フランスで最も有名な日本人パティシエ・吉田守秀シェフ(47才)が手掛ける店が東京・中野に11月23日にオープンする。「リアルなパリのお菓子を届けたい」という、吉田シェフに密着。今の思いを聞いた。
日本の食材を使い、本場フランスの“いま”を表現するお菓子を提供したい
エクレア、カヌレ、モンブラン、シューアラ クレーム――ショーケースに並ぶフランスの菓子たちが、天窓から降り注ぐ光に照らされ輝いて見える。
JR中野駅から徒歩10分。近年、再開発が進むエリアにある、コンクリート打ちのモダンな建物。11月23日、この地にオープンするのがパティスリー「MORI YOSHIDA」の日本初の路面店だ。パティシエを務めるのは、パリ在住の吉田さんだ。
「日本にある食材を使って、本場フランスの“いま”を表現するお菓子を提供したい。ぼくが現地で感じる、リアルタイムのフランスをお伝えしたいと思っています」
パリ仕込みの洗練された立ち振る舞いが印象的な吉田さんは、いまフランス人が最も熱狂する日本人パティシエだ。
静岡の菓子店の三男として生まれた吉田さんは調理の専門学校を卒業後、都内の洋菓子店や高級ホテルなどの勤務を経て、地元静岡に「パティスリー ナチュレ ナチュール」をオープンした。最初こそ順調とはいかなかったようだが、テレビ番組『TVチャンピオン』(テレビ東京系)のケーキ職人選手権で、2006年と2007年にわたって2度の優勝を果たすと、テレビを見た人が殺到し、行列のできる人気店となった。
一念発起し、31才で渡仏
その後、自分のお菓子を追求するために一念発起し、31才でフランスに渡った。
「日本で日本人向けのフランス菓子を出すことに魅力を感じなくなったんです。だったら、日本人のぼくがパリで現地のかたに向けてお菓子を作るほうが面白いと思いました」(吉田さん・以下同)
2010年に渡仏。3ツ星レストランなどで修業したのちの2013年、パリ市内に「MORI YOSHIDA」をオープンした。
無名の異国人シェフだけに苦戦が予想されたが、フランスのスターパティシエとして活躍するクリストフ・ミシャラクが「ここのフランはおいしい」とSNSに投稿して、瞬く間に人気に火が付く。
以後、歴史あるショコラ愛好家団体「C.C.C」の最高位である金賞を2014年から10年連続で受賞し、2018年、2019年にはフランス大手テレビ局「M6」のパティスリーのコンテスト番組で2年連続の優勝を果たした。
華やかなパリの社交界にも認められる存在に
現在も、パリで指折りの高級住宅地である7区に位置する本店は連日の賑わいを見せている。
「最初こそ、“アジア人のパティシエが作るお菓子なんて買わないわ”とわざわざ伝えてくださるマダムもいましたが、フランス人はおいしい、美しいと感じれば徐々に認めてくれます。
現地の人が昔から食べ慣れていて、自分の物差しを持つフランやエクレアが支持されたことが大きな自信になりました」
華やかなパリの社交界にも認められた。フランス日本国大使館のレセプションでゲストのフランス人相手に日本の食材を使ったデザートをふるまうようになり、2018年には外務大臣表彰を受章した。
さらに2018年9月、天皇陛下(当時は皇太子)がフランスを公式訪問された際には、フランスから日本への帰国便の機内食のデザートを任される名誉を得た。
このとき、航空会社からは「抹茶のティラミス」のオファーがあったが、吉田さんは「それは違うのでは」と違和感を抱いたという。
「フランスから帰る飛行機のなかで召し上がる最後のデザートが抹茶のティラミスなのは、ちょっと違うんじゃないかって。それで了承を得たうえで、コーヒーのティラミスに変えさせてもらいました。昔からおかしいと感じたことには『ノー』って言っちゃう性格なもので…(苦笑)」
追っかけファン”が大挙して押し寄せることも
気さくなキャラクターと甘い見た目があいまって、ファンが多いのもうなずける。今年9月、日本橋三越本店で開催された「フランス展2024」に出店すると、待ち時間180分の長蛇の列が連日できた。ほかにも年に一度開催されるチョコレートの見本市「サロン・デュ・ショコラ」など、吉田さんが出店するイベントには“追っかけファン”が大挙して押し寄せ、耽美な菓子に舌鼓を打ちながら、吉田さんとの会話を楽しむ。
「昔はイケメンシェフって言われることが嫌だったんですけどね。いまはそう言っていただけるならありがたいなと思っています」
今年9月に、人気番組『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS系)でコンビニスイーツの審査員を務めた際は、ある商品に7人の審査員のうち1人だけ不合格を出してネットを賑わせた。語り口はソフトだが、揺るぎない信念を持つところも吉田さんの魅力なのだろう。
そんな彼にとって、初の路面店は大きなチャレンジになる。
「頑張っているシェフもたくさん知っていますが、いまの国内のフランス菓子は低迷していると思います。だからこそぼくはフランスで長年かけて学んだものを提供して、本場のおいしさを伝えたい。
フランスの食材を用いて本物を提供するのは当たり前なので、日本で手に入りやすい食材を使って、リアルタイムで変化するフランスを表現することに意味があると思っています」
12月初旬には、本店のあるパリに一時帰国するという吉田さん。「会いに行けるイケメンシェフ」を一目“味わいたい”人は、早いうちに新店を訪れてみてはいかがだろうか。
◆「MORI YOSHIDA」
住所:東京都中野区新井2-30-7営業時間:
11月20~22日 プレオープン 11:00〜15:00
11月23日グランドオープン 11:00~19:00
(売切れ次第、閉店)
定休日:火曜・水曜
※女性セブン2024年12月5日号