国内で約1480万人もの患者がいるという腎臓病。“沈黙の臓器”といわれ不調を自覚しにくいが、腎機能の悪化は血管を傷め、脳卒中や心筋梗塞を招くという。「寿命を決める」という腎臓の働きをおさらいし、養生法を知ろう。
健康寿命を司る腎臓の役割とは
これからの季節は肺炎や胃腸炎に気を配り、更年期を過ぎれば骨粗しょう症や膀胱炎のリスク……年を重ねると、いくつもの病が姿を現すけれど、「腎臓」の健康状態を意識することは意外に少ないかもしれない。そもそも、腎臓はどのような機能を持つ臓器なのか。
「一言でいえば、血流にのって運ばれてくる体内のさまざまな老廃物を濾し出し、尿を作って、体外に排出する働きをしています」と話すのは、埼友クリニック外来部長を務め、腎臓に詳しい高取優二さんだ。
高取さんは、「腎臓には健康長寿を司る重要な役割がある」と続ける。
「長生きのカギを握る臓器は何か、と聞かれたら私は真っ先に腎臓を挙げます。腎臓は体内の水分バランスを調節したり、ナトリウムやカリウムなどの電解質のバランスを整える働きがある。電解質のバランスが崩れると、高血圧や手足のしびれ、不整脈など、さまざまな不調が生じ、心不全など重篤な病につながるケースもあります。
また、食品に含まれるビタミンDを活性化し、カルシウムが体に吸収されやすいようにして、硬く強い骨を作る手助けをしています」(高取さん・以下同)
人は、気候や気温などが目まぐるしく変わる環境で生活する。そうした変化に左右されないために、腎臓が体のバランスや健康状態を管理しているのだ。
ほかにも、腎臓の重要な役割として血液をきれいな状態に保つことを挙げる。
「血液を弱アルカリ性に保つことで病気に対する抵抗力などの防御機能を高めたり、貧血が進んだときに酸素を全身に行き渡らせるように働くのも腎臓の役割です。そして、腎臓に集まってきた血液をふるいにかけ、全身にきれいな血液を循環させています。まさに、腎臓は“血液の仕分け人”といえる臓器なのです」
発見が遅れると透析が必要に
腎臓病治療の研究を行う東北大学名誉教授で、山形県立保健医療大学理事長・学長の上月正博さんも、「腎機能の低下がさまざまな病気のリスクになる」と警告する。
「腎機能が低下すると、体内にカリウムや血液尿素、窒素などの老廃物や毒素がたまりやすくなります。特に、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の患者さんは、老廃物によって血管が狭まりやすくなるため、動脈硬化のリスクが高まります。さらに、老廃物が脳に回ると、意識障害につながることもあります。
こうした不調が重なると、やがては脳卒中や心筋梗塞、狭心症などの心血管疾患の原因になるため、腎臓を健康に保つことは寿命に直結します」
これほど重要な役割を果たす臓器にもかかわらず、腎臓は“沈黙の臓器”といわれ、著しく機能が低下しなければ自覚症状はほとんどない。機能が悪化すると、むくみや息切れ、だるさなどの倦怠感、血尿といった症状が出るため体調のちょっとした違和感を見過ごしてはいけない。
腎臓病に70代の3分の1、80代の2分の1が罹患
この10年の間、腎臓病の患者は国内だけで約150万人も増加しており、現在では約1480万人いると考えられている。
「腎臓病は70代の3分の1、80代では2分の1が患っているといわれる身近な病気です」(上月さん)
発見が遅れると透析が必要になるケースも多いため、日頃から腎臓をいたわり、“腎臓力”を鍛えることが健康寿命の延伸につながる。
ハム、ソーセージは×、塩は天然塩を
腎臓の状態を良好に保つためにまず気をつけたいのは、日常的に口にするもの。
「摂取を避けた方がいいものの筆頭格は食品添加物で、特に無機リンは腎臓の大敵です。ハムやソーセージなどの食肉加工品のほか、コンビニ弁当、ファストフード、カップラーメン、菓子パンなどにも多く含まれています」(高取さん・以下同)
そもそも、リンは人間が生きていくうえで必須のミネラルのひとつで骨格を作るなどの重要な役割もある。ところが、過剰に摂取するとカルシウムを体外に排出させてしまうため、骨がもろくなり、骨軟化症のリスクが高まってしまうのだ。
「自然な食材に含まれる有機リンは20~40%だけ吸収されるのに比べ、無機リンは90%以上が吸収されます。リンは腎臓から排泄されますが、過剰なリンを排泄する際に生成される物質が血管を傷つけ、炎症の原因となります。
また、塩分の過剰摂取は腎臓に大きな負担をかけます。塩を使うなら、一般的な食卓塩ではなく、ミネラルを多く含み、塩分濃度が低い天然塩にしましょう。天然塩に変えるだけで、塩分制限と同じような効果が得られます」
加齢とともに、骨や筋肉を作るためにたんぱく質の摂取が推奨されるが、これも摂取量には要注意。摂りすぎたたんぱく質は腎臓で代謝され尿として排出されるため、過剰摂取は腎臓にとって負担となる。
「積極的に食べてほしいのは野菜や果物などの植物由来の食べ物です。ブロッコリーや果物に含まれるビタミンCや、玉ねぎに含まれる老化した細胞を除去するケルセチンは、腎機能を適切に保つ働きがあります」
痛み止めは控えて、室温は18℃に
生理痛や頭痛など痛みが現れると頼りがちなのが痛み止めの薬だが、上月さんは、過度な服用は控えてほしいとアドバイスする。
「痛み止めに含まれるアスピリンなどの成分は、腎臓の血流を促進するプロスタグランジンの合成を阻害します。腎臓病を患っている場合、痛み止めをのみすぎることで段階的に腎機能の働きが落ちていき、心不全に陥ることもあるのです。
特に、何日も連続して服用すると腎機能低下のリスクが高まってしまいます。痛みが強いときは仕方ありませんが、のむなら短期間にとどめてください」
ひざの痛みや腰痛を和らげるため、湿布を貼ったり、軟膏を塗る程度ならそれほど気にする必要はないというが、むくみが生じるなど違和感を覚えたら医師や薬剤師に相談しよう。
また、上月さんは冬の室温の管理が大切だと説明する。WHOが定める『住まいと健康に関するガイドライン』は、子供や高齢者、慢性疾患を患う人には18℃以上の室温を推奨している。気温が下がると血圧が上昇しやすく、腎臓にかかる負担が増えるという。
「就寝前に暖房を切ってしまい、早朝になると部屋が凍えるような寒さになるのは危険です。腎臓はもちろん、ほかの臓器にも負担をかけますから、暖房や毛布などで適正な温度に調節することが大切です」(上月さん・以下同)