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《老後資金を貯めて後悔した実例》「財産を巡って子供たちが険悪に」「資産狙いで詐欺の危険」…専門家「貯金や定年後も働いていれば、大きな額を貯める必要はない」

電話をかけながらATMを操作するシニア女性
老後に備えお金を貯めることにやっきになっている人も多いがトラブルにも気をつけたい(写真/PIXTA)
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物価は高騰する反面、年金が減り続けるいま、老後に備えお金を貯めることにやっきになっている人も多い。しかし、それを使い切って死ねる人はほとんどいない。必死に貯めているその「老後資金」が不幸を呼び寄せてしまうパターンも多いようだ。実際にあった老後資金を巡るトラブルをもとに、回避術を知っておこう。

お金さえなければ悲劇は起きなかった

貯めたお金そのものが不幸の種になってしまったケースもある。現役時代から老後に備えて堅実に貯金してきたTさん(68才)がため息をつく。

「若い頃から夫婦で頑張って貯めていたので、貯蓄は3000万円を超えました。ところが、それを知った子供たちがお金の無心をしてくるようになった。旅行や外食に誘ってくれるのはうれしいのですが、支払いはいつも私たち。“お財布”としてしか見られていないと思うとショックです」

65~75才は高齢でも元気な「黄金期」であり、貯めたお金は子供や孫を喜ばせるよりも、自分自身の楽しみに使うべきなのだ。

「『老後の楽しみ』こそ、元気なうちにお金をかけて楽しみましょう。例えば、スキーが趣味なら雪質のいいところまで旅行して滑る、テニスが好きなら道具にこだわってみる。そこで同じ楽しみを持つ友人ができれば、それこそが財産になる。ボランティアなどの地域活動や学び直しなどもおすすめです」(Kさん)

資金のある高齢者は詐欺にも注意したい

とはいえ、せっかくの老後資金を友人や趣味につぎ込みすぎてしまう人もいる。Nさん(46才)の父がそうだ。

「母に先立たれ、経営者だった70代の父が30代の女性に6000万円も貢いで逃げられてしまい、頭を抱えました。“絶対に詐欺だから警察に行こう”と言っても“彼女は苦労していたんだ”と、むしろ満足げです。余分なお金がなければ、妙な女に騙されることもなかったのに…」

Nさん(75才)は、老後の生きがいだったはずの地域活動の場で“狙われた”という。

「老後のお金の不安がなくなり、せっかくだから社会貢献しようと、夫婦でボランティアにハマっていました。一度、手伝っている団体に数十万円を寄付したら、どこから広まったのか、次から次へといろいろな団体が寄付を求めて家に押しかけてくるように。いまは怖くて、もともと所属していた団体にも顔を出さなくなりました。趣味も仲間も失って、寂しい毎日です」

お金を持っている高齢者は、投資詐欺や特殊詐欺にも狙われやすい。Oさん(72才)は切実だ。

「妻が家の老朽化につけ込んで不当または不要な高額の工事を契約させる『点検商法』に騙されたのです。“屋根の瓦が傷んでいて雨漏りするかも”“床下にシロアリがいる”など、自分では見えないところの不具合を指摘されて気が動転したんでしょう。それを私に隠したまま取り返そうと、今度は投資詐欺に引っかかって、総額で3200万円を失いました。ショックのせいか、妻はこの頃ボーッとしがちで、認知症のような症状まで出てきています」

親の残したお金で家族がバラバラに

「残ったお金が子供や孫のものになるなら、使い切れなくてもかまわない」と考える人もいるだろうが、親が残したお金で家族が崩壊してしまう例もある。

畑だった土地が公共事業の建設予定地になって莫大な補償金を手にしたYさん(73才)は、子供たちの「争族」をいまから心配している。

「娘も息子も、この20年親の存在なんて忘れたようにほとんど連絡もよこさなかったくせに、お金が入ったとわかった途端に頻繁に家に来るようになって、やれ“困っていることはないか”“家の掃除をしようか”と、張り合うように私のご機嫌取りに必死。私が死んだらどうなることかと、不安で仕方ありません」

そんな不安が現実となったのは、Fさん(56才)。父の死後、骨肉の争いに直面した。

「父の貯めていた1500万円の遺産分割を巡る姉と兄の争いは、それは醜いものでした。最後には母の住む実家まで処分して現金化し、お金だけ分け合って、きょうだいはほぼ絶縁状態。母は私が引き取りましたが、母は財産を残した父のことまで恨むようになり、毎日が苦しいです」

相続準備をせずにお金だけ残せば、争族は避けられない。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。

「財産分与の際の親族間の腹の探り合いは、仲がよくても消耗するもの。たとえ相続税がかからない金額でも、遺言書を用意するなどの対策を取っておくべきです」(三原さん)

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