。また、東京国立博物館や京都市京セラ美術館、名古屋市科学館などもシニア向けの割引が行われている。
「いろいろなことを安く利用できるのは、65歳以上の特権です。上手に活用すると、現役時代の頃より、お金をかけずに人生を楽しめるかもしれません」
60歳から貯蓄を始めればさらに「ゆとり」が生まれる
ゆとりのある生活を送るためには「貯蓄」も大切だ。老後のために急に2000万円を貯めるのは難しいと感じたとしても、「60歳からでも1000万円貯めることは可能」と社労士みなみさんは話す。社労士みなみさんによれば、貯蓄するために大切なのは収入の額ではなく「黒字体質」であること。60歳で貯蓄がないのは、今の家計に問題があり、「赤字体質」であるからだそうだ。
「それは、老後資金を考える段階ではないということでもあります。老後資金を考えるには、自分のお金の使い方をきっちり見つめ直すことがとても重要です。そして、今の家計を変えることが優先です」
家計簿を使って黒字体質へ
黒字体質に変わるために社労士みなみさんがすすめているのが、家計簿を付けることだ。面倒くさいと感じる場合は、1週間だけでもいいという。
「記録は、家計簿専用のノートでもいいし、普通のノートもいいし、スマホやタブレットの家計簿アプリでもいいです。ムダに気づいたら、今度は1か月家計簿をつけることにチャレンジしてみましょう。1か月やるだけでも、自分のお金の使い方が見えてきます」
生活をダウンサイジング
お金の使い方が見えてきたら、次に行いたいのが年金生活を想定して生活をダウンサイジングすること。現役時代にぜいたくな生活をしてきた人が、年金生活になって収入が激減したからといって、急に生活レベルを下げるのは難しい。そのため、老後の生活を意識して、60歳からは生活をダウンサイジングするのがおすすめだ。
「これは、あくまでも目安ですが、年金生活者の平均的な月の生活費用といわれる25万5000円を意識して、ムダな支出を減らしていくのです。60~64歳の平均世帯月収は約35万円といわれているため、年金生活者と同レベルの生活ができれば、9万5000円の黒字になります」
賃貸住宅に住んでいる場合は自治体の家賃補助を
老後に向けては、住居費も抑えたいポイントだ。年金は夫婦が持ち家で生活することを前提に設計されており、賃貸派にとっては厳しい状況とも言えるが、すぐにできる対策としては、高齢者に向けた自治体の家賃補助を受けることが挙げられる。
「どれくらいの補助が得られるかは、自治体によって異なりますが、おおむね2~3割程度になります。場合によっては、そうした補助が手厚い自治体への転居も視野に入れてみてもいいかもしれません」
◆教えてくれたのは:社労士みなみさん
しゃろうし・みなみ。年金をはじめとする「老後のお金」をテーマに情報発信を行う社労士YouTuber。専門性の高い内容ながら、チャンネル登録者数は17万人を超える。かつては大手銀行に勤務し、投資信託などの資産運用のアドバイスを行っていたが、50代に入って子育てが落ち着いたことをきっかけに、社会保険労務士として開業。知識や経験のないまま投資を始めて失敗する高齢者が多い現状を変えるべく、「年金最大化生活」を提唱している。https://www.youtube.com/@around_retire