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2040年には高齢者の約15%が認知症になると推定されている日本。「私もいつか認知症になるのかしら…」と不安に駆られる人に朗報が。世界的医学誌が報告した「14のリスク」を回避すれば、健康に生活を送れる可能性がグッと上がる。行動を起こすのに早すぎるも、遅すぎるもない。ボケたくなければ、いますぐ実践!
認知症の予防は大きく2種類に分けられる
2024年夏、イギリスの医学誌『ランセット』の専門家委員会が、14の認知症リスク要因を発表した。報告書によれば、この14項目のリスクを取り除くことで将来の認知症リスクを45%予防できるという。2020年の報告では12項目だったが、最新版では新たに「高LDLコレステロール」、未治療の白内障などによる「視力障害」が加わった。おくむらメモリークリニック理事長で脳神経外科医の奥村歩さんが解説する。
「この論文はメタアナリシスといって、世界中の複数の論文を統計的に処理したものです。『難聴』『高血圧』など14項目に分けて、認知症予防の可能性が示されています」
奥村さんによれば、認知症の予防は大きく2種類に分けられるという。
「1つめは、アルツハイマー型認知症の発症原因である有害物質『アミロイドβ』を脳に蓄積させずに除去すること。2つめは、脳のシナプス(神経細胞のつながり)を強化して『認知予備力』を高め、認知症発症を抑制することです。ランセットの項目は両者にアプローチしています」
各項目は「若年期」「中年期」「高齢期」に分けて論じられている。14のリスクの詳しい内容と対策を読み解く。
【1】教育機会の不足
まずは若年期の「教育機会の不足」だ。報告書によれば、幼少期の教育レベルが低い人ほど、認知症の発症リスクが高いという。だが、何才からでも対処法はあると奥村さんは断言する。
「若いときに教育を受けた人ほど、大人になっても読書をするなど脳への刺激が多い環境にいるので、脳の神経細胞が活性化しやすいというのが理由です。認知予備力を高めるには、学歴そのものは重要ではありません。年齢を重ねても読書や学びを生活に取り入れて脳を使えば、認知症を予防できます」
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが続ける。
「日常的に脳トレやクロスワードパズルなどを行えば、テレビを見るだけの生活をするより認知症リスクを20~30%減らせます」
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【2】難聴
認知症のリスク要因45%のうち、難聴が影響する割合は7%と高い。中年期に難聴があると、将来の認知症リスクが約2倍に上昇するというデータもある。奥村さんが説明する。
「耳が遠いと会話が難しくなり、脳に新しい情報が入る機会が減る。外部からの刺激が少なくなると、認知予備力は低下します」
対策は騒音にさらされる時間を減らすことだ。ヘッドホンやイヤホンを長時間使い続けるのは避けて、必要に応じて補聴器も検討しよう。
【3】高LDLコレステロール
新たに加わった「高LDLコレステロール」も、7%とリスクの割合が高い。
「アミロイドβは毎日脳内に発生していますが、若いときであれば血管の壁から脳の外に排出されます。しかし加齢とともに動脈硬化が進むと血管の働きが悪くなり、アミロイドβが脳に蓄積して認知症発症につながります。
高LDLは動脈硬化の原因となるため認知症リスクとされたのでしょう。ただし、LDLは脳の神経細胞を作る材料でもあるので、薬で下げすぎるとかえって認知機能を下げかねない。特に高齢者は無理に下げる必要はありません」(奥村さん)
室井さんが言う。
「地中海食のように健康によい食生活は、LDLコレステロールを下げるので必然的に認知症リスクが低下します」
【4】糖尿病
糖尿病のリスクは2%。加藤プラチナクリニック院長で認知症が専門の加藤俊徳さんが解説する。
「糖尿病になると全身に代謝異常が起き、血流の悪化や炎症が起きます。結果として脳からアミロイドβが除去されにくくなり、認知症のリスクが高まります」
糖尿病は男性に多いイメージだが、女性も更年期以降は糖尿病のリスクが高まる。ただし、年をとってからの低血糖も、認知症のリスクを上げることがあるので注意が必要だ。
「適正な血糖値は年齢で変わります。血中のブドウ糖と結合するヘモグロビンの割合を示す『HbA1c』値の正常値は、中高年までは6未満ですが、75才以降になると7までは許容されるべき。血糖(ブドウ糖)は脳のエネルギー源であり、高齢で低血糖になると認知機能が低下する人も多いです」(奥村さん)
【5】高血圧
高LDLコレステロールに糖尿病、高血圧と、生活習慣病は認知症のリスクを高めるといってよい。
「血圧が高いと動脈硬化が進行するので、アミロイドβを脳から除去しにくくなります」(加藤さん)
ただし血糖値と同様、75才以降は基準をゆるめに考えるべきだ。
「年をとると健康な人でも動脈硬化が進み、全身に血液を送るために自然と血圧が上昇します。安易に下げすぎると、脳に血液が届かずに認知機能が低下しやすいのです」(奥村さん・以下同)
【6】うつ病
うつ病も認知予備力を低下させる。
「65才までにうつ病歴が2年以上ある人は、老後に認知症になるリスクが2.5倍になるという報告がある。うつになると気力が失われ、読書や外出の機会が減少するので、脳への刺激が減るからだと考えられます」
室井さんは、うつも脳の病気だと指摘する。
「うつ病も脳にダメージを与えるので、認知症を発症しやすくなる。うつ病に長くかかるとストレスホルモンのコルチゾールの過剰分泌により、海馬の萎縮や炎症反応が起きやすいと報告されています」
うつになったら、早期に治療を受けることが何より大事だ。
【7】頭部外傷
報告書は、ラグビーやアメリカンフットボールなど頭を打つ機会が多いスポーツでは、頭を守る保護具の着用を徹底すべきだと指摘。
「昔から“頭を打つとボケる”といわれていましたが、あれは本当です。ほかにもボクシングや柔道、サッカーのヘディングなどで慢性的に頭を打つと神経細胞の細い繊維に傷がついて、認知症になりやすい」(奥村さん・以下同)
当然ながら、事故や飲酒による転倒にもくれぐれも注意が必要だ。