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大山のぶ代さん、ピーコさんの事例が教えてくれる「認知症と相続や財産処分をめぐる難題」 財産処分ができなくなり、不動産が国庫に帰属するケースも 

認知症を患っていた声優の大山のぶ代さん
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認知症になったら財産が凍結され、不動産も売却できない。そうした事態に陥らないために、やっておくべきことがある。大切な家族のため、そして何より自分のために、9月に亡くなった大山のぶ代さんと、ピーコさんのケースから学ぶ「本当の対策」とは──。【前後編の前編】

空き家状態が続く大山のぶ代さんの自宅

都内の閑静な高級住宅街の一角に、モスグリーンのタイルの外壁が目を引く一戸建てがある。花壇に雑草はなく、手入れが行き届いていることがわかる。いまにも住人が姿を現しそうな気配はあるが、この住宅に家主が明かりを灯す日はもう二度と訪れない。

そこは9月29日に亡くなった大山のぶ代さん(享年90)の自宅で、2017年に大山さんの夫・砂川啓介さん(享年80)が死去して以降、空き家状態が続いている。

大山のぶ代さんの自宅は空き家状態だった(写真/Getty Images)
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1964年の結婚以来、おしどり夫婦といわれたふたりに転機が訪れたのは2012年のことだった。

「大山さんがアルツハイマー型認知症だと診断されたのです。判明後は砂川さんが自宅で介護を続けましたが、2016年4月に砂川さんが尿管がんにおかされていることがわかり入院を余儀なくされると、大山さんはそのタイミングで介護施設に入所しました。退院後に自宅に戻った砂川さんですが、友人からの“共倒れになるぞ”という助言もあり、大山さんを施設から呼び戻す選択はできなかった。

ひとりには広すぎる自宅からの引っ越しも考えましたが、“もしかしたら妻の認知症が改善して、施設から帰ってくるかもしれない”というかすかな望みからその家に住み続けたのです」(砂川さんの関係者)

2017年7月に砂川さんが亡くなると、夫婦で営んでいた事務所の関係者が砂川さんの「大山さんの帰る場所として」という思いを受け継ぐように、自宅を掃除する姿が目撃されるようになった。だが砂川さんの願いは届かなかった。大山さんは砂川さんの守った自宅に戻ることなく天国に旅立ち、思い出が詰まった住まいは寂しい道を辿る可能性がある。

地元の不動産業者が話す。

「約35坪の土地だけでも、実勢価格は優に1億5000万円を超える物件ですが、売りに出されるなどの話は聞こえてきません。非常に関心が高い物件で、動向に注目しています」

“相続人不存在”として、自宅が国庫に帰属する可能性も

登記上の所有者は、かつて砂川さんが代表を務め、大山さんも取締役に名を連ねていた個人事務所名義だ。だが、大山さんの認知症が進行した2015年に大山さんが役員を退任し、2018年には砂川さんに代わり都内で税理士事務所を営む人物が代表に就いている。

「自宅や土地を今後どうするかを決める権限は、事務所の株主が有しています。おそらく、この税理士は認知症の大山さんに代わる便宜上の代表だった可能性が高く、砂川さん亡き後に大山さんが株を相続して最大株主になったと考えるのが一般的です」(税理士の能勢元さん)

しかし、その大山さんも亡くなった。砂川さんと大山さんの間に子供はいなかった。かねて大山さんには身寄りがないとされており、実際、彼女の密葬に参加したのは砂川さん側の親族ばかりだったという。

相続人不存在の場合は国庫に帰属する場合がある(写真/イメージマート)
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「株の相続権を持つ親族がいない場合は“相続人不存在”として、自宅が国庫に帰属する可能性もあります」(能勢さん)

「ドラえもん」の声の主として親しまれ、砂川さんとの笑顔あふれる毎日を過ごした大山さんの安息の空間の末路としては、悲しすぎる。

「大山さんのケースでは、自身が認知症になって面倒を見てくれていた夫も他界してしまったため、その後の財産の処分が自由にできなくなったように見えます。子供や近い親族のいない夫婦のどちらかが認知症になったら、残った方が適正な財産の処分を決め、遺言書を作成するなど迅速に動いておくべきです。認知症のパートナーがひとり残された後も、その人が不自由な暮らしをしないよう、しっかりと準備しておくべきだったのではないでしょうか」(能勢さん)

「おすぎとピーコ」長続きしなかった弟との同居

一方、大山さんが旅立った9月、かつて一世を風靡したタレントも、認知症で唯一の肉親と離別したまま、この世を去った。「おすぎとピーコ」として人気を博したピーコさん(享年79)が、9月3日に亡くなったのだ。

ピーコさんは、かつて神奈川・横浜市内のマンションで生活していた。

「2021年には、双子の弟のおすぎさん(79才)と短期間ながら同居もしていました。

ただ、ピーコさんもおすぎさんもともに認知症の症状が出て、半世紀ぶりの同居は長続きしなかった。お互い感情の起伏が激しくなり、“たったひとりのきょうだい”なのに、けんかの毎日だったそうです。

結局、2022年におすぎさんが施設に入所し、ピーコさんも昨春、おすぎさんとは別の施設に入所しました」(おすぎの知人)

2人が一緒に暮らしたマンションは、2012年から名義上はおすぎが所有していた。ピーコさんが施設に入ってから5か月後の2023年8月、無人となっていたマンションは売却された。

「おすぎさんは自身が認知症を発症する前は福岡で暮らしていたこともあり、横浜のマンションはピーコさんが代わりに住んでいたくらいで、相続や処分には無関心でした。

元気なうちの意思表示が大切(写真/PIXTA)
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それが仇となりました。

実はおすぎさんには、老後の蓄えがほとんどなかったんです。施設に入所する際に、費用の捻出に苦労しました。同じく認知症の症状が出ていたピーコさんを追い出して、マンションを売却するわけにもいきませんからね。

関係者がおすぎさんに成年後見人をつけ、さまざまな手続きを経てようやく自宅が売却できたそうです。その頃にはピーコさんの認知症もかなり進んでいて、マンションはゴミ屋敷のようになっていました。事前に売却を検討できていれば関係者の苦労も減ったはず。身寄りのない2人がほぼ同時期に認知症になったことで起きた悲劇でした。

ただ、マンションの売却で得たお金は、きょうだい間の扶養義務に基づいて、ピーコさんの施設利用料にもあてられたと聞いています。そこだけは、救いだったといえるのではないでしょうか」(前出・おすぎの知人)

後編では認知症になる前にやっておくべき対策について、具体的に紹介する。

※女性セブン2024年11月21日号

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